「自信を持って」「決して諦めないで」―― 一人ひとりへのメッセージを添えたフィードバックシートを手渡していくうちに、思わず涙があふれた。

今年6月、未来のアナウンサーなどを育成する日テレ学院の6代目学院長に就任した日本テレビの蛯原哲アナウンサー。全10回の「エキスパートクラス」を受講し、アナウンス技術に磨きをかけてきた学生たちの模擬面接を終えた後、いわば「卒業式」が行われた。

学生たちへの思いを語り始めると、涙が止まらない。「こんな感情になるとは思わなかった」と振り返る教え子たちは、全10回を最初から最後まで教えた「蛯原一期生」だ。

入社30年目を迎えた今もスポーツ実況などの第一線に立ちながら、学生たちの指導にも情熱を注ぐ蛯原アナ。現役アナウンサーならではの教育方針や、亡き前学院長から受け継ぐ思い、そしてAI時代のアナウンサーに求められる役割について聞いた。

  • 日テレ学院長の蛯原哲アナウンサー

    日テレ学院長の蛯原哲アナウンサー

「厳しいことも言いましたから…」

全10回のエキスパートクラスを締めくくる授業。学生たちは、これまで指導を受けてきた講師陣を前に、本番さながらの模擬面接に挑んだ。

出されたお題に対し即興トークを考える数十秒、静寂に包まれた部屋の中には時を刻む秒針の音だけが響き、緊張感を増していく。普段から顔を合わせている相手にもかかわらず、硬くなっていく表情。思うように実力を発揮できた学生もいれば、悔しさを残した学生もいたが、講師たちは全員が最後まで諦めずに取り組んだ姿勢をたたえた。

そして迎えた「卒業式」。蛯原アナは、一人ひとりにフィードバックシートを手渡しながら、「自信を持って」「決して諦めないで」と声をかけていく。その表情は、愛弟子たちの巣立ちを見守る教師そのものだった。

最後のあいさつでは、学生たちの成長ぶりについて「上手になったなと思いながら聞いていました」と感慨深げに振り返った。

「厳しいことも言いましたから、傷ついた子もいたんじゃないかと思うんです。でも、全てはみんなに本当にアナウンサーになってほしいということもありますけど、素晴らしい、素敵な人間になってもらいたいという思いからなんです。高い授業料も払っているわけですから、僕も全力で、できる限りのことをしようと思って、毎回ここに来ていました」

そう語るうちに、蛯原アナの目には再び涙が。教え子たちに「これが終わりじゃないんでね。これから始まりなんで」と伝え、「同じ目標や夢を持ってここに集まったんだから、みんなでこれからも何かあれば相談して、この仲間を大事にしてほしい。そういう気持ちがアナウンサーとしても生きると思う」と呼びかけた。

最後は自らを「泣き虫先生でした」と称し、教室は和やかな空気に包まれた。

  • 卒業する学生たちを前に涙が止まらない蛯原アナ

    卒業する学生たちを前に涙が止まらない蛯原アナ

不安もあった学院長との兼務「どこまでできるのか」

授業終了後、改めて心境を尋ねると、「もう、こんな感情になるとは思わなかったです。本当に」と、率直な言葉が返ってきた。

学生たちとは、火曜日と土曜日を中心に基本的に毎週顔を合わせ、成長を見守ってきただけに、「僕の中では一期生ですね」と思い入れも強い。

現役アナウンサーとしての業務と学院長の兼務には、当初「どこまでできるかなという不安もあった」という。それでも学生たちと実際に接するうちに、「通常業務を何とか調整してでも来なきゃダメだなという気持ちにさせてくれる子たちだったので、結果的に当初の予定よりずっとたくさん日テレ学院に来ていると思います」と、自然に足が向くようになった。

そんな教え子たちの緊張する姿には、自身の就職活動の記憶も重なる。約30年前、アナウンサーの採用試験では不合格が続き、最後に受けたのが日本テレビだった。「僕もダメで、ダメで、ダメで(笑)。最後が日本テレビだったので、開き直ってニコニコして、もうどうせダメだと思って受けていたような気がします」と振り返る。

結果的に採用された経験から、学生たちにも、いい意味で開き直ることの大切さを感じている。模擬面接で緊張する学生たちを見ていると、「もっと自分を出してほしい」という気持ちになるそうで、本番の面接では少しでもリラックスできるような質問を心がけた。

  • 模擬面接の様子

    模擬面接の様子