すでにピニンファリーナデザイン由来の「ラピート」が走っていた。本誌既報の通り、南海電鉄は次期空港特急について、フェラーリの名車などを手がけたピニンファリーナ社と共創すると発表した。共創のきっかけは何か。鉄道車両のデザインにどんな信念を持っているか。ピニンファリーナ社に問い合わせたところ、回答を得られた。両者の縁はスイスの「ゴールデンパス・エクスプレス」がつないでいた。
本誌記事「南海『ラピート』後継車で共創、ピニンファリーナのデザイン思想は」(2026年8月15日掲載)の執筆にあたり、筆者はピニンファリーナ社に以下の内容で質問を送った。
- 1.ピニンファリーナが南海電鉄の新型車両のデザインに関わることになったきっかけは何ですか?
- 2.鉄道車両を設計する際に、常に念頭に置いている原則や考え方は何ですか?
- 3.現在の南海電鉄「ラピート」のデザインをどう思いますか?
- 4.新しい特急電車のデザインは、現在のデザインを継承しますか? 革新しますか?
前回の記事掲載に間に合わなかったものの、掲載後に丁寧な返信をいただいた。ただし、質問の3・4については、「残念ながら現時点ではコメントを差し控えさせていただきます。新型車両のデザインはまだ公表されていないためです」とのことだった。
南海電鉄とMOBの「強固な関係」が参画のきっかけに
1の「ピニンファリーナが南海電鉄の新型車両のデザインに関わることになったきっかけ」については、以下の内容で回答をいただいた。
ピニンファリーナの参画は、南海電鉄とスイスのモントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道(MOB)との長年にわたる強固な関係から始まりました。このつながりを通じて、私たちは南海電鉄と交流し、コラボレーションの可能性を探る機会を得ました。
最初の話し合いから、私たちは共通のビジョンを共有していることが明らかになりました。それは、デザインを通して永続的な価値を創造し、世代を超えて愛される体験を提供し、革新性と伝統への深い敬意を融合させることです。
こうした価値観の一致がパートナーシップの基盤となり、最終的にピニンファリーナが南海電鉄の新型車両のデザインを手掛ける企業として選ばれることにつながりました。
モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道(MOB)はスイス西部のモントルーとツヴァイジンメンを結ぶ62.4kmの本線と、ツヴァイジンメンとレンクを結ぶ12.9kmの支線を保有している。本線の起点となるモントルーはレマン湖畔のリゾート地。途中、山岳リゾート地として知られるシャトーデーがあり、終点のツヴァイジンメンはハイキングやウィンタースポーツの楽園として知られるグシュタードへの玄関口となっている。
ツヴァイジンメンから先はBLS鉄道のレギオナルツーク線が接続し、スイスアルプスの交通の要衝、インターラーケンに通じている。この全区間を走る列車が「ゴールデンパス・エクスプレス」であり、ピニンファリーナ社がデザインを担当した。
南海電鉄は2017年10月にMOBと姉妹鉄道協定を結んだ。高野線の特急「こうや」は走行距離63.8kmで、MOBの本線とほぼ同じ。MOBの最急勾配は73パーミル、高野線も橋本~極楽橋間で最急勾配50パーミルの山岳区間を持つ。MOBの沿線に世界遺産「ラヴォー地区のブドウ畑」があり、高野線も世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」のひとつ、高野山がある。
他にも沿線の絶景ポイントとして「アルプスの雪景色」(MOB)と「高野山の紅葉」(高野線)、美食ポイントとして「グリュイエールチーズ」(MOB)と「高野山の精進料理」(高野線)など、共通点が多い。そこで「両社の友好関係を深め、双方の沿線が国際観光地として発展し地域活性化に貢献することを目的として」姉妹鉄道協定の締結に至った。
MOBは2018年から高野山をイメージしたラッピング列車を運行。他の車両やモントルー駅でも姉妹鉄道をPRする装飾が行われた。南海電鉄は橋本~極楽橋間を運行する2300系に相互の沿線を紹介するポスターを掲出し、ケーブルカー高野山駅にMOB展示コーナーを設けた。
2024年3月からは、特急「ラピート」(難波~関西空港間)で使用する50000系の第4編成に、MOBの展望列車「ゴールデンパス・エクスプレス」のデザインをラッピングし、「MOBラピート」として運行している。「ゴールデンパス・エクスプレス」のデザインを手がけたピニンファリーナ社は、こうしたMOBとの取組みを通じて南海電鉄との接点を持ったと考えられる。
「ゴールデンパス・エクスプレス」は、レマン湖畔のモントルーからスイスアルプスのインターラーケンまで3時間15分で結ぶ観光特急列車。この列車が走る鉄道ルートは、スイス屈指の絶景ルート「ゴールデンパス・ライン」として知られる。ただし、MOBは軌間1,000mmのメーターゲージに対し、BLSは軌間1,435mmの標準軌であるため、両社の境界駅であるツヴァイジンメンで乗り換える必要があった。そこでMOB社は軌間可変台車を採用した新型客車を開発。ツヴァイジンメンで軌間を調整し、機関車を交換することで全区間の直通運転を実現した。これが「ゴールデンパス・エクスプレス」である。
客車はシュタッドラー・レール社で製造し、列車の特徴的な先頭部をピニンファリーナがデザイン。内装と一部の外装をイノーバ・デザインが手がけた。特等・1等・2等の3クラスを有し、2024年から低床車を導入している。全車両で大きなパノラマ窓を採用しており、太陽光が降り注ぐ明るい車内でスイスの美しい景色を楽しめる。
編成の先端部分は丸みを帯びつつ、窓の両側はエッジを効かせた曲線に。この曲線が屋根まで続き、編成全体を引き締めている。大きな緩衝器を備えた連結器部分は、左右から抱え込むようにボディが張り出している。ヨーロッパの客車列車の伝統を保ちつつ、ピニンファリーナの美学も感じさせる列車となっている。
ピニンファリーナは鉄道車両の設計でも機能美を追求する
2の「鉄道車両を設計する際に、常に念頭に置いている原則や考え方」については、ピニンファリーナ社から以下の回答をいただいた。
鉄道車両の設計において、私たちは常に美しさ、機能性、そして乗客体験のバランスを追求しています。列車は単なる移動手段ではなく、人々が時間を過ごし、周囲の環境とつながる空間です。
私たちの設計アプローチは、時代を超越したデザイン、人間のニーズへの配慮、そして強いアイデンティティに基づいています。効率的で技術的に高度な車両を創造すると同時に、感動、快適さ、そして優雅さを伝えることを目指しています。
何よりも、運行事業者と地域社会双方の価値観を反映し、長年にわたって価値があり、高く評価されるソリューションを設計することを目指しています。
8月に掲載した本誌記事で、ピニンファリーナの歴代カーデザイナーの言葉を引用した通りの回答だった。ピニンファリーナは機能美を追求し、独自性を求め、エレガントなスタイルを与える。ただ奇抜なデザインを作りたいだけではなかった。
これらの回答から、現在運行中の「MOBラピート」をはじめとするMOBとの取組みが南海電鉄とピニンファリーナ社の接点を広げ、今回の起用につながったのではないかと筆者は考える。「ラピート」の後継となる次期空港特急のエッセンスは、MOBの「ゴールデンパス・エクスプレス」に見出せるかもしれない。

