街路樹

芝を出発したバスは、都心部の街路樹を見学しながら移動する。現在都内には明治以来植えられてきた街路樹が約48万本ある。これを倍増しようというのも「緑の東京10年プロジェクト」の到達目標の一つ。平成22年度末までに70万本、平成27年度末には、街路樹を100万本に増やそうという計画だ。

街路樹は、人間に潤いや安らぎを与えてくれるばかりでなく、都市景観の美化、生態系の保全への寄与など、さまざまな役割がある。地域の特性に応じた街路樹を増やすことで、連続する豊かな緑が美しい都市景観を描く「グリーン・ロード・ネットワーク」を形成し、東京の価値を高めようというのが、街路樹倍増の狙いだ。

道路自体がそれほど増えるわけではないのに、どうやって街路樹が倍になるのか、その方法が説明された。通りかかった半蔵門の英国大使館界隈、大きく枝を張った街路樹の間に、植栽されたばかりの若い苗木が目につく。これが「中木」というもの。既存の高木の街路樹間に、背の低い中木の街路樹を植栽することで、街路樹の本数を増やしていくのだという。こうした「中木」には、ギンバイカやセイヨウシャクナゲ、シナマンサクなどの花が咲く街路樹が用いられ、道路沿いを美しく彩る予定となっている。

既存の街路樹の間に新たに植栽された中木

この街路樹倍増計画には、東京都が実施している「緑の東京募金」の"街路樹倍増"に寄せられた募金が使われる。「緑の東京募金」は、東京に緑を植え、育てる募金で、募金者は「海の森の整備」、「街路樹の整備」、「校庭芝生化」、「花粉の少ない森づくり」から、使い道を指定することができる。平成22年度までの3年間で8億円の募金を目指している。さらに平成20年度からは街路樹そのものを寄付してもらうことも予定されている。寄付された街路樹は、「マイ・ストリート・ツリー─わたしの「みちの木」─」として植栽される。これも、都民に主人公として参加してもらおうとする「緑のムーブメント」の展開例だ。

英国大使館前の道路では、ガードフェンスについても説明があった。よく見ると木製のガードフェンスが続いている。鋼鉄製のものと違い、緑豊かな周辺の景観としっくりなじんでいる。実は、このガードフェンスも「緑の東京10年プロジェクト」が目指す目標に組み込まれている「花粉の少ない森づくり」の一環だという。

英国大使館周辺のサクラが満開。これも街路樹だ

多摩産材で作られた木製ガードフェンス。周囲の樹木とマッチしている

現在、東京都の面積の約4割を占める森林の内、7割が多摩西部にあるとされている。これらの森林には、スギやヒノキが戦後、植林されたため、大量の花粉を発生し花粉症を引き起こす原因にもなっている。その上、海外から輸入される安価な材木に押されて需要が減り、適切な手入れが行なわれていないことも、森林荒廃の理由のだと言えるだろう。

そこで、多摩の木材(多摩産材)をもっと利用することでスギを伐採し、花粉の少ない森へと造り替えていこうというのが、「緑の東京10年プロジェクト」の目標だ。現在ガードフェンスの他にも、公園のベンチや保育園の遊具、住宅、さらには代替燃料の木質ペレットなどに利用されている。今後さらに多摩産材の需要を喚起することで、花粉症も減っていくことにつながる。