生まれつき視力を持たないその男は、光のない世界でひたすら音の純度を高めてきた──19日に放送されたMBS・TBS系ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(毎週日曜23:00~)に、ピアニスト・辻井伸行氏が登場。SNSでは、「そのピアノ音色に圧倒された」「普段テレビを見ない私が、釘付けになった」などの声が上がっている。

  • 辻井伸行氏

    辻井伸行氏

1988年9月13日生まれの37歳・辻井氏は、眼球が十分に成長しない小眼球症により、生まれつき全盲となった。2歳の時、おもちゃのピアノを弾いている彼の姿を見て、母親がその非凡なる才能に気づく。

7歳からピアニストの川上昌裕に師事。2009年、20歳にして「ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」で日本人初の優勝を果たし、世界的なピアニストへの扉を開いた。

そんな彼の、東京のプライベートスタジオが登場。非公開である練習場に、初めてカメラが入った。「緊張しています…」とスタッフをスタジオに迎え入れた辻井氏は、肩をすくめながらそうはにかんだ。

生まれつき視力を持たない辻井氏は、新たな曲に挑戦するとしても、譜面を見ることができない。膨大な音のパーツを耳で聴き取り、一音ずつたどるようにして暗譜を始める。印象的なのは、純粋に音の響きを楽しむ様子だ。初めてピアノに触った少年のような表情は、世界を舞台に躍動する異能のピアニストのイメージを裏切る。

幼少期から天才と呼ばれ、20歳にしてヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人初優勝。以来、各国の名門ホールで演奏するなど華々しい実績を積み重ねてきた。おととしにはクラシックレーベルの最高峰、ドイツ・グラモフォンとグローバル専属契約を結んだ。日本人ピアニストとして初めての偉業を機に、改めて世界中の注目が集まるようになっている。

だが、本人が何度も口にしたのは「やがては世界を目指したい…」という言葉。そのためには、さらに様々な作曲家に挑戦し、レパートリーを増やす必要があるのだという。既に世界で名を馳せているのになぜそのような意識があるのか。

番組はこの春から、新曲に取り組む彼のプロセスをつぶさに見つめた。フランスを代表する作曲家の一人、名匠フランシス・プーランクを始め、初めて挑む3つの楽曲を分解し、ゼロから音を紡いでゆく日々。そして迎えた本番で、辻井氏は珍しく弱音を吐いた。「2日前ぐらいまで、ずっと全貌が見えてこなくて。今回はけっこうギリギリまで仕上がらなかった」。彼は探していたのだ。湧き上がってくる自分だけの“音”を──。

しかし本番のステージ上、弾き終わって観客にお辞儀をする辻井氏の顔は、笑顔に満ちあふれていた。「3日前(までの悩みが)嘘のようだな」。舞台裏でうれしそうに語る辻井氏。「夢」を問われて、辻井氏はこう答えた。「やっぱり世界を目指しているから。巨匠と言われているピアニストみたいに、自分も歴史に残るように(なりたい)」

この放送にX(Twitter)では、「すごかった。一度は生で聴きたい、素直にそう思えた」「管弦楽団との練習でソロで弾いてる時の迫力が凄まじくて震えたし、感動もした」「演奏会を終えた後の笑顔が可愛かった」「すでに世界的なのに、世界を目指しているって…。どこまでも遠くを見ているんだろうな」などのコメントが寄せられていた。

筆者も彼の演奏には、思わず鳥肌が立った。自然に涙腺がゆるみ、涙すら、流した。それは、体と心全体で音を感じ、体と心全体で音を奏でる、彼ならではの演奏だったからかもしれない。

この放送は、TVerで配信されている。

【編集部MEMO】
次週7月26日は、『日曜日の初耳学 堺雅人×林修「VIVANT」放送直後90分SP』のため休止。次回8月9日の放送は、空を飛び 島民の命を守る瀬戸内海の“フライングドクター”診療所医師・次田展之さんに密着する。