そんなとき、謀反人を捕縛する任務を篤太夫が命じられる。護衛には新選組がつき、副長の土方歳三が直々やって来た。

さっさと捕まえるという土方に、功罪がはっきりさせてからが筋であると、篤太夫が自ら話をしに行くと言う。武力を奮われたら? と問われ、それなりに腕に覚えがあると意地を張り、1人で謀反人・大沢を訊ねると、案の定多勢に斬りかかられ、大ピンチ。

そこへ颯爽と土方が助けにくる。短時間の殺陣シーンを激しい律動を煽るような民謡風の劇伴で盛り上げる。桜田門外の変、円四郎暗殺等劇的なシーンを鮮烈に描く村橋直樹演出が今回も冴えた。

篤太夫と土方。最初は、敵対していた2人。そもそも、篤太夫は攘夷派だったときは、幕府を守る新選組は敵であった。いまは、篤太夫が守られる立場になっている奇妙な縁である。

意地を張り、自ら出向いた結果、命の危険にさらされ、部屋の隅で小さくなっていた篤太夫だったが、土方にあくまでも強がって見せる。ところが土方は一枚上手で、篤太夫の武士の覚悟に心服したと紳士的に振る舞う。気をよくした篤太夫は「本音をいえば、名代など馬鹿らしい話だ」と、本来なら奉行が直に腹を割って真偽を問いただせばいいのにまったく風通しが悪いと不服を述べる。

「俺たちもこうして幕吏をはんでいるうちに『亡国の臣』となるんだい」「いまや大嫌いだったはずの幕臣だで」と己の体たらくを嘆く篤太夫が百姓出身と聞いて、土方は自分も百姓の出身だと心を開くように笑って隣に座る。

「多摩では何が育つんだい?」と楽しそうに聞くと「忘れた」とあっさり土方が答えるので、いささかがっかりしたような顔になる篤太夫の素直さが微笑ましい。百姓時代のことを忘れ土方は日の本のために命を捨てる覚悟を持っている。

「己の命に微塵も未練はない」と迷いのない土方。まだまだ迷ってばかりの篤太夫。状況は違うが、日の本をよくしたいという想いは負けねえと、初心に返って篤太夫は「俺も……土方殿と話せてよかった。武州の風を思い出した。あのころの己の気持ちを」とくすぶっていた気持ちに風が吹いたように爽やかな顔になる。これも、土方と腹を割って話したからこそであろう。

たとえ立場や考え方が違っても本音をぶつけあえば、そこに風が吹き込み、変化が起きる。でも、その本音が不足している。

「いつかまた会ったときに恥じぬよう、俺もなるたけ前を向いて生きてみることにすんべ」と言う篤太夫に「生きるか……」と「生」を噛み締めるようにリフレインする土方。国のために死ぬ覚悟の土方から篤太夫が「生きる」ことを再認識していることも興味深いし、土方が後に結果的に闘って死んでしまうとはいえ、隊長・近藤が死んだあとも、わりとしぶとく生きて闘い続けたことが『青天を衝け』ではこの篤太夫の出会いが影響しているようにも感じられるシーンである。

書き手によれば、「死」へ向かうシーンにもなりかねないが、ここでは篤太夫の徹底的な明るさが、土方歳三の死の影を消してしまう。吉沢亮のエネルギーも凄いが、受ける町田啓太のエネルギーも拮抗している。若くまっすぐな青竹が空に向かって2本伸びているような気持ちよさ。コロナ禍で日本の元気がない今、この若き俳優たちの曇りを晴らそうとする懸命で清潔感のある演技が希望である。秀作回の多い『青天を衝け』の中でも印象的な回だった。

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