東京・上野の国立西洋美術館で、10月24日から「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」が始まりました。世界最大のターナー・コレクションを誇る英国・テート美術館から、油彩画や水彩画など80点以上が来日。現代美術の作品も組み合わせた、ひと味違う展覧会となっています。
ターナーってどんな画家? 「光の画家」の多彩な風景
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775~1851年)は、英国ロマン主義を代表する画家。「光の画家」とも呼ばれ、風景を包む光や大気、刻々と変わる自然の姿を描きました。若くして才能を認められ、26歳で英国のロイヤル・アカデミーの正会員に。絵画の可能性をさまざまに押し拡げ、その歴史に新地平を切り拓いたターナーは、"英国絵画史上もっとも偉大な画家”とも称される存在です。
本展のキーワードになっている言葉が「崇高」。ちょっと難しくも聞こえますが、たとえば、大自然を前にしたときの「美しいけれど、怖い」「圧倒されるのに、目を離せない」という感覚を思い浮かべると、近づきやすいかも。
同展キュレーターのエリザベス・ブルック氏は、崇高について、自然やそれを表した芸術が呼び起こす畏敬や恐れ、歓喜が同時に湧き上がる感覚として説明しています。
テートの名品が集結! 現代美術と並ぶと、何が見えてくる?
作品の貸出元であるテートは、英国美術と世界の近現代美術を収集する、英国の美術館のネットワーク。ロンドンのテート・ブリテンやテート・モダンなど、4つの美術館からなり、ターナーの膨大なコレクションを擁することも大きな特徴です。
そして、今回ならではの特徴が、ターナーと近現代のアーティストの作品を、テーマに沿って同じ空間に展示していること。「古典と現代美術の対話」と聞くと身構えてしまいそうですが、まずは、時代の違う作家たちが同じ自然に何を見たのか、見比べてみると楽しめそう。
本展を担当する国立西洋美術館主任研究員の新藤淳氏は、約10年にわたって古典と現代美術を組み合わせる展示に試みてきたそう。その経験を踏まえても、今回は日本の美術館でこれまでとは異なる鑑賞体験を届けられるのではないかと、大きな期待を寄せていました。
強調していたのは、こうした組み合わせによって、ターナーの絵そのもののすごさが、あらためて見えてくるということ。後世の画家への影響だけでなく、今、目の前にある一枚から何を感じるか。その新鮮な出合いを楽しんでほしいといいます。
最初は暗い部屋へ。無数の光とターナーの日食スケッチ
展示の始まりから、意外な光景が待っています。序章のテーマは「暗い部屋」。暗い空間に無数の光の粒が広がり、ゆっくりと動いています。光を生み出しているのは、ケイティ・パターソンの《Totality(皆既食/全体性)》です。
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ケイティ・パターソン《Totality(皆既食/全体性)》2016年、個人蔵 Courtesy of a private collection and Ingleby Gallery © Katie Paterson
球体に用いられているのは、人類が歴史の中で残してきた日食の記録像。一つひとつ異なる日食のイメージが、空間に光を投げかけます。
その近くには、ターナーが日食を記録したスケッチも。約200年前の画家と現代のアーティストが、ともに空を見上げ、光の不思議に心を動かされていたことが伝わってきます。
山や水辺からヴェネツィアへ。風景ごとに変わる表情に注目
会場を進むと、英国の山岳や水辺、さらにアルプスなど、ターナーが見つめたさまざまな風景が現れます。
岩や樹木、建物を描き分けた作品では、画家の緻密な観察力に注目を。光や空気を大胆に描くイメージの強いターナーですが、その足元には、自然をよく見て捉える確かな技術がありました。
また、山岳風景の展示では、オラファー・エリアソンが1999年と2019年に同じ氷河を撮影した写真シリーズも並びます。ターナーが見つめた自然から、現代の気候変動へ。時代の違う作品を見比べることで、風景を見る視点も広がります。
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会場風景/自然を見つめる異なる時代の視点が交差する
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会場風景/神話や聖書の物語を描いた作品が並ぶ第3章「歴史的崇高」
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J.M.W. ターナー《風景・タンバリンをもつ女》1840-50年頃、栃木県立美術館蔵 ※展示は東京会場のみ
一方、ターナーが水の都・ヴェネツィアを描いた作品群では、建物と水面、空が織りなす多彩な色彩が魅力。同じ都市でありながら、一枚ごとに異なる表情を見せています。新藤氏も、ターナーがヴェネツィアを描くたびに、まるで初めてその都市を見るかのように向き合っていることに言及していました。
波と光に目を奪われる、大作《捕鯨船エレバス号に万歳! もう一頭獲ったぞ!》
大きな見どころの一つが、《捕鯨船エレバス号に万歳! もう一頭獲ったぞ!》。展覧会のメインビジュアルにも使われている作品です。
画面に広がる明るい光と、荒々しく動く海。見つめていると、その中から船や人々の姿が浮かび上がってきます。船をはっきり描くだけでなく、海のうねりや水しぶき、空気まで画面に取り込もうとするような表現。遠くから全体を眺め、近づいて絵具の重なりを見ると、印象が変わるのも面白いところ。圧倒的な自然の力と人間の営みの両方がひとつの画面にあることを感じとれます。
暗い空間から始まった展覧会の終盤には、白い壁の明るい展示室が広がります。新藤氏の念頭にあったのは、1966年にニューヨーク近代美術館で開催され、後期ターナーの評価を考えるうえで重要な機会となった展覧会だとか。
光や色、大気の表現が大胆になった後期ターナーの作品に、20世紀アメリカの抽象絵画を代表するロスコやニューマンの絵画が加わる空間。なかには、ターナーが生前に発表せず、アトリエに残されていた未完成の作品も。画家の大胆な実験や試行錯誤に触れられることも、この展覧会の魅力でしょう。
月光や日食のスケッチ、険しい山岳風景、水の都・ヴェネツィア、荒れる海、そして光と色が広がる後期の作品まで。ターナーの多彩な表現を、近現代美術とともにたどれる今回の展覧会は、2027年2月21日まで、国立西洋美術館で開催です。
■information
「テート美術館 ターナー展――崇高の絵画、現代美術との対話」
会場:国立西洋美術館
期間:2026年10月24日~2027年2月21日(9:30~17:30、金・土は20:00まで)
休館:月曜日、11月24日、12月28日~2027年1月1日、1月12日(ただし11月23日、2027年1月11日は開館)
入場料:一般2,400円、大学生1,500円、高校生1,100円
[巡回展]大阪中之島美術館:2027年3月13日(土)~6月27日(日)








