3月27日深夜の『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)を最後に、今年最初の連ドラが終了した。新作ドラマでは、右肩上がりで視聴率を上げた『テセウスの船』(TBS系)が最終話で19.6%を記録。終了間際には瞬間最高視聴率21.5%をマークするなど、まさに有終の美を飾った(ビデオリサーチ、関東地区)。

あらためて今冬を振り返ると、1月のスタート当初こそ、医療関連ドラマが6作とかぶりまくったことでネガティブな声も少なくなかったが、3月に入った終盤は新型コロナウイルスの感染拡大で在宅率が上がり、尻上がりの盛り上がりを見せる作品も目立った。

ここでは、「TBSのベタ回帰と大成功」「“一話完結の医療・事件モノ”という安全策にNO」という2つのポイントから2020年・冬ドラマを検証し、主要20作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」「テレビ局や芸能事務所への忖度ゼロ」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容もあります。これから視聴予定の方はご注意ください。

  • 『恋はつづくよどこまでも』(左から上白石萌音、佐藤健)

■ポイント1 TBSのベタ回帰と大成功

今冬のヒット作と言えば、前述した『テセウスの船』と『恋はつづくよどこまでも』のTBS2作で間違いないだろう。どちらも中盤以降は毎週、最高視聴率を更新する勢いで、メディアの記事も、SNSへの書き込みも、昨年の『あなたの番です』(日本テレビ系)を彷彿させるほど盛り上がった。

『テセウスの船』は、現在では年に数本しか見られない長編ミステリー。漫画原作があり、「犯人がバレている」という弱点を抱えていたが、犯人考察イベントを仕掛け、そこで原作者から「犯人は原作とは違う」というコメントを発信させて、犯人考察のムーブメントを作った。

ただ、本当の意味で同作を盛り上げたのは、「ひたすら翻弄される主人公」と「あふれ出るストレートな家族愛」というベタなシーンの数々。ベタなシーンで視聴者を感情移入させることで、タイムスリップファンタジーという「何でもアリ」の軽さを無力化してしまった。

  • 『アライブ』(左から岡崎紗絵、清原翔、松下奈緒、木村佳乃、藤井隆、木下ほうか)

『恋はつづくよどこまでも』は、病院という舞台を借りた典型的な女性向けラブコメ。キャラクター造形はどこまでも漫画的で、リアリティ度外視のファンタジーに振り切って女性視聴者を楽しませ続けた。恋のライバルはあっさり負け、ハッピーエンドはわかっているのに、「それでも見たい」「やっぱりときめく」と感じさせるベタな胸キュンシーンを連発。最終話は集大成とばかりに「これでもか」というほど盛り込んでSNSは大盛り上がりだった。

凶悪犯罪を軸に据えた長編ミステリーと、病院が舞台のラブコメ。両作はまったく異なる作風であるにも関わらず、視聴者の熱狂、視聴率の推移、SNSの活発さなど、似ている点が多かった。その理由は、ストーリーよりも“セリフの瞬発力”と“過剰気味の演出”にフィーチャーするなど、ベタを際立たせるプロデュースを徹底させたからだろう。このベタこそTBSが1980年代に高視聴率を連発した必勝パターンであり、往時への回帰にも見える。

また、両作は「プライムタイムの連ドラ初主演の20代俳優である竹内涼真と上白石萌音を主演に抜てき」という共通点もあった。思い切った抜てきに踏み切り、ベタなプロデュースを徹底したTBSの勇気ある姿勢が大成功につながったのではないか。

  • 『トップナイフ』(左から三浦友和、広瀬アリス、天海祐希、椎名桔平、永山絢斗、古川雄大)

■ポイント2 “一話完結の医療・事件モノ”という安全策にNO

医療現場を舞台にしたドラマが6作そろったことが、相乗効果になるか、共倒れになるか……。終わってみれば多くの人々が予想した通り、ほぼ共倒れの状態で終了。もともと医療現場を舞台にした作品の多くは、2桁視聴率獲得を前提にした安全策だけに、関係者は肩を落としているだろう。

