大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)第20回「篤太夫、青天の霹靂(へきれき)」(脚本:大森美香 演出:村橋直樹)では、14代将軍・家茂(磯村勇斗)が亡くなり、慶喜(草なぎ剛)が15代将軍になった。その流れで篤太夫(吉沢亮)と成一郎(高良健吾)は将軍家に召し抱えられ、宗家の御家人となる。大出世だが、篤太夫たちにはあまりおもしろいことではない。そんなとき、篤太夫はとある任務で新選組副長・土方歳三(町田啓太)と一緒になる。自分の生きる道に迷いのない土方に篤太夫は刺激を受ける。「腹を割って話す」ことで見えてくるものの大切さを説き、視界を明るくさせる秀作回だった。
家茂が倒れ、慶喜が面会に来た。会うと病が高じると追いやられなかなか来ることができなかったと言う慶喜。その言葉通り、会ったら病が高じて3日後に亡くなってしまったのはなんとも皮肉な話である。
にわかに跡継ぎ問題が勃発。「将軍家をお継ぎになってはなりません」と進言する篤太夫。「ならぬ」と反対する天祥院(上白石萌音)。和宮(深川麻衣)は家茂も将軍であることで苦しんだので、次は「慶喜が苦しめばよいのです」と呪いのように呟く。
ドロドロの跡継ぎ問題に「徳川の世はもはや滅亡するよりないのかもしれぬ」と慶喜は過激な発言をして皆をぎょっとさせる。「私はこの先、私が思うように徳川に大鉈をふるうかもしれぬがそれでかまわぬのだな」は後の大政奉還のフラグであろう。
それぞれの立場による陰謀が絡み合う政治的な大問題が描かれている第20回で注目したいのは、家茂が「私はこうしてあなたと腹を割って話してみたかった」と慶喜に言うセリフである。前半、何気なく出てきたセリフだが、「直接話す」大事さが第20回を貫いているように感じた。
例えば、篤太夫が将軍家直轄の家臣になったものの、慶喜との距離は離れ、直言することもできず、やりがいを失ってしまう。そう、以前は、身分は低かったが、慶喜に直接、意見を言うことができて、それによって慶喜に認められ、実力を発揮することができた。間に人が入るとうまくいかないことは、今の世でもよくあることである。家茂と慶喜も政治的な問題によって距離をとらざるを得ないまま月日が経過して、家茂はずっと「私はこうしてあなたと腹を割って話してみたかった」と願っていた。
慶喜が将軍になるかもと聞いたとき、篤太夫は反対意見を直接伝えた。そのときの篤太夫の熱と速度と勢いある駆け寄り方は真剣そのもので、慶喜の心を打ったことだろう。直接話せば、その人の本音がわかる。どれだけ本気で考えているかわかるからこそ相手の心も動く。それができず、表面的なやりとりばかりしていては、国は変わらない。むしろ悪くなる一方だ。
すばらしき経験を積んだ一橋家を去るときの静かな夕暮れの余韻を経て、大阪幕府陸軍奉行書で働きはじめる篤太夫と成一郎。職場は「書付はどうなった」と他人(新入り)任せのやる気のない雰囲気。すっかり慶喜から遠くなり、直接、話せないことに不満が溜まっていく2人。並んでしゃべっている後ろに、2つの鉄瓶がチリチリと湯を沸かしている。まるで2人の心のようである。そのうち、2人は喧嘩になる。燃える炎が違うところで沸騰してしまう。