住宅ローン控除は息の長い制度です。日本人の多くは自分の家が欲しいと思い、多額のローンを借り入れて手に入れることになります。その負担の緩和だけではなく、多くの方が対象となるだけに、政府の景気対策の一環として位置づけられてきました。多くの方が利用する住宅ローンですが、住宅ローン控除は単に「税金が戻ってきた」だけでなく、その戻ってきたお金の活用次第で、将来への安心感に差がつかないとも限らないのです。

住宅ローン控除の概要

住宅ローン控除とは住宅ローンを借り入れた場合に、年末にその残高があれば、所得税を減額できる制度です。対象となる主な要件は下記のとおりです。

【適用要件】
◆2016年4月1日以降に一定の居住用家屋の新築、取得または増改築を行ったこと
◆新築、取得または増改築に伴い一定の借入を行い、年末の残高があること
◆新築、取得または増改築をした日から6ヶ月以内に居住の用に供し、控除を受ける年の12月31日まで居住していること
◆控除を受ける年の合計所得が3千万円以下であること
◆他の特例等を受けていないこと(買換えの損失の繰越控除や譲渡損失の繰越控除は併用可)
◆返済期間が10年以上の住宅ローンの年末残高があること

【適用住宅】
◆床面積が50m2以上であること
◆床面積の1/2以上が居住用であること
◆中古住宅の場合は築20年(耐火建築は25年)以内、または耐震基準に適合していること
増改築の場合
◆特定の増改築(所定のバリアフリー改修工事、省エネ改修工事、多世帯同居改修工事)であること
◆工事費用が100万円以上であること
◆工事後の床面積が50平方メートル以上であること
◆工事費用の1/2以上が居住用であること
◆既存住宅の特定の改修をした場合の税額控除の特例を受けていないこと

住宅ローン控除の手続き

控除を受ける年分の確定申告書を、納税地の税務署に提出します。

必要書類
・住宅ローンの年末残高証明書
・家屋の登記事項証明書(または請負契約書の写しや売買契約書の写しなど)
・マイナンバーカード(またはマイナンバー通知カード等)の提示、写しの添付
・給与所得の源泉徴収書(給与所得者の場合)

2年目以降の手続きの場合
・給与所得者は住宅ローン年末残高証明書を提出すると、年末調整により適用されます。2年目以降の確定申告は別の申告事項がない限り不要です。
・事業者の場合は住宅ローン年末残高証明書とともに確定申告により適用されます。

実際の住宅ローン控除の概算と活用

事例:借り入れ3,500万円、年収500万円

→独身の場合…所得税≒19.5万円/住民税≒29.5万円
19.5万円<3,500万円(初年度残債を3,500万円として)×1%
住民税課税総所得×7%≒20.5万円>13.6万円
19.5万円+13.6万円=33.1万円

→専業主婦の妻+未就学児2児の場合…所得税≒8.9万円/住民税≒18.9万円
19.5万円<3,500万円(初年度残債を3500万円として)×1%
住民税課税総所得×7%≒13.6万円=13.6万円
8.9万円+13.6万円=22.5万円

※社会保険料等は概略ですので税額は多少誤差があります。 実際はそれぞれの年末調整後の明細からおおよその目安はつくと思いますので、計算してみてください。

優遇分は別通帳で管理して貯蓄へ

ここで重要なことは、住宅ローン控除を受けた金額が日常の生活費の中に消えてしまわないことです。10年間で数百万円にもなるかもしれない金額をプールしておけば、より有効に活用できるはずです。

・35歳で35年ローンであれば、繰り上げ返済等によって60歳までの完済は不可欠です。
・頭金に預金をはたいてしまったのであれば、大いに節約して当座の現金を確保しなければなりません。

住宅という大きな消費をしたのですから、それ以外の消費は押さえて万一に備えましょう。住宅ローン控除額だけでなく、金利の優遇を受けた分や臨時収入などは別通帳へ振り込んで、繰り上げ返済の資金や、万一の場合の返済資金や生活資金に充てられるように管理してください。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。