放送前は「大本命」と言われた『トップナイフ』(日本テレビ系)は視聴率2桁こそ獲得したが、話題にあがることはほとんどなく、ひっそりと終了。そもそも天海祐希ら豪華キャストを配して、王道のスーパー外科医モノで臨んだ力作であり、期待されたほどの結果は得られなかった。

それは、もう1つの王道である救命救急を描いた『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系)にもあてはまる。一方、腫瘍内科医という新しい世界に挑んだ『アライブ がん専門医のカルテ』(フジテレビ系)と、阪神大震災を真っ向から扱った『心の傷を癒すということ』(NHK)は、丁寧に作り込まれた良作ながら、シビアすぎる世界観が敬遠されてしまった。

結果的に視聴者の評判がよかったのは、医療よりもラブコメを描いた『恋はつづくよどこまでも』、ビジネスを描いた『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』(テレビ東京)というイレギュラーな2作。ともに医療モノのベースとなるシリアスなシーンは限定的で、ピンチのときでもどこか牧歌的なムードが漂っていた。

さらに言えば、定番の事件モノである『絶対零度 ~未然犯罪潜入捜査~』(フジテレビ系)、『ケイジとケンジ ~所轄と地検の24時~』(テレビ朝日系)も、2桁視聴率を前提とした安全策ながら1桁視聴率に終わり、話題性も乏しかった。

「目先の2桁視聴率ほしさに安全策を選んだドラマ枠が共倒れになった」「『テセウスの船』に熱狂する視聴者が続出した」という事実は今後の制作に影響を与えるのではないか。今春から全国で個人視聴率が導入され、これまでの世帯視聴率のような「中高年を抑えておけばある程度の結果が得られる」という論理が覆されるだろう。

そんな今冬の結果と今春の変化が、連ドラ本来の魅力である多様性を取り戻すことにつながるのかもしれない。


  • 『テセウスの船』(左から榮倉奈々、鈴木亮平、竹内涼真、上野樹里)

上記を踏まえた上で、2020年・冬ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『テセウスの船』。脚本、演出、演技、ロケ、PRなど、あらゆるピースがはまったプロデュースの勝利であり、タイムスリップファンタジー特有のチープさをまったく感じさせなかった。原作とは結末を変えて長編ミステリー最大の魅力である犯人考察を盛り上げたプロデューサーの豪腕ぶりは見事としか言えない。

その他では『コタキ兄弟と四苦八苦』と『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。(以下シロクロ)』(読売テレビ・日本テレビ系)の2作。世界観もターゲット層も正反対の作品だが、オリジナルらしい作り手の熱が細部まで感じられた。

主演俳優と助演俳優は、『テセウスの船』のメンバーが独占でいいのでは。榮倉奈々、貫地谷しほり、麻生祐未らを含め、要所で視聴者を強烈に引きつける印象的なシーンがあったのは、俳優たちの熱演があってこそだろう。

【最優秀作品】
『テセウスの船』 次点-『コタキ兄弟と四苦八苦』『シロクロ』

【最優秀脚本】
『テセウスの船』 次点-『コタキ兄弟と四苦八苦』

【最優秀演出】
『テセウスの船』 次点-『恋はつづくよどこまでも』

【最優秀主演男優】
竹内涼真 (『テセウスの船』) 次点-横浜流星(『シロクロ』)

【最優秀主演女優】
清野菜名(『シロクロ』) 次点-上白石萌音 (『恋はつづくよどこまでも』)

【最優秀助演男優】
鈴木亮平(『テセウスの船』) 次点-柄本佑(『知らなくていいコト』)

【最優秀助演女優】
上野樹里(『テセウスの船』) 次点-芳根京子 (『コタキ兄弟と四苦八苦』)

【優秀若手俳優】
柴崎楓雅(『テセウスの船』)  福本莉子(『パパがも一度恋をした』)