悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、中高年で転職するか悩んでいる方向けのビジネス書をご紹介します。

■今回のお悩み
「40代で転職を考えています」(43歳男性/販売・サービス関連)

  • 中高年になった今、「転職したい」と悩んだときは(写真:マイナビニュース)

    中高年になった今、「転職したい」と悩んだときは


僕は30代半ばにフリーランスになったのですが、当然のことながら収入はなかなか安定しませんでした。その結果、「もうこれは無理だ」と追い込まれ、会社員に戻ろうとしたのは39歳のときのこと。

ただ、その時点で相応のキャリアは積んでいたので(それから鈍感ですので)、再就活に際しても不安はさほどありませんでした。なんとかなるだろうとたかをくくっていたわけです。

ところがどっこい、結果は1社を除くすべてがアウト。印象的だったのは、全社が「年齢」をその理由にしていたことでした。ありがたいことに実績は認めていただけたのですが、最終的には「しかし年齢が……」という結末になってしまったということ。

そこで逆に、「こうなりゃ再就職はきっぱり諦めて、フリーランスを軌道に乗せる以外にないな」と開きなおることにしました。その結果、少しずつ安定してきたので助かりましたが、いずれにしてもそのとき初めて「年齢の壁」を実感したのです。

ですから今回のご相談を拝見したときにも、さまざまな思いが頭をよぎりました。

ましてや、そこから15年以上を経た日本の社会はさらに厳しいものになっています。とくに40歳前後の「就職氷河期」世代は、社会に出たと同時に正社員になることの難しさにぶち当たった人たち。

もちろん正社員として働かれている方も多くいらっしゃいますが、その一方には40歳になっても非正規のままという人も少なくないわけです。

そういう意味でも、「40代での転職」が決して簡単なことではないということは想像に難くありません。

「年齢的なハンデ」を考慮した転職本とは?

ところで転職を考える際に役立ってくれるのが「転職本」。当然ながら、そのなかには「年齢」を考慮したものも少なくありません。たとえばいい例が、『成功する40代・50代の転職術』(佐々木一美 著、日本実業出版社)です。

タイトルからわかるように、40代・50代を対象とした転職術を紹介したもの。まず印象的なのは、冒頭で展開されている主張です。

「40歳を過ぎると転職ができなくなる」 そんな類いの話を聞いたことがあるでしょう。 しかし、それは「嘘」です。私は声を大きくして「40代・50代こそが、転職のための好機である」と言い切れます。(「はじめに」より)

もちろん中高年の転職が難しいのは事実ではあるものの、そんななかで希望どおりの転職を実現している人がいるのもまた事実だということ。

ちなみに著者は、1990年代からおよそ4,000人以上の転職指導をしてきた方。指導した人の転職成功率は90%超だそうです。

  • 『成功する40代・50代の転職術』(佐々木一美 著、日本実業出版社)

    『成功する40代・50代の転職術』(佐々木一美 著、日本実業出版社)

40代・50代の人たちが現状に不安を抱えるのは、自分の能力が現在(または過去)の会社の枠に収まり切れないほど成長しているからでしょう。「このままでは自分が描く将来像に近づけない」という思いが、「変化」を必要としているのです。 「中高年の転職がむずかしい」というのは、彼らのそうした思いを受け止める転職支援サービスが、世の中にほとんどないことに原因があると思います。(「はじめに」より)

そんな著者は本書において、中高年でも90%以上の人が成功するという「転職支援プログラム」のエッセンスを公開しています。しかもその内容は、とても具体的。

“40代・50代の”「転職がうまくいかない理由」「求人情報の入手方法」「応募書類作成術」「自己PR分作成術」「面接突破術」「内定後にやるべきこと」「転職計画」と、細かい配慮が行き届いているのです。

なかでも、年齢や職種など、求人情報にある各種条件を無視して応募する「条件破壊応募術」は、年齢的なハンデを乗り越えるために大きく役立ってくれそうです。

転職に必要な「自分軸」とは

『「いつでも転職できる」を武器にする 市場価値に左右されない「自分軸」の作り方』(松本利明 著、KADOKAWA)の著者は、「人の目利き」として多くの実績を持つ人事・戦略コンサルタント。

