そもそも蛯原アナには、アナウンサーになる前に抱いていた夢があった。高校生までは学校の先生を目指し、ずっと続けていた野球の経験から、高校野球の監督として甲子園に行きたいと考えていたという。

それだけに、日テレ学院の学院長就任の打診は、約30年のアナウンサー人生を経て、もう一つの夢に挑戦する機会となった。

「学生に何かを教えるというお話を頂いて、“そういえば学校の先生になりたかったな”と思い出したんです。そんな機会があるのであれば、ぜひ挑戦してみたいという気持ちになりました」

現役バリバリのアナウンサーが学院長を務めることは、大きなメリットだと考えている。採用試験に関わってきた経験もあり、「テレビ局がどういったアナウンサーを求めているのか、旬の情報を持っていることは武器になる」と自負している。

その強みは授業にも反映されている。例えば、目の前の景色を見ながら実況する「情景描写」の授業では、通常の東京・麹町の教室を飛び出し、汐留の日本テレビ本社でも実施。ガラス張りの部屋から新橋の街並みや東京タワー、夕日が差す様子、走る車などを見ながら、その光景を言葉にする技術を伝えた。

これは、蛯原アナが新人アナウンサーの研修でも必ず取り入れている授業だという。さらに、サッカーワールドカップ関連番組の準備が行われていたスタジオを見学する機会も設け、学生たちはテレビ制作の現場に直接触れた。

現役アナウンサーとのつながりを生かした講師陣の充実も、力を入れていることの一つだ。水卜麻美アナ、森圭介アナ、辻岡義堂アナらの協力を得て、「みんな僕の後輩ですけど、すごいと思っているアナウンサーたちに“ごめん、力を貸して”とお願いして、講師に来てもらっています」という。水卜アナとはイベントも開催し、約200人もの学生と交流して盛況となった。

動画では伝わらない心のぬくもりや愛、情熱

現在はYouTubeなどでもアナウンス技術を学べる動画が公開され、無料で基礎に触れられる環境が広がっている。そうした中で、対面授業にどのような価値を見いだしているのか。

蛯原アナは、技術の習得だけではない教育方針を語る。「基礎的なことの導入部分は、動画でも学べるのかもしれません」としながらも、学生たちに最も望んでいるのは、人生の大切な時期に自分自身と向き合うこと。

「自分は本当に何なんだろう」「何のために生きるんだろう」「自分の好きなことは何だろう」「やりたいことは何だろう」と自問し、自分自身の可能性を見つめ直すきっかけになってほしいと願っている。

そこに、対面指導ならではの意義を感じている。オンラインや動画だけでは、心のぬくもりや愛、情熱といったものはなかなか届かないのではないかと考え、「学生たちと直接向き合って、本当に親身になって、一緒に前を向いて歩いていきたい。結果的にアナウンサーではない違う道に進むかもしれませんけど、家族のように接していきたいと思っています」と話す。

アナウンサーという職業に就かせることだけが、学院長としてのゴールではない。学生たちが自分に合った道を見つけ、成長していくことを何よりも大切にしているのだ。