先日、サービス業に勤める若手ビジネスパーソンBさんから、「仕事に対するモチベーションが上がらない」という相談を受けました。

  • ストレスでモチベーションが上がらない経験はありますか?(写真:マイナビニュース)

    ストレスでモチベーションが上がらない経験はありますか?

話を聞いてみると、こんな状況でした。

「シフト勤務で前月末まで休みが決まらない。休みの希望日をいう権利も個人には与えられない(冠婚葬祭などの都合を話すと、露骨にイヤな顔で嫌味を言われる)」

「上司は無茶なノルマを一方的に押し付け、常に人格否定に近い『詰め』ばかり。(部下からの)あだ名は『恐怖の大王』で、困ったことがあっても相談したくない。極力、口を利きたくない」

「メンバー同士の会話は『上司の悪口』『いないメンバーの陰口』『会社への愚痴』が9割。みんなピリピリしていて、毎日、一刻も早く帰りたいと思いながら仕事をしている」

「神経が擦り減るだけの毎日で、休日は、ひたすら家でゴロゴロしている。何もしたくない。気力が湧かない」

……うーん。「モチベーションが上がらない」というより「ストレスにまみれている」という状態ですね(苦笑)。

結論からいうと、こういった環境の職場で、「モチベーションを上げる」のは不可能に近いです。なぜなら、モチベーションが上がらない要素がすべて詰まった環境だから。

モチベーションを左右する3点

エドワード・L. デシ教授の調査から、モチベーションは以下の3点に相関して上下することが分かっています。

1つ目は「自律性」の高さ。「自分で意思決定ができるか否か」です。2つ目が「有能性」の高さ。「その業務や仕事に対して「自分はできる!」という自信をもてるか否か」です。

最後は、「関係性」の良さ。「他者と良い関係で結び付いているか否か」「信頼できる職場の上司やメンバーに囲まれているか否か」です。

Bさんの職場環境は

(1)自律性が低い(休みも仕事も自分の意志決定権がない)
(2)有能性を低く感じられることしかいわれない(常に人格否定に等しい詰め)
(3)関係性が悪い(上司とは話したくなく、同僚同士の会話の9割が悪口)

というマイナス要素をフルコンプリートした状態。ストレスフルになるのが当然です。皆さんの中にも、同じような環境に身を置く人も多いのではないでしょうか?

もし、こういった環境下で働いている場合はどうしたらいいのか……。

しんどいと感じる環境下で、セルフマネジメントとしてできる打ち手は「働きかける」「捉え方をかえる」「離れる」のいずれかです。

人事部へ相談する

もしあなたが生真面目なタイプだとしたら、すべて「自分の至らなさのせい」だと思っていたり、「仕事というのはそういう(環境で行う)ものだ」という思い込みがあったりしないでしょうか。

もちろん、あなたにも「至らなさ」があるかもしれません。けれど、自分にすべて要因がある……という思い込みはしないでください。あまりにひどい場合には、その上司を飛ばして、人事部などに改善を訴えるのも1つの手です。

とはいえ、「それは現実的に難しい」という場合があるでしょう。その場合に効果があるのは、捉え方を変えるということです。

物事の捉え方を変える

この時のポイントは、社内のキャリア研修でやるような「その仕事の意義(誰にどう役立つか?)」ではなく、「自分にとっての意義」という視座に立つこと。仕事の意義にフォーカスすると、「しんどい自分の気持ちを押し殺して、誰かの役に立つ」という点に着地してしまうため、ますます苦しくなります。

だから、まずは「自分にとって」という視座に立つことが必要なのです。

実は、私も20代の頃に、Bさんのような環境にいたことがあります。私の場合は、将来的に、今のような人材育成の講師やコンサルタントの仕事をする目標がありました。

そこで、将来、講師として登壇できる立場になったときに役立てるための「事例収集の場」と割り切りました。「こういう言われ方をすると、部下はこんな不快感を持つし、何も得たものはないな……」といったように「自分にとっての意義づけ」をしたのです。この経験は、講師として登壇できるようになった今、とても役に立っています。

しかし、(当時の私のように)将来を見据えてその仕事に就いた方もいれば、そうではない方もいると思います。後者の場合は、この環境下で、意義を見出すことは難しいかもしれません。

職場を離れる(転職する)

その場合は、「その職場を離れる」ことを検討すべきです。特に組織で役職についていない(もしくは高い役職ではない)場合は、今の職位で、何か変えようと働きかけるのは現実的に考えて無理という場合もあるでしょう。

その場合は、転職という、離れる選択も視野に入れた方が賢明だと思います。一番優先すべきことは、自分の心身の健康ですから。

執筆者プロフィール : 阿部淳一郎氏

ラーニングエンタテイメント 
代表取締役

若手の採用・育成・定着に強い人材開発コンサルタント。早稲田大学教育学部卒。筑波大学大学院(ストレスマネジメント領域)修了。保健学修士。社会人教育を行う東証一部上場企業等を経て2004年に起業。「メンタル不調者を減らし、若者の能力を引き出す」をコンセプトに人材開発業務に従事。大企業から中小・ベンチャー企業、学校、行政まで研修登壇実績は約1500本、コンサルティング実績30社。サンフランシスコ・シリコンバレーへも事業展開中。大学での就職活動領域における講師歴も長い。『これからの教え方の教科書(明日香出版社)』など著書3冊。『NHK』『日経新聞』『読売新聞』『日経アソシエ』『週刊SPA!』など取材実績も多数。