企業向けのコンサルティングはもちろんのこと、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、学生、ワーママ、ビジネスパーソンなどに、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を教えているのだそうです。

著者が重視しているのは、今後の職業人生に関わる問題を判断して行くための基準として「自分軸」を持つこと。そして自分の「市場価値」を確立することです。

自分の持ち味=自分軸を知り、活かすことで、
・好きなタイミングで欲しい値段で自分を売れる
・自分が好きなことで稼げる市場と仕事を知る
・出世に限らず、世の中で認められる
ようになる目利き力を持つことで「いつでも転職できる」が武器になります。(「はじめに」より)

自分自身を守ることにつながる転職力は、流動的な世の中で生きていくための「安心保険」。そして転職力は「自分で人事異動」できる力。つまり「転職できる」を武器として持つことで、初めて自由になれるという考え方です。

  • 『「いつでも転職できる」を武器にする 市場価値に左右されない「自分軸」の作り方』(松本利明 著、KADOKAWA)

    『「いつでも転職できる」を武器にする 市場価値に左右されない「自分軸」の作り方』(松本利明 著、KADOKAWA)

ところで著者は、アラフィフでも転職で売れっ子になれると断言しています。そのためのポイントは、自分の価値の取り出し方をわかっておくこと。

(1)相手が喜んでくれそうなこと、困っていそうなことを30個書き出す
(2)該当しそうな実績を書き出す
(3)根拠となるようなノウハウを整理
(4)キャラや資質と照らし合わせる
(5)過去、現在、未来でまとめる

このような段階を経て、自分にしかない「オリジナルな提供価値」を組み立てることが大切だというのです。たしかにこうした確固たる「自分軸」があれば、年齢の壁は乗り越えられるはずです。

いまさら聞けない、転職の疑問

『転職大全 キャリアと年収を確実に上げる戦略バイブル』(小林 毅 著、朝日新聞出版)は、その名のとおり転職を成功させるためのマニュアル本。著者は、5年前から転職セミナーを続けているキャリアコンサルタントです。

まず印象的なのは、転職に関する知識や経験がない状態は、「真っ暗なトンネルをひとりで進むことと同じ」だと表現している点。だからこそ、転職に関しての情報や知識、考え方、マインドセットなどが、足元を照らす明かりになるというのです。

この本は、あなたが持つその不安に寄り添い、自分がどのように振る舞い行動すれば、怖い転職活動を乗り切ることができるのかがわかる本として構成されています。(「はじめに」より)

ポイントは、いまさら聞けない初歩的な疑問から、転職マーケットで求められている人材、キャリアアップについて深く理解できること。

また、転職活動をリアルに理解できるよう、転職を考えているが不安も多い相談者の“久間真司さん”と、ベテランコンサルタントの“永楽圭佑さん”との会話形式で話が進められるところもユニークです。たとえばこのような感じ。

永楽 なにせ仕事は自分の人生に関わる大きなイベント。慎重になるのは当然ですが、我慢してやるべき仕事なのか、もっと自分に合う仕事があるのではないかと考えることも普通です。まずは、以下のことをしっかりと意識すれば、転職を怖く感じることもありません。

1.自分を知る
2.相手を知る(転職マーケット)
3.対策を練る

これを実現させるために、以下のことを意識する必要があります。

1.自分という人物をどのように見てほしいのか
2.求人企業から、あなたが欲しい、と思わせることができるのか
3.求人企業があなたを採用した後、どのような変化が起こるのか

久間 たしかにそうですね。いろいろ悩んで先に進めないよりは、しっかりと準備して前に進みたいです!(25~26ページより)

  • 『転職大全 キャリアと年収を確実に上げる戦略バイブル』(小林 毅 著、朝日新聞出版)

    『転職大全 キャリアと年収を確実に上げる戦略バイブル』(小林 毅 著、朝日新聞出版)

読者ターゲットは転職者全般なので、40代だけに向けられたものではありませんが、転職に関する基礎的な知識やノウハウを補強するためには有効だと思います。


冒頭でも触れたように、40代の転職は決して簡単なことではないのかもしれません。しかし、「転職の基本」や「自分の価値」などをしっかり理解しておけば、やがてそのハードルを跳び越えられるようになるのではないでしょうか。

著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。