漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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今回のテーマは「成人式」だ。

私は当然年齢的に成人式とは無関係だが、無職になったことにより「何の日だろうが祝日で休めれば良い」という感覚すらなくなったため、「世界一成人式に関係ない人」になってしまった。

世界一関係ない話を2,000字もしなければならない自分が、哀れでならない。

しかし、数で言えば成人式に関係ある人より、世界一関係ない人の方が多いはずである。

本人とその親族ぐらいしか関係がないのだから当然だ。

だがそんな乳首大相撲大会秋場所ぐらい人口の少ないイベントであるはずの「成人式」が何故か毎年大々的に取り上げられ、その模様がテレビで放送されるのである。

それは別に構わないが、だったら乳首大相撲秋場所にも同じぐらい尺をとってほしい。

成人式のニュースと言えば、「荒れる新成人」である。

ひと昔前はこればかり、と言っても過言ではなく、成人の日というのは自然界にない色の羽織袴を着た新成人の特に理由のない暴力が市長を襲う日であった。

海外からは「成人式」というのは、若者が市長を倒すことにより成人したと認められる儀式と思われていたのではないだろうか。

しかし、成人式のニュースで荒れる新成人の映像ばかり流すというのは、モデルとして美人を連れて来たのに、美人のワキの下にあるイボばかり撮影しているようなものである。

荒れている新成人ときちんとした新成人がいるなら、荒れていない方を映してあげるべきだろう。

本来ならフォトショップで消される方を「これが今年の新成人の姿です」と出されたら、きちんとしてきた新成人の立場がない。

誰だってイボをプロフィール写真にされたら嫌だろう。

最近では「イボを映すな」という声が大きくなったのか、イボ自体が小さくなったのか、スタンダードに立派なことを言う新成人の姿だけを映すニュースも増えてきた。

しかしそうなると、立派な新成人の姿を見ても「それはそれで凹む」ということが判明する。

若くて立派、というのはすなわち「完敗」を意味する。

せめて言うことは立派でも頭はモヒカンとか、若者らしい荒さを残してくれないかという気になってくる。

しまいには「最近の若い奴は元気がねえな」とアラフォーが二十歳に「元気」で挑みだす始末だ。

つまり、若い奴が気に入らない人間は、若者が何をしても気に入らないのである。

ただ、立派な若者よりは、荒れる新成人の方が遠慮なく苦言を呈することができるのだ。

よって一時期あれだけ荒れる新成人のニュースばかりだったのは、そこに確かな「需要」が存在したからだろう。

自分の成人式がどうだったかと言うと、当然荒れてはいなかったが、立派でもなかった。

つまり「絶対テレビに映らない新成人」である。イボですらない、ただのニキビ跡だ。

成人式と言えば、女子は振り袖である。

しかし、我が自治体の成人式は何故か「夏」と決まっていた。夏場に振り袖はさすがに厳しい。

だが、せっかくの成人式である。女子たちはせめて和装でと「浴衣」で来ていた。

しかし浴衣で来ていたのは当然「みんな浴衣で行こうね」という連絡網に入っている女子だけである。

よって私は、女子のほとんどが浴衣で来ている中、リクルートスーツで現場に馳せ参じることになった。

しかも夏で暑かったため「ジャケットは脱いでくる」クールビズ先取りスタイルである。

成人式に来た新成人というより、空調がない備品倉庫の整理を命じられたOLだ。

ある意味、どこにも文句のつけどころのない成人ぶりである。唯一あるとしたら「32歳ぐらいに見える」という点であろうか。

そもそも、連絡網から外れているような人間というのは、何を着ていくか以前に「不参加」を選ぶものである。

それを何故か参加してしまうから、人生のページがまた1枚黒く塗りつぶされてしまうのだ。

黒歴史というのは大半が、自ら白Tを着てドブにダイブすることによって生まれている。

案の定、成人式会場で話す相手は皆無に近かったため、式の後、みんなが「これからどうする」的な話をしている時点で帰った。

2次会について行かなかったところだけは、成人としての判断力があったと思う。

成人式のことは全く覚えていないが、成人式から1人で歩いて帰った道のりのことだけは良く覚えている。

それ以降、同窓会的なものには不参加を決め込んでいるので、成人式に出席することにより学びと成長はあった。

これから成人を迎える読者もいるかもしれないが、このコラムを読んでいる時点で、成人式に行っても、良いことがないタイプだと思うので、潔く「不参加」という選択肢も視野にいれた方が良い。

特に「成人式どうする?」と示し合わせる友人が1人もいないような状況なら、まず行かない方が良い。

さもなくば、全員リクルートスーツの中に、振り袖で登場してしまう恐れがある。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。