ベルギーのアントワープで開催されたimec主催の年次イベント「ITF World 2026」では、Samsung Electronics(サムスン)とTSMCのトップが登壇し、それぞれが自社技術で実現しようとしているAIの未来について熱弁をふるった。また、AMDは今後急成長する見込みのフィジカルAIについて、異種の半導体を組み合わせた分散型システムが必要になると主張した。

設計からパッケージングまでの同時最適化でAIシステムの未来を構築するサムスン

サムスンは同社の半導体事業を担当するDevice Solutions(DS)部門のプレジデント兼最高技術責任者(CTO)であるジェイヒョク・ソン氏が「Beyond ZFLOPS: What's Next? Architecting the Future of AI Systems(ゼタフロップスを超えて:その次は何? AIシスエムの未来を構築する」と題して講演した。

  • サムスンDS事業部門プレジデント兼CTOのジェイヒョク・ソン氏

    ITF World 2026の会場の様子とサムスンDS事業部門プレジデント兼CTOのジェイヒョク・ソン氏の講演タイトル(著者撮影)

同氏は、「AI技術は、生成モデルからエージェンティックAI、さらにはフィジカルAIの時代へと急速に進化していくのに伴い、半導体メモリ容量の要求が急増している。これまで、AIシステムの開発は、CPU、GPU、高帯域幅メモリ(HBM)などのチップの性能向上によって主に達成されてきており、より高い演算能力の実現の追求に支配されてきた。しかし、次世代AIシステムの新たな要求は、単一チップソリューションの能力を超え、根本的に新しいパラダイムを必要としている」と述べた。

  • AIのパラダイムシフト

    AIのパラダイムシフト。生成AIからエージェンティックAIやフィジカルAIへ (出所:ITF World 2026、以下すべて同様)

  • AI時代におけるメモリ容量の要求

    AI時代におけるメモリ容量の要求

また、消費電力、帯域幅、レイテンシ、熱管理といった重要なボトルネックに対処するには、ロジック、メモリ、パッケージングを個別に開発するだけではもはや不十分であることを指摘。代わりに、これらの要素を同時に最適化設計できる、システムレベルの包括的なアプローチが求められているとし、サムスンでは、集積回路設計からプロセスデバイス製造、パッケージングまでを同時最適化する枠組みを構築していることを述べた。

  • サムスンのソリューション

    サムスンのソリューション。設計からパッケージングに至る同時最適化

この実現には、高度なアーキテクチャ設計能力だけでなく、そうした高度な集積化を実現できる半導体プロセス技術やパッケージング技術が必要となる。サムスンでは、ロジックデバイスの最先端技術をDRAMへ、さらにはNANDフラッシュメモリに移転することでシナジー効果を生むとしている。

  • 技術移転によるシナジー効果の創出

    技術移転によるシナジー効果の創出

そして、シナジーにより次世代のデバイス構造や新材料も生み出されることとなる。例えば、VCT(垂直チャネルトランジスタ)、VS-DRAM(垂直積層型DRAM)、3DS-FET(3次元積層型FET)、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素から構成される透明な酸化物半導)、強誘電体などを挙げ、これらの新構造や新材料により、技術的ブレークスルーが可能になると説明した。

  • シナジー効果で誕生した新構造と新材料

    シナジー効果で誕生した新構造と新材料。左からVCT、VS-DRAM、3DS-FET、IGZO、強誘電体

さらにCo-packaged Optics(同一基板上に集積回路と光学回路を一緒にパッケージングした構造。日本では光電融合とも言われている)により信号損失を最小化できパワー効率と帯域幅を改善できるので、今後注力していくとした。

  • Co-packaged Optics

    Co-packaged Optics(集積回路と同一基板上に配置される光学回路)

最後に同氏は、サムスンと半導体製造装置・半導体材料サプライヤ間でデータを共有するDSEP(データ・シェアリング・エコ・プラットフォーム)によって、より早い分析結果のフィードバックとよりスマートなAIによる予測が実現するとしている。サムスンのDS部門は、設計からプロセス・デバイス、さらにはパッケージングに至る、顧客にやさしい構造的なソリューションを提供していくと話を結んだ。

  • サムスンと製造装置・材料サプライヤ間でデータを共有するDSEP

    サムスンと製造装置・材料サプライヤ間でデータを共有するDSEP

先端シリコン技術でAIの未来を切り拓くTSMC

TSMCの上席副社長(SVP)兼副業務執行共同責任者(Deputy Co-COO)であるケビン・チャン氏は、「Powering the AI Future with Leadership Silicon(先端シリコン技術でAIの未来を切り拓く)」と題して講演した。

