漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
今回のテーマは「副業」である。
私が会社を辞めたのにはさまざまな原因があり、総じて私が悪いのだが、その1つに「副業がバレた」というのもある。
その時のことを思い出すと「うっ…頭(ず)が…!」となってしまうので、詳細は省くが、企業の中には「副業禁止」というところもある。
しかし、不景気のせいか「うちではそれほど給料が出せないので、他でも稼いでくれ」と逆に「副業推奨」するところもあるそうだ。
確かに愛人に月100万円渡しているなら「他に男は作るな」と言ってもいいかもしれないが、ジョイフルのドリンクバー券で同じことを言っては駄目だろう。
満足に生活も出来ないような給与で「わが社だけに忠誠と心臓を捧げよ」というのも酷である。
それに今は国が「老後は自助れ」と言っているのだ。
本業の他に副業をして老後に備えるというのは推奨されるべきことであろう。
「副業禁止」という社則は今の世の中には厳し過ぎる。少なくとも業務時間外の経済活動は自由にさせるべきではないだろうか。
しかし、副業と言っても、日中フルタイムで働き、夜コンビニで働くなどということをしていたら、体を壊してしまい、老後資金のために老後が来る前に死ぬ、ということもあり得る。
確かに「早死に」ほど確実な老後対策はない。というか、大体の問題は「死」で解決されるのだが、それは最後の切り札としてとっておこう。
よって、副業は、出来るだけ体力や時間を要しないものが好ましい。
つまり「不労所得」が一番だ。
「不労所得」が何かはもちろん知らないので説明は出来ないが、グーグルに「不労所得」と打ち込めば、山ほど不労所得を得られる方法が出てくる。
それにもかかわらず、未だに労働所得で消耗しているのは何故かと言うと、情報自体に「不労所得とは不労で得る所得のようです! 知りませんでした!」という虚無が多いことはもちろんだが、「どこのご家庭の冷蔵庫にもある1,000万円を使って資産を増やしましょう」という、前提から間違っているものも多いからだ。
また気をつけなければいけないのは、風が吹けば桶屋の愛人が豊胸する、というように、収入を増やしたいと考える人間が増えれば、必ずそいつらから儲けようとする奴が現れるということである。
実際「老後2,000万」という報が発射された時は「2,000万貯められるセミナー」が繁盛したらしい。詐欺にあった人もいるかもしれない。
だからと言って情報を信じず「俺が考えた最強の自助」もあまりお勧めできない。
何の情報も集めず適当に株を買って暴落した私が言うのだから間違いない。
やはり情報は重要であり、場合によってはセミナーなどで教えを乞うことは必要だろう。 だが、その前に、その情報が怪しいものではないか、見極める目が必要なのである。
情弱は損するが、情報だけ集めて正誤を判断できない人間は大損するという世の中である。
我々がボンクラなのではなく、世界の難易度が上がり過ぎているのだ、こんなサイコパス小学生がマリオメーカーで作ったようなコース、クリアできるはずがない。
よって、情報処理能力に自信がない人は「主婦が旦那に隠れて月収○○○万!?」みたいな広告には飛びつかない方が身のためだ。
やるなら、ポイント集めやアンケ回答など「こんなしょっぱいことやりたくねえよ」ということからやった方が良い。
得られるものは本当にしょっぱいのだが、得られはするし、少なくともマイナスにはならない。
副業はいきなり大儲けを考えず、元手ゼロから始めるのが鉄則だ。カリスマ主婦トレーダーの講習会に行くのはそれからでも遅くない。
一番大事なことは「やってみる」ことだ。
とりあえず株を買ってみようという話ではない。そういう「やってみた」は損を出しがちだし、YouTubeでも12再生ぐらいしかされない。
最近、副業や投資に興味がある人が増えたため、専門家などにアドバイスを求める人も増えたようだが、専門家がどんなアドバイスをしても「そんなことできない!」「無理!」とキレる人が一定数いるのだそうだ。
おそらく、何もせず2,000万貯められる魔法を授けてくれるのが専門家と思っているのだろう。
ともかく、自分にやってみる気がないなら、どんなに情報を集めても無駄なのである。
ネットの普及により、収入を得られる手段は増えたし、動画がバズって一攫千金というのも、確率は低いがなくはない。
だが、それらも全て、やってみなければ絶対に起こらない。
私も、自分の著書を宣伝する時は、アマゾンアフィリエイトを使いポイントを貯め、トイレットペーパーなどを買うという「セ、セコい!」としか言いようがないことを、何のためらいもなくやっている。
労働するには限界がある。
副業が無理という人は、とりあえず日常生活の中に、いかにこういうセコさを取り入れるかを考えてみてはいかがだろうか。
トイレットペーパー代だって、バカにならない。ケツも拭き続ければ2,000万、かもしれないのだ。