ちなみにこれまで杉浦役を演じてみての手応えを聞くと「ゼロです」と即答するが、それには理由がある。「ちゃんとやっていないとかそういうことじゃなくて、現代劇とは違い、何が正解かわからないんです。時代も違うので、最初の所作指導を受けた時点で衝撃を受けました。『こんなに意識して歩かないといけないのか!』と思いましたし、普通の言葉じゃないのでアドリブもできないし、役者として壁にぶち当たる部分がありました。でも、時代考証にとらわれすぎて気持ちが入らないのも違うと思うから、そこに折り合いをつけるというか、もちろんできる限りのことはやっていますが……」

これまでに何度か志尊にインタビューをしてきたが、彼は常に役柄に対して真摯にアプローチしてきたことがうかがえたし、もちろん「ゼロ」という数字も彼の謙虚さの表れにほかならない。

「きっと今後演じていくうえで、手応えというのはだんだん積み上がっていくとは思いますが……。でも、僕はどの作品に対しても、そもそも手応えを感じるタイプの人間ではないんです。手応えは、結局主観的にものを見たときの判断であって、たとえ僕が手応えを感じたとしても客観的に見たらダメなことってあると思いますし。だから慢心をしたくないという意味も込めていますが、いつも自信がないというか。まだまだだなという思いを忘れないようにしたいという気持ちが強いのかもしれないです」

最後に志尊は役にかける思いをこう語った。「自分が役者としてこうしたいということよりも、杉浦さんが残した素晴らしい功績を、自分が役を通してしっかりと伝えていきたいと思っています。恩着せがましいかもしれないですけど、今回僕が演じることで、少しでも杉浦愛蔵という名が世間に広まって、後世で語り継がれる人になってくれればと思いながら、役と向き合っています」

■志尊淳(しそん・じゅん)
1995年3月5日生まれ、東京都出身。2011年にミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで俳優デビューし、2014年に『烈車戦隊トッキュウジャー』で主演に抜てきされる。主な出演映画は、『帝一の國』(17)、『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』(19)、『HiGH&LOW THE WORST』(19)、『さんかく窓の外側は夜』(21)など。『キネマの神様』が8月6日に公開予定。ドラマの近作は『極主夫道』(20)など。

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