  • TSMCの講演タイトル

    TSMCのケビン・ジャン氏の講演タイトル

同氏は、「人工知能(AI)は、私たちの働き方、暮らし方、そして物理世界との関わり方を急速に変革している。AIの進歩は、エネルギー効率の高いトランジスタから、CoWoS、3Dスタッキング、先端パッケージングといった高度な集積技術に至るまで、半導体技術に大きく依存している。AI全体の拡張要件を支える上で、電力供給と高速信号伝送がますます重要になるにつれ、シリコンフォトニクスや集積型電圧レギュレータなどの新技術が、将来のAIデータセンターのニーズに対応するためのシステムレベルの拡張を推進する鍵となる技術として登場した」と述べ、講演では、データセンター、エッジAI、フィジカルAIなど、AIアプリケーション向けの最先端の高度な半導体プラットフォーム技術について紹介した。

また、「半導体のイノベーションは、imecと産業界のパートナーシップから生まれてきた」と過去を振り返るとともに未来に思いをはせた。imecが技術を発表した数年〜10年ほど後にTSMCをはじめとする産業界が量産に活用するような流れがあり、CFETや高NA EUVも同様だろう」とも述べた。TSMCは、imecのCMOS技術開発のコアメンバーであり、imecのIC設計・製造サービス部門である「IC-Link」は、長年にわたりTSMCのValue Chain Alliance(VCA:TSMCの製造委託窓口)およびDesign Center Alliance(DCA)のメンバーであり、2026年5月にはTSMCの「3DFabric Alliance」にも参入するなど、win-winの関係にある。

  • imecと産業界のパートナーシップから生まれる半導体イノべーション

    imecと産業界のパートナーシップから生まれる半導体イノべーション

フィジカルAIで分散型システムの重要性を強調するAMD

AMDの上席副社長(SVP)兼アダプティブおよび組み込みコンピューティング担当ゼネラルマネージャーのサリル・ラジェ氏が「Why physical AI needs a distributed nervous system(なぜフィジカルAIは神経のような分散型システムを必要としているか?)」と題して講演した。

  • AMDの講演タイトル

    AMDの講演タイトル

同氏は、現在黎明期にあるフィジカルAIだが、2035年には2000億ドル市場へと成長し、2030年代を通して指数関数的に急成長するとの見通しを示し、すでにAMDとしてもフィジカルAIに注目している点を強調した。同社の語るフィジカルAIは、AIがセンサなどを介して現実の物理空間を認識・理解し、ロボットや自動運転車などの「物理的な身体」を伴って自律的に行動し実務を実行する技術の総称としている。

  • フィジカルAIは2030年代に指数関数的に急成長することが期待される

    フィジカルAIは2030年代に指数関数的に急成長することが期待される

同氏は、「走ったり、跳んだり、踊ったりできるロボットは誰もが見たことがあるだろう。しかし、動きだけでは価値は生まれない。それはデモに過ぎない。真の価値は、現実世界での信頼性が高く、再現性のある作業から生まれる。ロボット工学において、もはやボトルネックは移動能力ではなく、器用さである。価値創造とは、システムが厳しい電力と遅延の制約の下で、感知、認識、そして動作をリアルタイムで行う、物理世界との相互作用を意味する。このような環境では、システムの性能は、何ができるかではなく、予測不可能でリスクの高い状況下で、繰り返し確実に何ができるかによって測られる」と述べた。

そうしたことを実現するフィジカルAIにおいては、クラウド環境では有効だった中央集権的な頭脳だけに頼ることはできない。センサ、エッジプロセッサ、アクチュエータなど、データ生成や意思決定が行われる場所に近い場所にインテリジェンスを組み込んだ、神経のような分散型システムとして設計する必要がある。この変化は、ワークロードの分割方法、コンピューティングアーキテクチャの設計、そして決定論的かつリアルタイムな動作を実現するためのハードウェアとソフトウェアの共同設計方法を根本的に変えるとする。

また、従来の中央集権型AIから分散型AIへの移行がなぜ避けられないのか、現実世界の制約が今日のAIアーキテクチャをどのように破綻させるのか、そしてシステム設計とオープンなエコシステムを通じて構築される信頼がどういったフィジカルAIプラットフォームが拡張性を持つのかを決定づける理由について考察した。

  • フィジカルAIに必須となる分散型システム

    フィジカルAIに必須となる分散型システム

なお、同氏は、「ロボットの異なるワークロードにはそれぞれ異なる演算の要求があるため、一種類のアークテクチャだけで対応することは最適ではなく、ニーズに応じてGPU、CPU、NPU、FPGAを組み合わせる必要がある。そうなるとフィジカルAIの課題解決には、1社だけでは対応できないので、多くの企業の協業が必要である」と話を結び、AMDだけではなく、広く多くのパートナーとともにフィジカルAIの発展に向けて取り組んでいく必要性を強調していた。

  • フィジカルAIには異種の半導体を組み合わせる必要がある

    フィジカルAIには異種の半導体を組み合わせる必要がある

次回は、日本勢の招待講演を紹介する予定である。