住宅ローンを借り入れた経験がある方は、その時に団体信用生命保険(以下、団信)についても色々と検討したでしょうか。当たり前のように何も考えずに、団信に加入しませんでしたか。私も若かったこともあり、あまり考えずに書類にサインした気がします。現在は保険の加入の際には慎重に検討する方がほとんどだとは思います。団信も保険ですので、慎重に考えたいものです。

団信とは

団信に加入することによって、債務者に万一のことがあった場合、保険金が残りの債務に充当され、以後の返済が不要となる制度です。ただし、適用となるケガや疾病には一定の条件があります。

団信に加入したら、他の生命保険を見直してみよう

一時期、生保の見直しが社会ブームになり、駅前の広場などでもテントを張って相談業務が行われていた時期もあります。経済が低迷して、加入している保険の保険料が負担になったこともありますが、外国資本の生命保険会社が日本の市場に参入するようになったことも一因です。多くの日本人が勧められるままに過度の保険に加入しているのに目をつけて、ライフプランニング等の手法を駆使して、見直しのために自社への乗り換えを強力に推進しました。

団信はほぼ強制加入ですので、ほとんどの方が加入すると思います。債務者に万一のことがあった場合は、残債は保険で弁済され、残された家族は借金のない住まいに住み続けられます。その他の生命保険などに加入していれば、当座の生活費も何とかなるでしょうし、配偶者が働いて収入を得ることもできます。

反対に賃貸住まいで一家の大黒柱がなくなってしまった場合、遺族はその後も家賃を支払っていかなければなりません。生活費の中で、一般的に家賃が占める割合はかなりの割合になるはずですので、その負担は相当なものです。

したがって家賃の心配がなくなる分、他の生命保険等の削減は検討の余地が生まれます。

団信で守れないリスクとは?

団信の重要性はますます高まっています。高度成長期には建物の価格も上昇し、中古物件といえども、万一の場合に住まいを売却しても売却価格から残債を支払えました。しかし低成長時代には、不動産の価格も上昇しません。建物が経年劣化していくのは宿命で、特に日本は中古物件の市場が熟成されていず、特別な物件を除いて評価が実際の価値に比べて低くなってしまうのが現状です。

したがって債務者が死亡した時などのために残債を弁済してくれる団信は重要で、保障範囲は拡大する傾向にあります。フラット35も2017年10月より団信が金利に組み込まれるタイプに変更になり、保障範囲も拡大しました。

それでも団信の内容を精査して保障しきれない範囲をしっかりと把握し、対処方法を考えておくことは重要です。特に、働けないけれど団信の対象ではないケースや、連帯債務者になっている配偶者への保障は要チェックです。

フラット35の団信はどう変わったか

時代のニーズを受けて、2017年の10月より、フラット35の団信の制度が変わりました。それまで任意加入でしたが、金利に保険料が組み込まれるようになり、保障の内容も下記のように大きく変わりました。

【団信】
高度障害+死亡

新制度
身体障害保障+死亡

【3大疾病付き】
3大疾病+高度障害+死亡

新制度
介護保障+3大疾病+身体障害保障+死亡

では、上記の「高度障害」と「身体障害保障」や「介護保障」はどのように違うのでしょうか。

身体障害保障

身体障害者福祉法による身体障害者手帳2級の交付を受けている場合、「下半身がマヒし手足がほとんど機能しない」、「視力が低下し矯正後の視力が一定範囲以下である」、「両耳の聴力が低下し、一定のレベル以下」などのケースは、今まで高度障害の基準を満たしていないケースが対象となっています。身体障害者手帳1級の保持者で、「ペースメーカーを装着し日常生活が極度に制限された」、「人工透析を受けていて、日常生活が極度に制限されている」等のケースも対象となりました。これらのケースは、現実的に今まで通りに仕事を続けることが困難で返済に支障をきたすケースですが、今までは団信の対象ではありませんでした。

介護保障

保障開始日以後の障害や疾病により、公的介護保険制度の要介護2以上に認定された時、または保障開始日以後の障害や疾病により、所定の要介護状態が180日以上継続した場合などに適用されます。40歳未満の方で、公的介護保険の対象にならない方であっても保険金が支払われるケースがあります。

新制度によって、以前よりはるかに安心して住宅ローンを借り入れることができるようになりました。ただし仕事によっては、上記規定に満たないけれど働けないというケースはあると思います。そうした状況では転職も難しいと思いますので、今の仕事と保障範囲を照らし合わせて、不足分はどうするかを事前に考えておきましょう。また、それぞれのローンに付随している団信によって多少保障内容が違います。

保障範囲をきちんと把握することが重要

賃貸か持ち家か、どちらが得かは昔から思い出したように時々議論になるテーマです。その都度、トータル的な出費の比較がされていますが、お金の面では大差がないという結果のようです。持ち家の場合は家という資産が残る一方、災害リスクがあります。しかし、最大の持ち家のメリットは団信だと思います。

災害は地域や建物を選ぶことによって、ある程度回避できます。万一の場合にローン負担のない住まいが残るメリットは少なくありません。団信の保障と不足部分を把握して、安心できるローンを組みましょう。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。