櫻井校長によれば、芝生化されてからいい事尽くめだと言う。まず、子どもたちが外に出てよく遊ぶようになった。特に外に出たがらなかった女の子たちが遊ぶようになった上、遊びの種類が増えているという。さらに遊ぶ子どもが増えたのだが、ケガをする子どもは減ったという。運動会でも芝生の上でケガをした子どもは一人もいなかったそうだ。「体を使ってよく遊ぶせいか、子どもたちに精神的な落ち着きが出た」と、櫻井校長は言う。

芝生の上を元気に跳び回るムーくんと武蔵台小学校の子どもたち

校庭の芝生化は良いことばかりと語る櫻井茂校長

環境への影響も大きい。9月の暑い日に校庭で気温を測定したところ、アスファルトに比べ芝生では10度も低かったという。トンボやバッタ、鳥も校庭へやってくるようになって、自然環境が変ったそうだ。しかも、雨や雪が降っても、シートを取り去ればすぐ遊べる上、土埃でご近所に迷惑をかけることもなくなった。

もちろんデメリットがないわけではない。冬期には夕方霜除けのシートをかけ、朝外す手間がかかる。芝刈りもしなくてはならない。だが、こうした作業を子どもたちが当番で担当することで、参加意識が芽生え、生徒同士や地域社会とのコミュニケーションも生れたという。これも芝生化が生んだ効用かもしれないと、櫻井校長は語る。

東京都では、実地指導にあたる芝生のプロ派遣、工事中の代替運動場の提供、地域の芝生リーダーの養成など、サポート態勢を整えて支援し、3年間に87億円をかけて公立小中学校260校で50ha、私立学校や幼稚園・保育所、都立学校で10haの合わせて60haをまず芝生化することを目標とする。校庭の芝生化拡大に向け、工期を短縮できる新技術の活用や、子どもたちが走り回ってもすり切れにくい品種の研究といった技術面での推進や、芝生管理のための財政支援も準備している。

さっそく芝刈りを体験することになった。30台ある手動芝刈り機が芝生の上に運び出された。移動のときは歯が動かず、子どもたちでも安全に使えるよう工夫された機種だ。軽く押すだけで、細かくカットされた芝がどんどん溜まる。芝刈りは初体験という方も多かったが、子どももシニアも、みんな面白がって芝刈り機を押す。とにかく気持ちいいと、誰もが笑顔だ。大きな3つのポリペールは、あっという間に芝でいっぱいになった。

校庭で芝刈りを体験。初めての人も多いが、誰もがおもしろいと大人気

お母さん、おばあちゃんと3人で参加の坂本隼くん5歳。今日一番気に入ったのがこれ!

参加した小学生の一人は、自分の小学校の校庭もぜひこんな風に芝生にしてほしいと語った。校庭という身近な空間の芝生での緑地化は、子どもたちの運動意欲の増進、精神的なゆとり、さらには地域社会とのコミュニケーションなど、緑化という面だけでない様々な効用をもたらしていることを実感できる芝刈り体験だった。

あっという間にポリペール3杯がいっぱいになった

裸足で芝刈りを楽しむ在校生の子どもたち