投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。前回は「循環と構造変化」について解説しました。

  • 「相場のみかた」を実例として理解していますか?

今回はもう少し具体例をお話ししましょう。

IT革命と株価

前回も少し触れたIT革命と株価について、興味深い話があります。第7回「アナリストの予想を鵜呑みにしてはいけない理由」で、マエストロとも呼ばれた米FRB(連邦準備制度理事会)のグリーンスパン元議長が、IT株バブルに警鐘を鳴らしながらも、バブル崩壊のタイミングを読み誤った話を紹介しました。ただ、IT革命にいち早く気付いたのも、グリーンスパン元議長でした。

優秀なエコノミストだったグリーンスパン元議長は在任当時も、無数の経済データをチェックすることを日課としていました。そして、1990年代の中ごろに、製造業に比べて労働生産性が伸びにくいとされるサービス業において、労働生産性が顕著に向上している可能性に気付いたのです。そして、それが情報機器の性能向上、後に言うIT革命に端を発していることを探り当てました。

90年代中ごろまで低迷していた米国経済は、主にIT革命によって復活を遂げました。1995年末に5,000ドル程度だったダウ平均株価(以下、NYダウ)は、1999年3月に1万ドルを超えるまでになったのです。早くにIT革命という構造変化に気付いていれば、大きな利益を手にできたという例でしょう。

クリック数が株高を正当化!?

この話はそこで終わりません。NYダウは1999年3月に1万ドルを超えた後、1万ドルから1万2,000ドルのレンジで頭打ちになりました。しかし、IT企業の株を多く含むナスダック指数はそこから一段と上昇し、1999年3月の2,500からわずか1年で5,000を超えました。

この間、FRBは複数回の利上げを実施し、1年足らずの間に政策金利を4.75%から6.5%へ引き上げました。それでも株価の騰勢は衰えませんでした。市場では、IT革命やグローバル化によって「(景気の短期的な変動を形成する)在庫循環はなくなった」、あるいは「金利が上昇しても景気には大きな悪影響はない」といった、いわゆるニューエコノミー論が幅を利かせていました。

利益が全く出ていないIT企業の株高を正当化するために、クリック数の大幅な増加が将来の高収益を約束しているとする論調までみられました。

ブレーキの壊れた自動車

もっとも、ある慧眼のアナリストは全く違う見方をしていました。IT株を猛スピードで山道を下る自動車にたとえたのです。つまり、ブレーキが壊れているからひどく危険だと。事実、大幅な利上げによって景気は下降局面に入り、ナスダック指数は2000年3月に5,000を超えた直後に急落。2002年10月に1,000近くまで下落しました。IT革命という構造変化を市場が過信した結果だったといえなくもありません。

経済の動きは景気循環と構造変化の組み合わせであり、双方の観点から相場を捉えることが重要であるように思われます。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。