投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は、先行きが全く見えないブレグジット(英国のEUからの離脱)をどう考えるべきか、解説しましょう。状況によっては、金融市場に大きな影響が出る可能性があるからです。

  • ブレッグジットによる金融市場への影響を理解していますか?

ブレグジットまで2カ月足らず

英国は、2016年6月23日の国民投票でEU(欧州連合)からの離脱、いわゆるブレグジット(Brexit)を決定。17年3月29日に英国のメイ首相が正式に離脱を宣言しました。そして、今年3月29日に英国はEUを離脱する予定です。

しかし、英国は本当にあと2カ月足らずでEUを離脱するのか、離脱した後の英国とEUの関係はどうなるのかなど、未だに明確になっていません。それは離脱後の関係について、英国とEUが合意できていないからです。とりわけ、EUに加盟するアイルランド共和国と、英国の一部である北アイルランドの国境(以下、アイルランド国境)の問題が大きなネックとなっています。

アイルランド国境の問題とは

アイルランド国境を巡って、過去に紛争が繰り返されてきました。現在、アイルランド共和国や英国はEUの関税同盟や単一市場に参加しており、ヒトやモノの移動が自由なため、厳格な国境管理はありません。英国がEUを離脱しても、紛争の火種になりかねない国境管理を回避するための対応が検討されてきました。

そこで、メイ首相とEUは昨年11月にバックストップを含むブレグジット協定案で合意しました。バックストップ(安全策)とは、ブレグジット後の移行期間中に英国とEUが新たな関係で合意できなくても、厳格な国境管理を復活させずにすむように、英国は関税同盟にとどまり、北アイルランドは英国よりもEUのルールに従うというものです。

ブレグジットの期日延期も?

ところが、英国の与党保守党内で、とにかくEUから離脱したい強硬派は、バックストップが半永久的に英国をEUに縛り続ける可能性がある点に強く反対。また、保守党に閣外協力してきた、北アイルランドを拠点とするDUP(民主統一党)は、北アイルランドが英国の残りの地域と違う扱いを受けることに反発しました。

結局、英国議会はブレグジット協定案を否決し、メイ首相がEUと新たに交渉するよう要求しました。一方で、EUは再交渉の余地はないとの姿勢を崩しておらず、事態は膠着しています。そうしたなかで、市場では、3月29日の離脱日が延期されるとの見方も有力になっています。

ブレグジットのシナリオ

最終的な決着は、大きく分けて3つしかありません。1.合意ある離脱、2.合意なき離脱、3.離脱の撤回です。

合意ある離脱

離脱後の英国とEUの関係について、ある程度の合意がある場合。2020年までは移行期間として基本的に従来の関係が続き、その間に新しい関係の詳細を詰めることになります。英国経済や金融市場にとって波乱の少ない展開であり、後述する合意なき離脱が回避されるため、英ポンドや英ポンド建て資産の価格は上昇が見込まれます。

合意なき離脱

移行期間は設けられず19年3月29日(延期に合意した場合はその期日)をもって、英国はEUから離脱。英国は、関税同盟や単一市場で与えられた特権的待遇を失います。また、人の移動も制限され、国境を越えるためにはビザが必要になります。英国とEU加盟国との貿易は、世界貿易機関(WTO)のルールに従います。

貿易における競争力の喪失、ビジネスコストの上昇、資金や人材の流出などにより、英国経済は大きな打撃を受けることになります。また、EUも無傷ではいられないかもしれません。世界の金融市場に混乱が波及する可能性も無視できません。

離脱の撤回

昨年12月、EU司法裁判所は、英国が一方的に離脱を撤回することが可能だとの判断を示しました。離脱撤回となれば、離脱の悪影響を織り込んだ英ポンドや英ポンド建て資産は急反発する可能性があります。ただし、英国が離脱を撤回するとすれば、英国で政権交代していること、そして(あるいは)第2の国民投票によって国民が離脱撤回を選択することなどが前提条件でしょう。そうした結果が出るまでには相当の時間が必要となりそうです。

投資家が注意すべきこと

上記の3つのシナリオのうち、最終的にはどれかで決着するはずです。ただ、その過程で、様々なイベントがあるかもしれません。離脱日の延期、メイ首相の辞任や議会による不信任、英議会の解散総選挙、そして第2の国民投票などです。そして、決着に至るルートは一つではありません。

例えば、離脱日を延期しても、問題を先送りするだけです。その間に協定案で合意に至る可能性がある一方で、結局は交渉が頓挫して合意なき離脱となるかもしれません。また、メイ首相が辞任し、解散総選挙でEU残留を訴える労働党が政権を奪取すれば、第2の国民投票が実施される可能性は高まります。それでも、国民投票の結果は、離脱撤回かもしれないし、やはり離脱かもしれません。

投資家は、個々のイベントに反応するだけでなく、それに一喜一憂せずに最終的な着地がどこになるかを見据えておく必要があるでしょう。なお、英国とEUの交渉が難航している間に、グローバルな金融機関やメーカーは次々に資金や人材、拠点の欧州大陸などへのシフトを発表しています。そのため、英国経済はすでに不可逆的なダメージを受けたとの見方も可能です。

一方で、少数派ながら、成り行きを見守って先送りされてきた設備投資などの潜在需要がいずれにせよ表出するとの見方もあるようです。そうであれば、英国経済は少なからずブーストを受けるかもしれません。

ブレグジットの最新情報や基本情報については、マネ―スクエアのホームページでご確認いただくことができます。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして活躍。 2012年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「市場調査部レポート」「スポットコメント」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、動画サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。