なかでも圧倒的な存在感を放っていたのがゴウ。主人公とは思えない人格崩壊者で、作品全体に漂うコメディのムードを徐々にサイコホラーへと変えていった。もし今放送されたら「何者?」「怖すぎる…」「人間なのか?」などの声があがったのではないか。
特に最終話で見せたアユムとの激しいやり取りと結末は衝撃的で、これも「『ラブコンプレックス』らしい」か「最後まで理解できなかった」か意見が分かれるところだろう。
当時の唐沢寿明は一躍人気者となった『愛という名のもとに』(フジ系、92年)以降、『ホームワーク』(TBS系、92年)、『妹よ』(フジ系、94年)、『おいしい関係』(フジ系、96年)、『イヴ』(97年、フジ系)などラブストーリーへの出演が多く、「『ラブコンプレックス』もその流れ」と思っている視聴者が多かった。
さらにその後に演じた『白い巨塔』(フジ系、03~04年)、『不毛地帯』(フジ系、09~10年)など社会派作品のイメージが強い人もいるのではないか。そんなラブストーリーでも社会派作品でもない唐沢のハイテンションな演技も「意味不明」というムードを加速させていた。
一方、秘書たちが抱えるコンプレックスも当時としてはインパクト大。むしろ女性の社会進出が進み、精神的な問題が顕在化した現在のほうが自分事として共感しやすいのかもしれない。
また、それを木村佳乃、りょう、小雪、伊東美咲、西田尚美というモデル出身女優たちが演じるギャップもあって、「7人の美女を愛でる」という男性視聴者も多かった。美男美女をそろえたキャスティングであることは間違いなく、それが目当ての視聴者をカオスな世界観で混乱させていたのは確かだ。
第1話が「最終回」という謎脚本
最後に君塚良一の脚本に話を移すと、ラブストーリーに「オタク」「マザコン」を持ち込みホラーコメディ化した『ずっとあなたが好きだった』(TBS系、92年)、「銃撃戦」「カーチェイス」を排除した刑事ドラマ『踊る大捜査線』など、あえてセオリーを外し、視聴者の意表を突くことに長けている。
『ラブコンプレックス』はその最たるところで、君塚作品の中でも「最もぶっ飛んだドラマ」と言っていいかもしれない。それは第1話が「最終回」、最終回が「終わりの始まり」という時系列不明のサブタイトルからもわかるだろう。映像的にトリッキーな演出が多かったことも加わって「よく分からないのに見たくなる」という不思議な中毒性のある作品となった。
もし当時の視聴者が今もう1度見たら、どう感じるのか。「ちょっと時代が早すぎた名作」なのか。それとも「やっぱり意味不明」なのか。そんな楽しみ方ができる稀有な作品であることは確かだ。
日本では地上波だけで季節ごとに約40作、衛星波や配信を含めると年間200作前後のドラマが制作されている。それだけに「あまり見られていないけど面白い」という作品は多い。また、動画配信サービスの発達で増え続けるアーカイブを見るハードルは下がっている。「令和の今ならこんな見方ができる」「現在の季節や世相にフィットする」というおすすめの過去作をドラマ解説者・木村隆志が随時紹介していく。