漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「ボーナス」だ。

「イイ度胸」としか言いようのないテーマである。

ボーナスというのは、無職はもちろん、フリーランスやフリーターの前では絶対触れてはならない話題である。

会社員相手でも油断は出来ない。派遣社員や契約社員という可能性が十分あり、正社員とて、入社してまだ3日とかならもらえてないはずである。

つまり、この地球上でボーナスの話などしない方が身のため、ということである。

少なくともボーナスをもらってない奴にボーナスの話を書かせるなど、倫理上あってはならない。

つまりここは、倫理が崩壊した核戦争後の世界だ。

これに比べれば、ボーナスをもらってない奴の前でボーナスの話をするぐらい道徳的と言っても良いので、遠慮なく話して後ろから刺されれば良いと思う。

しかし「ボーナス」と一言で言っても、その内容は人によって全く違うので注意が必要だ。

ナスに棒を刺して「はい、ボーナス」など、その棒が次の瞬間、社長の眼球に突き刺さっている話ではない。

同じボーナスでもその金額が全然違うという、眼球に棒が突き刺さるよりエグい現実があるのだ。

この季節になると、大体ニュースで「今年の冬ボーナスの平均額」が報道される。

そこで発表される額が「俺の知っているボーナス」とは明らかに違うのだ。

しかも何故か取り上げられるのが「国家公務員のボーナス平均」だったりする。

公務員が高給とは言わないが、ボーナスに関しては割と手厚い方であることは否めない。

何故、手厚い方を発表してしまうのか、そんなニュースを朝から見せられたらテンションが下がって景気がさらに悪化するだけである。

平均を取るなら、手薄い側かもらってない奴に聞くべきだ。そうすれば「平均ゼロ円」になるので、多くの労働者が「もらえるだけマシだ」と明るい気持ちで出社できるし、我々も「明るいニュース」になれてうれしい。

また、ボーナスと言うと「月給の2倍~3倍」というイメージがあるかもしれないが、ここでも大きな認識の差がある。

月給に掛ける数字にゼロと小数点がついている会社もそこまで珍しくないのだ。

そういう者にとっては「ボーナスが月給以上」という時点で、異国の話、その国の名はガンダーラなのである。

私も会社員の時はガンダーラ以外の住人だったので、月給以下のボーナスから社会保険とか税金とか、別の意味で無駄なものを削ぎ落とした結果「一桁」の大台を叩き出してしまうのである。

ここで言ってはいけないイカれた言葉を紹介しよう。

「寸志じゃん」

以上だ。

これは、庶民の家に来た金持ちが「犬小屋にしては広いね、ところで人間はどこに住んでるの?」と聞くようなものだ。

ボーナスとして渡された以上、それがそいつのボーナスなのだ。寸志などというものは存在しない。

このように、ボーナスというのは、まずもらってない奴が結構いる上に、もらっていても額が文字通り桁違いなので「野球・政治・宗教」に並んで、話が合わず不穏な空気になる恐れがある危険な話題である。

「ボーナスで何買う?」というヌルい質問ですら、使えるほどもらえてない奴を憤死させる可能性がある。

そもそもボーナスをもらったからと言ってパーッと使う人間も減ってきているのではなかろうか、まずパーッと使える額がない。

「ッ」程度な上、老後はジジョれと脅されたばかりなので、「貯金」という人の方が多い気がする。

そういう現象は「消費離れ」などと、まるで消費者が悪いみたいに報道されたりするが、それを解決したいなら、まず我々の「深刻な2兆円不足」を、国をあげて何とかするべきであろう。

ともかく「ボーナス」と言っても、人によって世界観がまるで違うのである。

決してたくさんもらっている人が悪いわけではない、しかし最初からかみ合わない話はしない方が平和のためだ。

アシタカは国家公務員、サンはゼロと小数点がついている森で、別々に暮らし、ボーナス以外の話をする時だけヤックルに乗って会いにいけば良い。

ちなみに夫は会社員なので、ボーナスがあり、ゼロと小数点がついていない側である。

今年は下がったと言っていたが、森の住民からすると相当もらっている。

しかし、我が家は完全に別財布なため、夫がいくらもらっていても私がいくらかもらえたり何か買ってもらえたりするわけではない。

よって額を聞いても全くの無感動である。

このように他人がいくらもらおうと、自分が使えない金な時点でゼロ円と大差ないのである。

よって、使えない他人の大金を気にするより、一桁でも使える金の方をありがたく思った方が良いだろう。

ゼロ桁になるとそれすら出来なくなる、やはりボーナスとお賃金はもらえる内が華である。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。