緊急事態宣言も解除され、ビジネスの現場も徐々に日常を取り戻しつつあります。入社してからずっと在宅勤務をしていたという新入社員も出社するようになり、研修を受講したり、先輩社員に同行したりするような姿も見かけるようになりました。

春は人事異動の多い季節でもあります。多くの企業が新年度を迎え、中には新たな体制で臨む組織もあるでしょう。現場では、担当していた顧客を後任者へ引き継ぐ、あるいは前任者から顧客の担当を任されるといったこともあります。いわゆる担当の引き継ぎです。

筆者も長らく組織営業に携わってきました。担当引き継ぎについては、ときに当事者として、ときにマネージャーとして数多くの機会に接してきました。取引を積み重ねるとともに関係性が強固になることもあれば、担当引き継ぎが原因で受注量が減少したり、仕事が途絶えたりしてしまうような事態にも直面したことがあります。担当の引き継ぎは、ビジネスの流れを左右する重要な局面にもなります。そこで今回は、担当者変更で失敗しないために押さえておきたいビジネスメールのポイントをお伝えします。

不信感を与えず、感謝と安心を

担当の変更が決まったら、基本的には前任者から取引先へ連絡するのがマナーです。特別な事情がない限り、後任者から先に連絡をとることは避けましょう。いきなり知らないアドレスからメールがきたら相手も警戒します。ひょっとしたらメールを読んでもらえない可能性さえあります。これまでお世話になった取引先へ失礼のないよう、誠実な対応を心がけてください。

まずは前任者から、挨拶と合わせて案内のメールを送ります。その際、必ず書いていただきたいのが、担当者が変更になる「理由」、そして「いつから」「誰が」後任になるかということです。

「理由」がないと相手が不信感を抱くかもしれません。転勤や異動、はたまた退職など簡潔に分かりやすく伝えてください。その上で「いつから」「誰が」を明確にしましょう。そこを明確にしておかないと、重要な連絡が前任者にいったことで対応が遅れてしまったなど、トラブルを引き起こすことにもつながりかねません。

担当者が変わることに、相手の方は少なからず不安を感じているはずです。そこに安心感を与えるのも前任者の役割です。新しい担当者の経歴や得意分野に触れた紹介文を添えてみる。引き継ぎ後も自身が近くにいるのであれば、今後もフォローできることを伝えるなど、安心につながる情報も盛り込みます。

そしてこれまでお世話になった担当者へ、感謝の気持ちも忘れずに伝えましょう。定型文のような挨拶ではなく、具体的なエピソードなども交えながら温かみのある文章でぜひ気持ちを表現してみてください。

礼節とポジティブさが第一印象のカギ

さて、いよいよ後任者からメールを送りましょう。ビジネスは第一印象が重要です。第一印象によって、その後のビジネスが発展するかどうかが決まるといっても過言ではありません。第一印象でよくないイメージを持たれてしまうと、その後の業務も円滑に進まない可能性があります。「この人には仕事を頼みたくない」「この人は仕事ができなさそう」そのように思われてしまうと、信頼関係を築くどころではありません。反対に「仕事ができそう」「この人と仕事をしたい」と感じてもらえたなら、成果につながる可能性が高まります。

初めての相手にメールを送ることになるので礼節を大切にしましょう。件名も「はじめまして」のような安易な言葉ではなく、「新任のご挨拶(社名・名前)」のように誰が何のために送ったメールなのか、相手の方がすぐに把握できるようにします。もちろん相手の会社名や名前に誤りがあってはいけません。

その上で自己紹介をします。自身が携わってきた業務に触れるなど、実力や人柄が垣間見える内容を織り交ぜると、相手の方もイメージが湧きやすいのではないでしょうか。もしも経験が浅く、紹介できるような実績がないのであれば、今後の意気込みでも構いません。自分自身を飾ったり、必要以上に大きく見せたりする必要はありませんが、謙遜しすぎる必要もありません。ポジティブな印象を相手に持っていただくことが、その後の信頼関係構築に向けてもきっとプラスになるでしょう。

業務だけではなく信頼を引き継ぐ

担当者の引き継ぎというと、メールを送った後、前任者と後任者の2人で顧客を訪問して挨拶をするということが一般的に行われてきました。もちろん今後もそれは続くと思います。しかしながら新たな生活様式を求められる現在の状況下では、ますますメールの重要性が高まっていくとも考えられます。

節目のタイミングで送る1通のビジネスメールが、将来に大きな影響をもたらします。担当を引き継ぐというのは、ただ単に業務を引き継ぐことではありません。前任者たちがこれまで築き上げてきた信頼関係を引き継ぐということです。それを肝に銘じ、適切な対応を心がけてください。

井上賢治

一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師
1974年生まれ。宮城県出身。大学卒業後、大手製紙メーカーグループの印刷会社に勤務。入社3年目で営業成績1位を獲得。翌年にはその経験を活かし、新たな印刷会社の立ち上げに参画。新規開拓において数多くの実績を残し、出版物の制作や大手企業のセールスプロモーションを手がける。その後、ヘッドハンティングにより移籍した会社では東京支社長に就任、20名の部下を統括する。テレアポや飛び込み訪問による営業スタイルを確立していたが、さらなる受注拡大の実現、そして組織全体の営業力強化、人材育成など、幅広い業務を担うなかでビジネスメールの有用性を実感。1通のメールがコミュニケーションを円滑にし、業績向上にも結びつくとの想いから、認定講師としての活動を開始。営業経験、管理職経験を活かした実践的なビジネスメールの指導を得意とする。

日本ビジネスメール協会

日本で唯一のビジネスメール教育専門の団体。ビジネスメールに特化した講演・研修などの事業を10年以上前から行っており、これまでにメールに関する書籍を中心に29冊出版(内3冊は翻訳され台湾で出版)。メディアには1,000回以上登場し、ビジネスメールについて情報発信してきた。仕事におけるメールの利用状況と実態を調査した「ビジネスメール実態調査」を2007年から毎年行っており、本調査は、日本で唯一のビジネスメールに関する継続した調査として各メディアで紹介されている。ビジネスメールに関する研修(講師派遣)や講演(公開講座)を実施。オンラインにも対応。ビジネスメールを学ぶ「ビジネスメールコミュニケーション講座」は東京を中心に毎月開催。研修の問い合わせも受け付け中。