子育てに時間を割きたいと、育児休業(以下、育休)を取得する人が増えています。育休中には国の制度で育児休業給付などを受けられるものの満額ではありませんし、成果給や残業代などは発生せず、家庭全体の収入が減少し家計を圧迫することも多いです。

しかし、所得が一定の水準以下になった場合、配偶者控除や配偶者特別控除の対象となり所得控除を受けられます。手続きは年末調整や確定申告をするだけで、そう難しくありません。

この記事では、育休中に配偶者控除を受けるための必要な手続きを紹介していきます。育休の取得を検討している人や育休中の人に役立つ内容です。少しでも所得税の負担を軽くするために、ぜひ読んでみてください。

  • 配偶者控除と配偶者特別控除

    育休中に配偶者控除を受けるための要件と必要な手続きを紹介する記事です

配偶者控除と配偶者特別控除

育休中の配偶者がいる場合に受けられる所得控除には、配偶者控除配偶者特別控除があります。配偶者の年収によってどちらが対象となるのかが異なりますし、他にも適用条件がありますので、要件をよく確認したうえで申告しましょう。

配偶者控除の要件

納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下である納税者の配偶者が下記4つの要件にすべて当てはまる場合に、配偶者控除の対象となります。

  • 納税者と生計を一にしている
  • 民法の規定による配偶者である
  • 年間の合計所得が48万円以下
  • 1年を通じて青色申告の事業専従者として給与の支払いを受けていない、または白色申告者の事業専従者でない

以前は合計所得の基準が38万円以下だったのが、令和2年から変更になっていますので、間違わないよう注意しましょう。

控除の金額は13万~38万円で、納税者の所得や配偶者の状況などで異なります。

配偶者特別控除の要件

配偶者の年間合計所得が48万円を超えている場合でも、133万円以下であれば配偶者特別控除の対象となります。所得以外の条件は配偶者控除とほとんど同じです。

  • 納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下
  • 納税者と生計を一にしている
  • 民法の規定による配偶者である
  • 1年を通じて青色申告の事業専従者として給与の支払いを受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
  • 配偶者が、配偶者特別控除を適用していない
  • 配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書または従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと
  • 配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと

控除額は1万~38万円で、配偶者の合計所得や納税者の所得が上がるにつれて段階的に引き下げられます。

1年の収入で計算される

配偶者控除や配偶者特別控除における納税者や配偶者の所得は、1月から12月までの1年間の収入で算出します。配偶者がたとえ正社員であっても、産休や育休で会社を休んで所得が基準より少ない場合には、配偶者控除や配偶者特別控除の対象です。

内縁者は対象外

配偶者控除・配偶者特別控除の対象となるには、民法上の配偶者である必要があります。たとえ生計をともにしていても、入籍していなければ配偶者控除・配偶者特別控除の対象外です。

また、入籍していても別居中で生計をともにしていない場合は、配偶者控除・配偶者特別控除の対象外となります。

本人や配偶者の所得によっては対象外となる

納税者が配偶者控除・配偶者特別控除を受けるには、納税者自身の所得が1,000万円以下である必要があります。また、配偶者の所得も、配偶者控除の場合は48万円、配偶者特別控除の場合は133万円以下でなければ対象外です。

ただし基準となるのは、年収から基礎控除を差し引いた「所得」ですので、年収と所得との違いに気をつけて申請しましょう。

  • 配偶者控除と配偶者特別控除

    配偶者控除と配偶者特別控除を受けるためにはさまざまな条件があります

配偶者控除を受けるのに必要な手続き

配偶者控除や配偶者特別控除を受けるために必要な手続きは、納税者の働き方によって異なります。納税者本人が会社員であれば通常年末調整で手続きできますが、例外となる場合や個人事業主・経営者なら確定申告が必要です。

■年末調整で手続きする場合

年末調整で配偶者(特別)控除の手続きをする場合、「給与所得者の基礎控除、配偶者 (特別)控除及び所得金額調整控除の申告」を提出するときに、「給与所得者の基礎控除」欄とともに「給与所得者の配偶者控除等申告書」欄に記入します。提出時には戸籍の付票など配偶者であることを示す書類も添付してください。

