大きく弧を描くセミクジラのペニス、華麗な飾り羽でアピールする鳥、メスの体にくっついて融合する小さなオス。生物が子孫を残すために進化させてきた姿や行動は、想像以上にバラエティー豊かです。東京・上野公園の国立科学博物館で、特別展「生きものたちの性」が10月31日から始まりました。科博で初めてという、「性」を正面からテーマに据えた特別展とは……?

  • 科博が初めて「性」に迫った展覧会を開催。その見どころをご紹介

    特別展「生きものたちの性」が国立科学博物館で開催

巨大なペニスの先にある、オスたちの「精子競争」

まずご紹介したいのが、会場でひときわ存在感を放っていた、こちらのセミクジラのペニスの模型です。太い根元がニョッキリ立ち上がり、先端へ向かって波のように優雅にカーブしている。これがクジラの生殖器なのか……と、そのスケールに唖然。ただ、この展示のおもしろさは大きさだけではありません。パネルに書かれているのが、「精子の洗い流し」という言葉。

  • 【写真】なんじゃこれ~! と驚かされる、セミクジラの巨大なペニスの模型。大きく弧を描いている

    な、なんじゃこれ~! と驚かされる、セミクジラのペニスの模型。大きく弧を描いている/国立科学博物館所蔵

セミクジラのメスは、短期間に複数のオスと交尾することが知られていて、そこで起こると考えられているのが、受精をめぐる「精子競争」。交尾相手を得たからといって、オスが自分の子孫を残せるとは限らないのです。

オスは長いペニスと巨大な精巣をもち、大量の精液によって先に交尾したオスの精子を体外へ洗い流すと考えられ、もし洗い流せなくても、大量の精液を送り込むことで先行するオスの精子の割合を下げ、自分の精子を有利にする効果があるのですって。

  • 「ワレ、やんのか!」とでも言ってそうな、身体を張ったヒグマのオス同士の争い/国立科学博物館所蔵

    「ワレ、やんのか!」とでも言ってそうな、身体を張ったヒグマのオス同士の争い/国立科学博物館所蔵

角を突き合わせたり体の大きさを競ったりと目に見えるバトルだけでなく、交尾後にも競争は続いているとは。生きものたちの繁殖は、こんなにも熾烈な仁義なき戦いの終わりなき連鎖なのです。

なぜ、オスのほうが派手になりがちなの?

一方、会場を華やかに彩るのがフウチョウ類。長く流れる飾り羽に、美しい色彩。雌雄を比べると、同じ種とは思えないほど姿が異なるものもいます。

鳥類では、オスの羽色や飾りが目立つ例が多く、その背景にあるのが、繁殖相手に選ばれることを通じて特徴が広がっていく「性選択」です。メスに選ばれ多くの子孫を残したオスの特徴が、世代を重ねるなかで集団に広がっていった結果、鮮やかな羽や長い飾り羽などが発達してきたと考えられているそう。

  • 見た目だけでなく、動きや鳴き声まで含めた求愛の舞台。会場では、標本に加えて映像や音声からも、その多彩な方法に触れられる/国立科学博物館所蔵

    見た目だけでなく、動きや鳴き声まで含めた求愛の舞台。会場では、標本に加えて映像や音声からも、その多彩な方法に触れられる/国立科学博物館所蔵

ちなみにオスは、決して着飾って待っているだけの受け身な存在ではありません。オオフウチョウは、「レック」と呼ばれる集団求婚場に複数のオスが集まり、跳ね回ったり、羽の美しさを見せたりしてしっかりとメスにアピールします。

  • どちらがオスのカルガモで、どちらがメスでしょう? 奥にはマガモの雌雄も/国立科学博物館所蔵

    どちらがオスのカルガモで、どちらがメスでしょう? 奥にはマガモの雌雄も/国立科学博物館所蔵

昨今の“ルッキズム”“ビジュ至上主義”は人間だけのサガではないのだなと感じさせられたのが、鼻の大きさでアピールするテングザルの展示です。オスはアンバランスなほどに大きな鼻をもち、求愛ディスプレイの際にはさらに膨らむというのだから、この鼻も立派なアピールポイントなのですね。

