年末年始、テレビは完全に特番シフトであったわけだが、皆さまは何をご覧になっただろうか。

正月は「箱根駅伝」と決めている人もいるかもしれない。だが何が楽しくて新年早々、電動アシストチャリ必須の坂に人力で挑み、あまつさえそれをわざわざ見守るのかと思う人もいるかもしれない。

しかし箱根駅伝ほど、大して仲良くもないのに、正月だからととりあえず集まってしまった親戚の集いでよく起こる「無音」を防いでくれる存在はいないのだ。

バラエティー番組だと年寄りが露骨に「わからん」という顔をしだすし、正月は生放送が多い故に、芸人が陰部を露出させるといった、お茶の間にとっての大事故も起りやすい。

その点「無言でただ見つめる」ということが許される箱根駅伝ほど頼もしいものはない。これを見ることによって、長い時間にわたって親戚の誰とも目を合わせないことが可能になるのだ。また内容的にも「文句がつけづらい」「おかしな空気にならない」のも高ポイントである。

しかし、一族の中に一人はいる「この世で起こる森羅万象全てが気に入らない人」がその場にいたら、今年の駅伝を見て「最近の人は、随分派手なシューズを履いてはりますなあ、正月に相応しくないのとちゃうドスか」と言って、その場を正月に相応しくない嫌な空気にしてしまうということがあったかもしれない。

駅伝通の人、または親戚どころか駅伝のランナーとも目を合わせたくないので、走者の足元ばかり見ていたという人はすでに気づいているだろうが、今年の駅伝は走者の多くが「ピンクのナイキ製シューズ」を履いていたのだ。

  • 年始の俺たちをザワつかせたピンクシューズの正体

おそろいのピンクシューズはとっても目立った

ピンク以外でもナイキのシューズを履いている選手はとにかく多く、どのくらい多かったかというと約85%がナイキのシューズだったそうだ。

今回総合優勝を決めた青山学院大学も全員がナイキのシューズ着用である。ちなみに青学大はアディダスとユニフォーム契約をしており、昨年の大会では10人中9人がアディダスでナイキは1人だけだったという。その1人だけナイキを通した選手のガッツだけで優勝ものだが、当時の結果は準優勝に留まった。

そして、今大会は10人全員ナイキである。シューズはどこのメーカーを使っても良いのだが、普通ならアディダスを使うのが筋である。だが青学大はアディダスさんと「ちょっと変な空気」になるのを覚悟してもナイキで勝ちに行き、大会記録を7分も短縮し見事優勝した。

忖度を重んじる日本人に大人の事情をガン無視させるほどの「ナイキのピンクシューズ」とは、一体どんな代物なのだろうか。

それは「ズーム ヴェイパーフライ4%」という品名で「カーボンファイバープレート」を使用した「厚底シューズ」である。これは今までの薄底志向とは真逆のコンセプトなのだそうだ。

このシューズを使用することによりランニング効率が4%向上することからこの名前がつけられたという。

最新技術が用いられているのは確かだが、電動アシストつきとか、ジェットでちょっと浮くなどの特殊機能があるわけではない。このピンクシューズが注目されすぎて、あたかもこのシューズのおかげで勝てたかのようなイメージにもなってしまっているが、これを履けば誰でも早く走れるというわけではない。この厚底シューズを履きこなす訓練も必要であり、また訓練の成果とシューズの利点を生かせる天候にも恵まれたことが、今回の記録に繋がったと言われている。

そもそも全選手の85%がナイキだったのだから、他校ともほとんど同じ条件だったと言って良い。ただ、青学大が今年もアディダスで挑んでいたら、結果は変わっていたかもしれない。

スポーツでチートアイテムにザワつく機会は今後も増える?

ともかく画期的なシューズなのだが、強すぎてゲームバランスを破壊するチートアイテムとして今後使用を禁止される可能性もある、と言われている。

使用禁止にされた伝説のアイテムといえば、水着の「レーザーレーサー」が記憶に新しい。

北京オリンピックで、レーザーレーサーを着用しないというのは、合コンに鉄下駄で来るぐらい「勝負を捨てている」とさえ言われていた。しかし、当時のメダル候補である北島康介選手は日本のメーカーと契約をしていたため、レーザーを着るのか着ないのかが、大きな話題となった。結局、日本メーカーが自社のプライドよりメダルを優先という漢気を見せ、北島選手は見事メダルを獲得した。

だが、その後、国際水泳連盟が「水着は布だけにしてください」と取り決めたため、ポリウレタンを使っているレーザレーサーは実質使用禁止となった。

ナイキのシューズも、名指しで禁止されはしないだろうが「カーボンをファイバーするな」等の決定で使用できなくなる可能性はある。しかし素材の話だとすれば、カーボンファイバーを使っているシューズはナイキ製だけではない。

また、そのシューズが3億ぐらいするなら、金を持っている奴が有利ということになってしまうが、このナイキのシューズは3万円程度である。

大人の事情を無視する覚悟さえあれば、履こうと思えば誰でも履けるため、規制はされないのではとも言われている。

これからも、人間が大して進化しないのに対し、選手の使う道具の方はさらに進化していくだろう。それを使うのが公平か否かの議論は今後さらに複雑化していくと予想される。

しかし、昔から、選手に投資できる資本や練習環境など、完全に公平とはいかないのがスポーツである。特にオリンピックが国同士の戦いだとしたら、選手に国の金と技術をブッ込んで勝たせるというのはある意味正しい姿だ。

極力公平にしたいというなら、選手全員全裸で競技に挑ませるべきだろうが、それだとどんなスーパープレイが出ても放送できない、という弊害がある。

「スポーツだけはスポーツマンシップに則った正々堂々とした公平な世界のはずだ」などとは思わず、我々の生きる浮世と同じく所詮不平等が存在するものとして、割り切って見た方がストレスが少ないだろう。