「騙されない投資家」になるために……。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。その第7回です。

「アナリストの予想を鵜呑みにしてはいけない理由」

こう書くと、「アナリストだって外すからでしょ」とすぐに答えが返ってきそうです。全くその通りです。そして投資は自己責任だということを肝に銘じてください。

それでも、自分より知識でも経験でも上回っているアナリストの予想に従った方が無難だと考える投資家はいるでしょう。そんな方でも、留意してもらいたい点がいくつかあります。

アナリストも千差万別

最初に確認すべきは、アナリストがどういった時間軸で予想を語っているのかということです。1週間なのか、1カ月なのか、それとも1年以上先の話なのか。アナリストがある金融商品に関して「短期的には弱気だが、中長期的には強気だ」との予想を語ったとしましょう。

そこで、2~3年先を見据えてその金融商品に投資したところ、アナリストの言う「短期的」とは2~3日、「中長期的」とは精々2~3カ月だったというのもよくある話です。

アナリストのクセも重要です。アナリストには、良く言えば臨機応変、悪く言えば予想をコロコロ変えるタイプと、良く言えば安定、悪く言えば手遅れになりがちなタイプがあります。

前者は、言うなれば「ディーリング感覚」なので、かなり短い期間を対象にしており、付いて行くのが大変です。最近はSNSなどでほぼリアルタイムでアナリストの予想を入手することが可能かもしれません。それでもフォローが遅れると、全然違うストーリーになっていることがあるはずです。

後者は、向こう半年や1年が中心になる、ファンダメンタルズ分析を得意とするアナリストに多いでしょう。マクロ経済の状況はそんなに簡単には変わらないからです。それでも、予想と違う方向を示すデータが増えてきて、いつ予想を変えるべきか、そのアナリストが実は悶々(もんもん)としているというケースもあります。

そして、ついに耐え切れずに予想を大きく変更するかもしれません。投資家にしてみれば、昨日までずっと同じことを言っていたアナリストが「突然に」予想を変えたように見えるので、きっと梯子を外されたと感じるでしょう。

「逆指標」として有名なアナリストも

著名なアナリストがなぜ有名なのかを知っておく必要もあります。予想の精度が高くて有名であれば良いのですが、そうでないケースもあります。

例えば、「株が暴落する」「円が急騰する」といった極端な予想をして、それがたまたま当たったケース、いわゆる一発屋です。それ以外に何を言っていたかは誰も記憶にありません。

あるいは、「まだまだ上がる」と言えば相場が天井、「もっと下がる」と言えば相場の底が近いというアナリストもいます。ただ、ほとんど毎回外してくれるので「逆指標」として有名なのかもしれません。

定点観測が重要

予想は当たらないけど、ユニークな着眼点が評価されるアナリストもいます。プロの投資家は、自分が見落としていたこと、気付かなかったことを教えてくれるアナリストを重宝します。そのアナリストがどんな予想を出しているか、当たっているか外れているかは実は全く気に留めないというケースもあります。

結局のところ、あるアナリストが有名である、あるいは投資家自身の考えに沿った予想をしているというだけで飛び付くべきではないでしょう。そのアナリストがどんなタイプで、どんなクセがあるかを知ったうえで、そのアナリストを定期的にフォローする、いわゆる「定点観測」をすべきではないでしょうか。

グリーンスパン議長は優れたアナリストになれたか

ちょっと話を変えます。もう古い話になりますが、1987年から2004年まで17年以上も米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の議長を務めたグリーンスパン氏は、金融政策の手腕を高く評価され「マエストロ」とも呼ばれました。彼を最も有名にしたのが、IT株バブルの最中に「根拠なき熱狂」というフレーズを使って、バブルに警鐘を鳴らしたことです。

ここまではよく知られた話です。ただし、グリーンスパン議長が「根拠なき熱狂」と語ったのは1996年12月の講演でのことでした。そして、IT株の象徴だったナスダック指数が(当時の)最高値を付けたのが、2000年3月10日でした。

つまり、グリーンスパン議長が警鐘を鳴らしてからもIT株は3年以上も上昇を続けたのです。さらにタイミングの悪いことに、2000年3月6日、ナスダック指数が下げに転じるわずか4日前にグリーンスパン議長は「ニューエコノミー」と題する講演の中で、IT株の上昇を肯定するような発言をしていました。

以上から、発言のタイミングと株価の動きだけをみれば、グリーンスパン議長は優れたアナリストとは言えないでしょう。もっとも、ここでの教訓は次の2点です。

一つは、中央銀行のトップですら相場をコントロールできないということ。もう一つは、最も懐疑的(楽観的)だった人が強気(弱気)に転じざるを得ない状況になった時こそ、往々にして相場の天井(底)だということです。

なお、ナスダック指数は、グリーンスパン議長が「根拠なき熱狂」と発言した96年12月時点で約1,300。2000年3月に記録した最高値が5,048。そして、ようやく底を打った2002年10月時点で1,114でした。したがって、グリーンスパン議長の警鐘は、6年を経て正しかったことが証明されたと言えなくもありません。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。