井川線の魅力が大井川本線復旧の意義にもつながる
井川線が盛り上がったとして、もうひとつ課題がある。大井川本線の川根温泉笹間渡~千頭間は2022年に被災したまま不通となっており、いまは列車で井川線に行けない。できることならSL列車に乗って行きたい。
「2029年度中に本線の全線復旧を目指して工事に着手しています。2029年っていうと、2022年に被災してから7年動いてないわけです。その前のコロナも考えると、2019年から10年間、お客様がいなかった。さて、10年経ったときに需要が戻るかどうか。そして、現在は全線の半分くらいだった保守費用が、全線開通で2倍になります。売上は戻らないかもしれない。経費は増える」(鳥塚氏)
社内で何度も検討を重ねた。その中で、「もう川根温泉笹間渡駅までで良いのではないか」との意見もあったという。
「しかし、(各地で見られるような)災害でそのまま廃線となる構図はこれ以上広げたくない。そして、本線の客は戻らなくても、井川線のお客様は増える。これは確実です。そうすると、井川線の収益につながるなら、本線を復旧させる意味が出てくる」(鳥塚氏)
川根本町も本線の復旧に約1.8億円を負担した。本線の復旧費用を負担しつつ、井川線の集客にも期待してのことだろう。
「いままで、大井川鐵道にとって、井川線の売上はなかった。お客が増えようと減ろうと関係なかった。しかし、今後は井川線の客が増えるし、本線がつながったらもっと増えます。そういう仕組みを作る必要があるから、全線復旧は必要なんですと説明しています。私たちは民間企業です。第三セクターではないから、何年か経ったら投資を回収して黒字にしますよ、という姿勢で事業計画を作っていく」(鳥塚氏)
ブルートレインの次は「ミキスト(混合列車)」も!?
中部電力との関係ももっと深めていきたいと鳥塚氏は言う。井川線が地域補償のシンボルというだけでなく、中部電力にとっても必要な鉄道になるために。キーワードは「ダム堆積物の運搬」。大井川鐵道は2010年に西武鉄道から電気機関車(E31型)3両を購入したが、理由の中にダム堆積物輸送、リニア中央新幹線のトンネル発生土輸送という目論見もあった。リニアは単なる見込みだったが、ダム堆積物輸送については検討された。しかし実現しなかった。
「地元の業者さんへの遠慮もあったでしょうけれど、設備投資を大きく見積もりすぎたんでしょう。積載用のホッパー設備を作ってほしいとか、引き込み線の費用も全額負担してほしいとか。たぶんそういうお金の面で折り合わず、話は流れてしまった」(鳥塚氏)
鉄道輸送の話は流れたが、堆積物は流れずに貯まっていく。ダムがなければ、大井川がすべて下流まで運び、ときに土砂災害も起こす。そうならないように、ダムから下流までダンプカーが堆積物を運んでいる。現在は1日10台で3往復、合計30往復が生活道路を走る。
「国の予想では、堆積物はもっと増えていくそうです。一方でドライバー不足もあり、地元の業者はもう無理だと。河川整備局もできるだけ下流に捨てたい意向があるので、輸送距離を短縮して上流に捨てるより、せめて増加分だけでも鉄道で運んでくれないかと考えているそうです。それならウチでやりますと」(鳥塚氏)
その一方で、積替え施設の建設費用はどうするか。国は出せないという。
「どこで積み込むかは詰めていませんが、トンパック(大型土嚢袋)に詰めてフォークリフトとかクレーンで貨車に載せればいいでしょう。それを井川線で輸送して、軌間は同じだから本線に乗り入れて新金谷駅に持ってくる。新金谷駅から大井川の川岸まで側線があって、ここは他社からの車両の受け入れや廃車解体に使ってます。そこからフォークリフトで川岸に堆積物を捨てます。川の流れの代わりに」(鳥塚氏)
ただし、トンパックの素材はポリプロピレンだから、そのまま劣化分解させるとマイクロプラスチック問題の原因になりかねない。燃やしても塩素を発生させない素材が多いというから、トンパックから中身を出し、袋は燃やしたほうがいいかもしれない。このあたりは国土交通省で研究中だという。
「貨物列車は本線全線復旧が落ち着いたらスタートしたいです。自社線内で完結する貨物列車を使って平日に稼いで、土休日に観光で稼ぐ。これを5年以内で実現させれば、30年くらいは本線も井川線も問題なく運行できるでしょう」
「そこでね」と鳥塚氏。
「貨車を走らせられるようになったら、ミキスト(混合列車)をやりたいんです」
「ミキスト(混合列車)」は客車と貨車を両方連結する列車。1980年代までローカル線などで走っていた。蒸気機関車に旧型客車と貨車を連結する。いまとなっては珍しいスタイルで、実現すれば鉄道ファンが多く訪れることだろう。ビジネスプランの中に少しだけ社長の趣味を混ぜ込む。大井川鐵道がますます面白くなりそうに感じられた。