俳優の吉沢亮が主演を務める大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)。12日に放送された第26回「篤太夫、再会する」(脚本:大森美香 演出:黒崎博)は、篤太夫(吉沢)が6年ぶりに故郷に帰ってくるところから始まった。徳川家康(北大路欣也)が、血洗島を治めていた岡部藩はもうないと解説。新政府によって日本は様変わりしていく。かつて篤太夫に理不尽なことを言っていたあの意地悪な代官(酒向芳)ももういないと思うと懐かしい気持ちになった。

  • 大河ドラマ『青天を衝け』第26回の場面写真

篤太夫は青々した低木の群れ(おそらく桑畑)を分け入るように進んで広い道に出る。するとそこには懐かしき“ひこばえの木”があって根元に長七郎(満島真之介)がしゃがんでいた。この間まで暗い瞳をして「俺たちは何のために生まれてきたんだんべな」と嘆いていた長七郎がまるで憑き物がとれたかのように晴れ晴れした表情で、血洗島で楽しくやっていた頃の彼に戻った雰囲気だ。対して篤太夫は横分け、洋髪であの頃の彼とは違う(名前も栄一ではなく篤太夫)。幕府を倒そうとしていた篤太夫が幕府に仕えるようになるという皮肉な運命を歩み、主・慶喜(草なぎ剛)はもういないと自分のしてきたことに疑問を感じていると、長七郎は「俺こそ何も成し遂げられなかった」「生き残った者にはなすべき定めがあるとお前が言ったんだ」と言う。その時の長七郎は篤太夫に何か伝えたいことがあるように見える。でもそれは篤太夫の夢だった。

緑の畑と吉沢亮はすばらしく似合う。彼の代表作のひとつとなったNHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年度前期)で演じた山田天陽は、農業に勤しみ畑の中で亡くなったが、その場面が今も目に焼き付いて離れない。「国宝級イケメン」と言われる端正な顔立ちだが生活感がちゃんとある、地に足をつけて、なんなら泥で汚れながら歩いていく、そんな実直さを失わないのが吉沢亮である。

夢から覚めた篤太夫が血洗島に向かうと家の前は黄色い菜の花畑になっていた。「国破れて山河あり」か……と漢詩の一節をつぶやく篤太夫。戦争で国が荒廃しても自然は変わらずそこにあり続けることを美しい故郷の景色に感じる。天保時代、篤太夫が少年の頃、家の前は一面ハート形の葉っぱの芋畑だった(第1回)。その後、藍畑になったり、芋畑になったり季節で違うようにも見えるのだが、江戸から明治にかけて菜の花畑に変わったのは人々の生活様式が変わったということであろうか。どんな時でもひこばえの木だけは変わらずずっと立っている。

篤太夫を迎えに出てくる市郎右衛門(小林薫)、千代(橋本愛)、うた(山崎千聖)たち。うたを抱きしめる篤太夫の笑顔がまぶしい。吉沢亮がなぜ超絶的に美しいにもかかわらず生活者のまなざしを失わないように見えるかといえば、彼の美しさが木々や空や花のような自然の美と並ぶものなのだからではないか。日々の生活に寄り添う美なのである。