近畿日本鉄道は、「近鉄全線2日間フリーきっぷ」を6月28日まで販売している。有効期間は6月30日までの連続2日間。近鉄の全路線に乗車でき、発売額は大人3,000円・こども1,500円。特急料金を支払えば、特急列車も自由に乗れる。今回はこのきっぷを使用し、近鉄線を旅してみた。

  • 近鉄の観光特急「あをによし」。デビューから1年経つが、人気は健在(筆者撮影)

「近鉄全線2日間フリーきっぷ」を購入するには、券売機および近鉄各駅の窓口で買うか、インターネットで予約して郵送してもらう方法の2つが使える。注意点として、利用当日の購入はできない。券売機の場合は出発日の前日まで、インターネットの場合は出発の5日前までに購入手続きを済ませる必要がある。

筆者は関西在住ではないため、インターネットで購入。きっぷ代の他にレターパックの代金が上乗せとなるが、出発の2日前に届いて便利だった。

■観光特急「青の交響曲」など特急列車を堪能

初日は大阪難波駅からスタート。同駅9時30分発の「アーバンライナー」(近鉄名古屋行)に乗り、大和八木駅へ向かった。

  • 大阪難波~近鉄名古屋間の特急列車などに使用される「アーバンライナー next」(筆者撮影)

偶然にも、使用車両は少数派で「アーバンライナー next」の愛称を持つ21020系。落ち着いた車内とリクライニングシートを堪能した。スマートフォンのGPSアプリを使って調べたところ、堅下駅付近にて今回の乗車区間で最速の118.6km/hを出して走行していた。

10時0分に大和八木駅に到着し、乗り換えて橿原神宮前駅へ。吉野行の観光特急「青の交響曲」(橿原神宮前駅10時46分発)を待った。

接近放送が鳴り、列車がホームに入ってきた。濃紺の車体に金色の帯と文字が入った3両編成の車両は、既存車両の改造ではあるものの、海外の長距離列車やかつてのブルートレインを想起させる。

  • 南大阪線から吉野線に直通する観光特急「青の交響曲」(筆者撮影)

デラックスシートの1人席は非常にゆったりとしており、リクライニングしなくても十分な座り心地だった。観光特急だけあって観光客が多いが、中には資格の参考書を読みながら過ごす乗客も。「青の交響曲」が走る南大阪線・吉野線は、「ひのとり」や「アーバンライナー」が走る大阪線とは異なる狭軌の路線だが、車内の狭さは感じられない。吉野線は線路のすぐそばまで家が建っているため、実際の速度よりも速く感じるし、スリリングな感覚がある。

車内見学のついでに、2号車のラウンジでオリジナルクラフトビールを購入。苦味の少ないさわやかなビールだが、決して薄いわけではない。本当はカツサンドも食べるつもりだったが、売り切れとのことだった。

11時29分、定刻より少し遅れて終点の吉野駅に到着。吉野といえば桜が有名だが、6月の駅前はアジサイが咲いているくらいで、人もさほど多くない。学生時代に習った百人一首「朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪」を思い出し、不思議な気持ちになった。

昼食を食べた後、普通列車で橿原神宮前駅に戻り、橿原線に乗り換えて大和西大寺駅へ。奈良線の快速急行で大阪市内の近鉄日本橋駅へ戻った。

■2日目は未乗路線を乗りつぶし、大和西大寺駅を堪能

2日目の目標は、近鉄の主要路線で未乗の区間をなくすこととした。まずは南大阪線の始発駅である大阪阿部野橋駅へ。通勤通学の時間帯であり、到着する準急や急行から次々と乗客が吐き出される。そのたびに、ホームの気温が少し高くなっている気がした。なお、大阪阿部野橋駅の3・4番のりばには、昇降式のホーム柵が設置されている。

大阪阿部野橋駅9時10分発の「さくらライナー」で橿原神宮前駅に向かう。南大阪線の沿線は比較的低層の住宅が多く、空が建物で遮られることは少ない。沿線にはアジサイやタチアオイの花が咲いており、夏らしさを感じさせた。

  • 南大阪線の列車がすれ違う(筆者撮影)

未乗だった南大阪線を制覇した後は大和八木駅に戻り、前日も乗換えで利用した大和西大寺駅でもう一度降りてみる。

大和西大寺駅は奈良線と京都線、橿原線が交わるジャンクション駅。乗り入れる路線が平面交差しており、駅構内の分岐器が非常に複雑であることで知られる。電車を見ることが目的でやって来る親子連れや観光客なども多く、構内の展望デッキは大人気だった。

これだけ複雑な分岐と信号システムを使いながら、安全運行と定時走行を両立させることは容易でない。指令や保線関係者の苦労を想像するだけでも、ずっと眺めていられるような気がした。

  • 大和西大寺駅は構内のポイントの複雑さで知られる(筆者撮影)

  • 京都駅へ向かう観光特急「しまかぜ」(筆者撮影)

大和西大寺駅を出た後は、奈良線の終点である近鉄奈良駅まで往復し、大和西大寺駅から京都線の電車で新田辺駅をめざす。京都~新田辺間は過去に乗車したことがあったため、これにて京都線と奈良線の未乗区間をなくすことができた。

■近距離の利用でも十分お得なきっぷだった

「近鉄全線2日間フリーきっぷ」での旅を終え、改めて今回の旅程をもとに交通費(普通運賃のみ)を計算してみた。

●1日目

  • 大阪難波駅→吉野駅 : 1,240円
  • 吉野駅→近鉄日本橋駅 : 1,170円

●2日目

  • 大阪阿部野橋駅→大和西大寺駅 : 1,140円
  • 大和西大寺駅→近鉄奈良駅 : 240円
  • 近鉄奈良駅→新田辺駅 : 490円

今回の旅程を通常の運賃で利用した場合、2日間合計の交通費は4,280円。「近鉄全線2日間フリーきっぷ」の利用で1,280円得したことになる。ただし、ここまで紹介した旅程以外にも、撮影や食事休憩のために途中下車しており、その分も含めると5,000円以上は利用していた。これだけ自由に利用できて、3,000円で済むのであれば、近鉄線を利用する人にとっていかに魅力的な商品だったか、伝わるのではないだろうか。

  • 「近鉄全線2日間フリーきっぷ」は6月28日まで販売。有効期間は6月30日まで(筆者撮影)

今回は大阪・奈良エリアを中心に近距離の乗車だったが、「近鉄全線2日間フリーきっぷ」を使った伊勢志摩エリアの旅行や名古屋方面への出張など、さまざまな利用方法が考えられる。鉄道が好きな人であれば、バラエティに富んだ近鉄の特急列車を乗り比べたり、自身の限界に挑戦しながら長距離移動したりするのも楽しいだろう。