新生活を始めた「新社会人」の皆さん。この時期、体調不良を理由に医療機関を受診する方が特に多くなるという事実をご存知ですか?

4月、5月は、暖かくなり過ごしやすくなる一方で、1日の寒暖差が激しく、その環境の変化に体がついていかれずに身体的なストレスを感じがちです。

また、新社会人として規則正しい生活をよぎなくされ、会社では常に先輩や上司に気を遣いながら、新しく仕事を覚えなければなりません。プライベートでも一人暮らしを始め、周囲の人間関係や生活環境の変化に戸惑う方も少なくないはずです。

そう、春はいくつもの負荷が精神的にも肉体的にも同時にかかることで体調を崩す恐れがある時期なのです。

そんなこの時期に発症するうつ病を、私は「春うつ」と呼んでいます。今回は、春うつについて、詳しくお話していきます。

新社会人を襲う「春うつ」の症状

「春うつ」チェックシート
いくつもチェックが入るひとは、注意してくださいね。
□寝つきが悪い。途中で目が覚める。朝早くに目が覚める
□疲れやすく、休日に休んでもなかなか疲れがとれない
□ご飯がおいしいと思わなくなった。食欲がない
□仕事に集中できない、仕事の効率が上がらない
□ミスや忘れ物が多くなった
□仕事以外の趣味やプライベートが今までのように楽しめなくなった
□家族や友人、同僚とも、関わりが減っている
□何をしても楽しく感じない

春うつを引き起こす仕組みは、実は「かくれ栄養失調」にあった!?

新生活を始めた社会人1年生がみんな体調不調を引き起こす訳ではありません。この時期クリニックを訪れる春うつの患者様は、新社会人に限らず、ほぼ全員栄養状態に問題があります。

例えば、新年度から単身赴任生活を送っている男性の場合、ファストフードなどの外食かコンビニでの食事が中心に。また、部署が変わり残業が多く帰宅時間が遅くなり夕飯を食べる時間が不規則になったそうです。

また、新社会人の方であれば、一人暮らしになりコンビニ食がほとんどとなったり、朝ギリギリになってしまい、朝食は食べていないと、いったりした状況でした。

このように、欠食もしくは偏った食生活により、からだの栄養状態のバランスが乱れていたのです。

人間の体、特に脳は、タンパク質やDHAといった脂質、ビタミンB6、ナイアシン、そして鉄、亜鉛といったミネラルなど、様々な栄養素が必要です。

それらの栄養素が偏った食事からでは十分に摂取できない状態となり当然、脳の働きやパフォーマンスが落ち、肉体的にもエネルギーを十分造れない状態に陥っているわけです。 そこに、新たな人間関係や新たな仕事、新たな生活などなど、いくつもの負荷が精神的にも肉体的にもかかるわけですから、とっても対応しきれないですよね。つまり、春うつの原因は、ズバリ、「かくれ栄養失調」から来ているのです。

「春うつ」を招く食習慣(セルフチェック)
□朝、食べないことが多いか、食べても、おにぎり1個とか、菓子パン一つとコーヒー
□コンビニでは、お弁当よりもおにぎりや菓子パンを選ぶことが多い
□コーヒーや紅茶、緑茶など、カフェインを多く含む飲料を頻回に飲む
□ジュースを飲む習慣がある
□野菜は嫌い
□お肉やお魚は苦手、炭水化物(お米、麺類、パン)が大好き
□甘いお菓子が大好き
□ヨーグルトは欠かせません
□お腹の調子がいつもすっきりしない
□揚げ物が大好き

こんな食習慣にいくつもチェックの入る方は、「かくれ栄養失調」の危険性があります。そんな方へ今からできるアドバイスをご紹介します。

春うつを防ぐ、最重要『7つの習慣』はこれだ!!

1.朝は必ず食べる。しかも、炭水化物に偏らないこと

朝食は、一日の大切なエネルギーチャージです。特に朝から、タンパク質を最低でも2品食べるように心がけましょう。

忙しい方は、チーズや納豆の買い置き、前の晩からゆで卵を準備しておくなど、お手軽料理で朝の負担を減らす工夫も。豆乳を牛乳の代わりとして摂取することでタンパク質の摂取量が大幅に改善します。

2.糖質に偏らない食事を

忙しいあまりに、おにぎりだけやパンだけにならないように注意しましょう。また、外食もファストフードや丼物は止めて、定食やランチセットなどサラダも入ったメニューを選びましょう。その時にも、タンパク質は常に意識しましょう。

3.朝、太陽の光を浴びる!

太陽の光は、脳内の幸せホルモンであるセロトニンの分泌を促します。朝、起きたら、まずはカーテンを開けて、約1分間全身に朝日を浴びながら、深い深呼吸を行うとよいでしょう。脳内にセロトニンがたくさん分泌されて、みるみると気力がみなぎってくるはずです

4.鉄分を積極的摂取する。

特に女性は鉄不足になりがちです。動物性のタンパク質は鉄分が豊富なので、積極的に摂るようにしましょう。ダイエットを気にする方も、大丈夫! お肉を食べて太ることはあまり考えられません。

5.カフェインを控える。

カフェインは交感神経を緊張させる働きがあります。特に夕方5時以降のカフェイン摂取は、夜間の脳の興奮につながり、不眠や中途覚醒の原因となりがちです。夕方5時以降のカフェインの摂取は控えましょう。

6.腸内環境を整える。

幸せホルモンのセロトニンやオキシトシンは腸管の粘膜でつくられることがわかってきました。つまり、腸内環境を整えることで、幸せホルモンを増やすことができるわけです。

お腹によい、乳酸菌を多く含む日本古来の味噌や米麹、酒粕、ヨーグルトなどの発酵食品積極的に摂取しましょう。

また、逆に、腸内環境を悪化させる可能性のある、食品添加物などの化学物質、グルテンやカゼインといった腸の炎症を引き起こす小麦製品や乳製品は、特にお腹の弱い人は避けましょう。

7.ビタミンB群、ビタミンDの摂取はサプリメントの活用を

ビタミンB6、ナイアシン、そしてビタミンDは、なかなか食品では摂取しにくいものです。このような栄養素はサプリメントを摂取することで補充することができます。

ただし、サプリメントは、安全性が保証されているもので医療機関のみで購入できるサプリメントをお勧めしています。特に、海外から個人輸入の形で入手するサプリメントは、日本で製造も販売も承認されていないものもあるため、お勧めできません。

今から生活習慣に気をつけて、「春うつ」の5月を乗り切る

新生活は不安もありますが、未来への新たなチャレンジでもあります。最初は様々な試練やうまくいかないこともあると思います。

でも、ものは考え方、ご自身の昔を思い出してください。その昔、知識や能力をつけるため、色々なことを学び、覚え、そして、学力や運動能力や技術を高めるために、ひたすらトレーニングをして練習してきた中学生、高校生時代、大学生時代があったことを。

そのときに大切だったことは、なんと言っても「体力」だったり「忍耐力」だったり「継続する力」でしたよね。

そして、その力の源は、実は全てからだの源「栄養」だったのです。どうぞ、今からでも間に合います。しっかりと栄養をつけて、ご自身の力で、『春うつ』の5月を乗り切りましょう!!

著者プロフィール:梶尚志(かじ・たかし)

梶の木内科医院 院長総合内科専門医、腎臓専門医。
総合内科専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。