9月最終日の30日夜、『スティンガース 警視庁おとり捜査検証室』(フジテレビ系、火曜21時)の最終話が放送され、今夏ドラマが終了した。
もともと夏は長期休暇に加えてイベントなども多く「ドラマを連続視聴してもらうことが難しい季節」と言われ、さらに今夏はTBSが『世界陸上』で3作を9月早々で終了。つまり放送前から視聴率や配信再生での苦戦は覚悟している節があった。
各局はそんな難しいクールにどんな作品を送り込み、結果としてどんな傾向が見られたのか。10月1日からさっそく秋ドラマがスタートしているが、ここでは夏ドラマの締めくくりとして全体の傾向をドラマ解説者・木村隆志が総括していく。
地味ながら癒しを感じさせる物語
今夏は、病気ではなく人を見る総合診療科医が主人公の『19番目のカルテ』(TBS系、日曜21時)、児童相談所が舞台の『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系、月曜21時)、競技かるたに青春をかける高校生の物語『ちはやふる -めぐり』(日本テレビ系、水曜22時)、夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス『しあわせな結婚』(テレビ朝日系、木曜21時)、不登校の過去を持つスクールロイヤーが高校生の問題に向き合う『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ制作・フジ系、月曜22時)。
TBSの日曜劇場、フジの月9、日テレの水曜ドラマ、テレ朝の木曜ドラマ、カンテレの月10……各局の看板ドラマ枠に今夏の傾向が表われていた。
通常、各局の看板枠は多くの人々を引きつけやすく、話題性も高いエンタメ要素の濃い作品がそろうものだが、今夏は落ち着いたムードの“地味な物語”が集中。医療ドラマでもメインは外科手術ではなく問診であり、高校生の部活ドラマでもメジャースポーツではなく競技かるた、夫婦の物語でも感情をぶつけ合うシーンがほとんどないなど、静かな脚本・演出の作品が各局の看板ドラマ枠で目立った。
特筆すべきは、いずれの作品もネット記事やSNSのコメント数などの話題性こそ今一歩ながら、見た人の評判が上々だったこと。視聴率や配信再生数では十分な数値を稼ぐことができなかったが、最終話が放送されると「終わってしまうのが寂しい」「シリーズ化を希望」などのポジティブな声が次々にあがっていた。
その主な理由は、地味で話題性に欠ける反面、地に足のついた主人公と物語だろう。漫画原作の『19番目のカルテ』以外はオリジナルだが、脚本・演出は丁寧に作り込まれ、主人公に共感させられるとともに、癒しを感じさせられるようなシーンが多かった。スタッフが「地味な設定の中でいかに愛着を持ってもらい、エンタメ性を高めるか」を試行錯誤した様子がうかがえる。
キャストでは主演俳優たちの演技がおおむね好評。松本潤、福原遥、當真あみ、松たか子と阿部サダヲ、磯村勇斗が演じた主人公は、特別な能力を持つわけではない普通の人だったが、好感度の高いキャラクターだった。
さらに助演で特筆すべきは、学園ドラマの生徒役を担った若手俳優たち。『ちはやふる -めぐり-』の齋藤潤、山時聡真、嵐莉菜、高村佳偉人、坂元愛登、原菜乃華、藤原大祐、大西利空、橘優輝、『僕達はまだその星の校則を知らない』の日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、菊池姫奈、越山敬達、のせりん、北里琉、栄莉弥ら、10代後半から20代前半の若手が等身大の高校生を演じて、みずみずしさと令和のリアルを感じさせた。今後は「深夜ドラマや映画などの主演を経由して、近い将来ゴールデン・プライム帯の主演を飾りそうな逸材ぞろい」と言ってよさそうだ。
良作ぞろいのNHKも再放送を選択
看板ドラマ枠以外の作品でも、話題性よりも手堅さ優先の安定志向が目立ち、その最たるところはフジの刑事ドラマ『スティンガース』と『最後の鑑定人』(水曜22時)。おとり捜査と科学捜査という定番のテーマだけに、丁寧に作られていた一方で話題にあがる機会が少なかった。ともに夏ドラマの難しさに加えて、フジの苦境が制作費やキャスティングなどの制作に影響を与えた感がある。
さらに、韓国の制作会社と共同制作し、韓国人俳優を起用した『初恋DOGs』(TBS系、火曜22時)、韓国ドラマのリメイク『誘拐の日』(テレ朝系、火曜21時)、ヒット作『昼顔』チームによる教師×ホストのラブストーリー『愛の、がっこう。』(フジ系、木曜22時)、新型ドラッグと“異能力”がベースのぶっ飛んだ物語『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系、金曜22時)、視聴者のツッコミが前提のワンシチュエーションサスペンス『放送局占拠』(日テレ系、土曜21時~)は話題性狙いの作品だったが、いずれも好き嫌いが分かれやすいコンセプトだからなのか、反響は散発的。
深夜帯では『奪い愛、真夏』(テレ朝系、金曜23時15分~)も同様の理由に加えて飽きられたのか、話題にあがることが少なかった。いずれも「原作・原案・前作ありきの作品が多い」という意味で、難しい夏ドラマを乗り切るための手堅いプロデュースだったと言っていいかもしれない。
ちなみに視聴率やスポンサーの縛りがないはずのNHKも、BSで先行放送された『舟を編む ~私、辞書つくります~』(火曜22時~)と『母の待つ里』(土曜22時~)を放送。どちらもクオリティでは今夏トップクラスの良作だったが、「BSで評判のよかったものを総合テレビで再放送」という保守的な編成だった。
そんな保守的な夏を経て迎える秋は力作ぞろい。三谷幸喜、岡田惠和、野木亜紀子ら大物脚本家がそろい踏みするほか、各局が主演級を集結させた豪華キャストを実現させているだけに、厳しい夏を耐え抜いて、実りの秋を迎えることになりそうだ。
蛇足かもしれないが、個人的なツートップは『僕達はまだその星の校則を知らない』と『母の待つ里』。今後も1年に一度はその世界観にふれたくなるような心地よさを感じる作品だった。