年末調整での配偶者控除申告書き方例

下記の例をもとに配偶者控除等申告書の書き方を紹介します。


納税者 給与収入800万円、給与所得以外0
配偶者 給与収入180万円、給与所得以外0

  • 配偶者控除を受けるのに必要な手続き

    【画像クリックで拡大】配偶者控除等申告書の書き方例です

所得の計算式は、記入用紙裏側に記載されています。まずは納税者本人の所得と基礎控除額を算出したうえで、配偶者控除等申告書に記入してください。

■確定申告で手続きする場合

経営者や個人事業主はもちろん、確定申告が必要な会社員や年末調整を受けられなかった会社員などは、確定申告の手続きをしましょう。配偶者控除や社会保険料控除、生命保険料控除などの通常年末調整で行う手続きはもちろん、医療費控除や寄附金控除などもまとめて申告できます。

確定申告書AまたはBの第一表に収入や所得・控除額、第二表に配偶者の個人情報の記入が必要です。

確定申告での配偶者控除申告書き方例

年末調整の例と同じ内容をもとに、確定申告で配偶者控除を受ける場合の記載例を紹介します。

  • 配偶者控除を受けるのに必要な手続き

    【画像クリックで拡大】確定申告での配偶者控除申告書への記載例です

年末調整を受けていない場合には、社会保険料控除など必要事項を記載してください。また、収入や所得なども漏れなく記入しましょう。e-Taxを利用する場合も、入力項目は同じです。

  • 配偶者控除を受けるのに必要な手続き

    配偶者控除を受けるのに必要な手続きは年末調整か確定申告のいずれかです

産休・育休中に受け取れる給付金や手当

産休・育休中は収入が減ってしまいますが、国や健康保険などの制度を活用すると、受け取れるお金も多いです。そこで、産休・育休中に申請しておきたい給付金などの代表例を紹介していきます。

育児休業給付金

育児休業給付金とは、雇用保険者が育児休業を利用した場合に受け取れる手当てのことです。育休前の2年間に、1カ月に11日以上働いた日が12カ月以上あると対象となります。育児休業開始から6カ月までは休業開始前賃金の67%相当額、それ以降は50%相当額を受け取れる、雇用保険のひとつです。

非課税で受け取れるお金であり、控除対象配偶者であるかどうかを判定するための合計所得金額には含める必要はありません。

出産育児一時金

出産育児一時金とは、妊娠85日以上の女性が出産したときに、被保険者または家族に支給される手当てのことです。出産費用に充てられるお金であり、医療機関などに直接支払う制度もあります。

このお金も非課税所得であり、控除対象配偶者かどうかを判定するための合計所得額には含めなくて構いません。

出産手当金

出産手当金は健康保険の被保険者が、出産前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産翌日以降56日までの間で会社を休んで給与の支払いがなかった期間を対象として支払う手当てのことです。こちらも非課税であり、所得には含めずとも問題ありません。

配偶者の所得には給与所得以外の所得も含まれる点に注意

会社員など一定の所得がある配偶者が産休や育休で給与所得が減っても、他の所得が多ければ、配偶者控除・配偶者特別控除の対象外となることがあります。例えばネットでの副業をしている場合や、不動産所得、ポイ活や懸賞、クイズの賞金などの一時所得、またGoToトラベルの還付金も一時所得とみなされるので要注意です。

給料以外の収入があるとみなされますので、正確に所得を計算して配偶者控除の対象となるかを判断してください。

  • 育休や産休中に受け取れる給付金や手当

    育休や産休中には非課税で受け取れる手当や給付金が多いです

育休中は配偶者控除の対象になる!

どうしても収入が減ってしまう育休中は、できるだけ国の制度を活用して、金銭的な負担を軽くしたいもの。配偶者の所得が一定額を下回れば、配偶者控除や配偶者特別控除の対象となり、所得控除を受けられます。もともと所得が低い配偶者だけでなく、産休や育休などで一時的に収入が低くなっている場合も対象です。

控除を受けるには納税者本人の年間所得が1,000万円以下であることや、生計をともにする配偶者であることなど、いくつかの条件がありますので、あらかじめ把握しておきましょう。

配偶者控除を受けるためには、年末調整または確定申告での手続きが必要です。育児は何かと物入りだからこそ、税金の負担を軽くするためにも、配偶者控除や配偶者特別控除の対象になるなら、忘れずに手続きを行いましょう。