展示では、鼻の大きなオスほど体格がよく、繁殖能力も高いことが知られ、メスにモテることとの相関関係があると紹介されていました。

  • テングザルのオス(左)とメス(右)。オスの大きな鼻にも、繁殖に関わる役割がある/国立科学博物館所蔵

    テングザルのオス(左)とメス(右)。オスの大きな鼻にも、繁殖に関わる役割がある/国立科学博物館所蔵

メスは1m以上、オスは数cm!? 極端すぎるサイズ差も

体の大きさが、雌雄で驚くほどの違いがある生きものもいます。特に強烈だったのが、深海魚のビワアンコウ。メスが1m以上になるのに対し、オスは数cm程度。【オス↓】という目印がなかったら決して見つけられないほどその体は小さく、メスにくっついて寄生しているとしか見えません。

しかも最終的には融合して、精子を放出する機能だけが残されるというのだから物悲しい。いや、でも考えようによっては、自分に与えられたただひとつの役割を全うする人生も、そう悪いものではないのかなあ……などと、様々な思いが胸を去来しました。

  • ビワアンコウ。メスに比べて極端に小さいオスは、やがてメスの体と融合する/国立科学博物館所蔵

    ビワアンコウ。メスに比べて極端に小さいオスは、やがてメスの体と融合する/国立科学博物館所蔵

これは出会いの乏しい深海で、子孫を残す機会を確保するための戦略。そう聞いても、その姿はなかなか衝撃的でした。

このように、著しく小型化したオスは「矮雄(わいゆう)」と呼ばれています。オオジョロウグモも、メスとオスを並べて見るとサイズ差が際立つ生きもののひとつ。網を張るクモの多くではオスがかなり小さく、風に乗った長距離移動などに利点があると考えられ、オスはメスより少ない脱皮回数で性成熟できるのだそう。

  • オオジョロウグモのメス(左)とオス(右)。並べて見ると大きさの違いがよくわかる/国立科学博物館所蔵

    オオジョロウグモのメス(左)とオス(右)。並べて見ると大きさの違いがよくわかる/国立科学博物館所蔵

オス同士の競争を表す展示では、トナカイが角を突き合わせる迫力ある姿も見られました。トナカイの戦いは、まず相手の体格や角の大きさを見定めるところから始まり、差が大きければ、その段階で勝負がつくそう。そこで互いに引かなければ、角を合わせてガチンコの力比べになります。

  • 角を突き合わせるトナカイのオス。繁殖をめぐる競争を伝える/国立科学博物館所蔵

    角を突き合わせるトナカイのオス。繁殖をめぐる競争を伝える/国立科学博物館所蔵

メスからオスへ。性のあり方もさまざま

さらに展示を進むと、「性は生涯変わらない」という思い込みも揺さぶられます。たとえばコブダイの展示では、メス、中間、オスの模型を並べて性転換を紹介。大きなこぶが目立つオスの姿へと、体の形も変わっていく様子が見てとれます。

  • コブダイのメス(上)、中間(中央)、オス(下)を示した模型/国立科学博物館所蔵

    コブダイのメス(上)、中間(中央)、オス(下)を示した模型/国立科学博物館所蔵

性が決まる仕組みも、染色体だけとは限りません。たとえばクサガメでは、卵が発生する際の温度が性決定に関わり、低温ではオス、高温ではメスになるというから不思議です。

本展は「性のすがた」「性の形と行動」「性の決定・分化」「性と子育て」「性の多様性」の全5章で構成され、繁殖相手との出会いや受精に加えて、生まれた子を育てる方法や、無性生殖などにも目を向けています。

  • 親子の姿を通して、生きものの子育てにも目を向ける

    親子の姿を通して、生きものの子育てにも目を向ける

派手に着飾ったり、極端に小さくなったり、あるいは性別を変えたり……それぞれの行動には、命をつないできた歴史があります。迫力ある模型や美しい標本に目を留めながら、「なぜこんな姿なのだろう」と驚き、説明を読んでみた先に、生きものたちの多様な繁殖戦略が見えてくる展覧会は、2027年2月21日まで開催です。

■特別展「生きものたちの性」
会期:2026年10月31日~2027年2月21日
会場:国立科学博物館(東京都台東区上野公園7-20)
時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
入場料:一般・大学生2,300円、小・中・高校生600円、未就学児無料
休館日:毎週月曜日ほか。臨時開館日・休館日の詳細は公式サイトを参照