海の森

有明地区を後にしたバスツアーは、お台場から海底トンネルを潜って中央防波堤の内側にある埋立地へ移動した。突然目の前に広大な原野が出現する。とても東京、それも海の上とは思えない自然が広がる。島の一番高台まで登っていくと、一気に視界が開けた。対岸には、お台場、さらにその彼方に東京の高層タワーが林立する絶景。ここが、「緑の東京10年プロジェクト」の中でも大きな目標の一つである「海の森」が造られる場所だ。

この広大な島は、昭和48年から昭和62年にかけて、1,230万トンものゴミを埋立てて出来あがった。面積は約88haで、日比谷公園の5.5倍もの広さだ。ゴミ層の上を土で覆い、さらに都内の公園や街路樹を剪定した枝葉から作った堆肥に建設残土を混ぜた表層土を1.5mの厚さで被せた。土づくりには、浄水場で発生する土や下水汚泥も利用された。すべてがリサイクルだ。

東京臨海広域防災公園の災害発生時のパース(国土交通省提供)

こうして都が用意した土壌に、都民や企業のボランティアの力で、48万本の苗木を植栽して、緑豊かな"海の森" を作ろうというのが「海の森」プロジェクト。苗木は、都内の小学生がドングリから育てるものと、募金で調達される。平成20年~30年にかけて完成させる遠大な計画だ。完成すれば、この森から生れた緑の風が、都心に爽やかな風を吹き渡らせることとなる。

参加者を乗せたバスは、「海の森」になる埋立地の頂上に到着!

担当者から「海の森」について説明を受ける。日比谷公園の5.5倍、とにかく広い

島の一部には、すでに植樹から10年を経た森が豊かに育っていた。約3haの森では、様々な木々が見上げるほどに枝を伸ばし、葉を繁らせる。人工池の表面で黒く動き回るものがいる。よく見ればオタマジャクシ。水面を真っ黒に覆うほどたくさんのオタマジャクシが元気に泳ぎ回っている。「10年経てば、小さな苗木がこんな森になるんです」というガイド役の都環境局職員の言葉が、心に残った。

10年前に植えられた苗木が見事な森に育っている

木の実がなっている木も

オオシマサクラがちょうど見頃

埋立地も春がいっぱい

公開空地

臨海部を後にしたバスは、レインボーブリッジを渡って港区へ入る。今度は「公開空地」による都市空間での緑の創出例を見学する。「公開空地(こうかいくうち)」とは、建築基準法の総合設計制度に基づいて敷地内に設けられるオープンスペースのことだ。その広さに応じて、容積率の割増や高さ制限の緩和といった特典が受けられる。ただし、公開空地は「一般に開放されていて誰でも自由に出入りができること」といった、一定条件が課せられる。

訪れたのは、芝にあるセレスティン芝三井ビルとパークハウス芝タワーの公開空地だ。モダンなビルの谷間に心地よい緑の空間が広がっている。そのせいか、ビル街にいるという圧迫感がまったくない。緑だけではなく、水やアート作品と組み合わせた一角もある。まさに「都会のオアシス」だ。低く抑えられた植栽は死角がなく、防犯上の観点からもいいという。また、ベンチ代わりになる石のオブジェは、近所の住人やオフィスの人々に休憩の場を提供する。優れた公開空地の例だ。

都心のビルの谷間にも「公開空地」の緑が広がる

緑だけでなく、水やアート作品も組み合わせたスペース

公開空地を見ると、ビルやマンションなどの敷地でもこうした制度を活用すれば、都心部の限られた空間にもまだまだ緑を増やしていけると納得させられた。しかも管理や運用は民間の敷地所有者に任されるので、行政側の負担は増えずにすむ。次々と大型の再開発が予定される都心部での緑化に、公開空地は有効な手段になりそうだ。行政だけでなく、民間でのこうした緑化への取組みは今後ますます増えるだろう。

公開空地は、誰でも自由に通り抜けられることが条件だ