2番目に注目されたのは20時42分で、注目度74.3%。一橋治定と瓜二つの人物が登場するシーンだ。
危うく毒殺されかけた蔦重(横浜流星)は真相を確かめるべく長谷川平蔵宣以に連れられて、浄瑠璃小屋へと足を踏み入れた。「傀儡(かいらい)好きをおびき出し、ここで始末するつもりが見抜かれたのだ」平蔵が低い声で説明する。小屋の中には毒殺された数名の遺体が並べられ、筵(むりそ)がかぶせられている。桶に向かってえずいているものもまだ多く、その凄惨さが被害の大きさを物語っている。
平蔵によると祝儀として饅頭を配る者の中に、傀儡好きの息のかかった者が紛れ込んでいたらしい。「名が入ってねぇのが毒饅頭ってことですか」と、蔦重は現状を把握し、顔をこわばらせた。さらに毒饅頭は計画に関わったものにしか配られておらず、警告の意味も込められていると平蔵は続ける。市民にすぎない自分が狙われた意味がわからない蔦重だったが、平蔵は写楽を餌に傀儡好きをおびき寄せる計画だったと明かす。巻き込んだことを謝罪する平蔵だったが「すまぬじゃねえですよ! 俺たちゃお武家さんじゃねえんです。どうやって身、守れってんですか!」自分だけでなく店まで巻き込まれた蔦重は怒り心頭だ。
そこへ「やかましい! なぜ、連れてきておるのだ」と定信がいら立った声をあげた。平蔵が蔦重と店も狙われたために打ち明けたと説明する。重苦しい空気が小屋を包む中、柴野栗山が奥から人影とともに現れる。「え…長谷川様、このお方は…」男の顔を見た蔦重は息をのむ。その男の顔は耕書堂に現れた立派な鼻の侍こと傀儡好きの大名にそっくりだった。
「平成のテロリスト」が毒饅頭を配る
このシーンは、一橋アベンジャーズを手玉にとる治済に、視聴者が戦慄したと考えられる。
順調に進んでいたと思われていた定信たちの計画だが、治済はすべて把握していた。大崎の裏切りもとうに見抜いており、さらに毒饅頭配り(村上和成)まで潜り込ませている。邪魔者と判断したら大崎や定信たちだけでなく、蔦重たち市民ですら容赦なく葬ろうとする冷徹な姿は、ラスボスに相応しい外道っぷりだ。
SNSでは「陰謀の初心者たちが、陰謀で成り上がってきた男に陰謀で勝てるわけなかったんだね…」「大河ドラマでこんなホラーミステリーが見られるなんて思わなかったよ」「悪巧みに関しては1枚も2枚も役者が違ったな」と治済の恐ろしさに多くのコメントが集まった。また、最後に現れた治済のそっくりさんは何者なのだろうか。残り2回となった『べらぼう』だが、目が離せない展開だ。
今回のキーアイテムとなった饅頭は全国で最も普及した和菓子の一つで、茶店・菓子屋・寺社の門前などで手軽に買える庶民の味だった。小麦粉の皮で餡を包んで蒸した蒸饅頭が主流で、現在の酒饅頭・塩饅頭・薯蕷饅頭・茶饅頭の原型も江戸時代に確立している。饅頭は寺社の供物、祝い事、芝居小屋の売店などでも登場し、文化生活と密接に関わっていた。高価な菓子が多い中で、饅頭は比較的入手しやすい上に腹持ちもよく、日常的な甘味として重宝された。
毒饅頭配りを演じた村上和成は、総合格闘家・プロレスラー。俳優としても数多くのドラマに出演しており、大河ドラマは2006年『功名が辻』、20年『麒麟がくる』、21年『青天を衝け』、22年『鎌倉殿の13人』に続いて5度目の出演。00年に対戦相手の橋本信也を試合前に駐車場で奇襲したことから「平成のテロリスト」というニックネームを持っている。「平成のテロリスト」が江戸時代に権力者の手先として毒饅頭を配るテロ行為をするとは、なかなか強烈な演出だ。