岐阜大学は7月27日、欧州のガンマ線望遠鏡H.E.S.S.など、複数の望遠鏡を用いた観測により、天の川銀河最大の質量を持つ超星団「ウェスタールンド1」(Wd1)において、同銀河内で最強クラスの宇宙線が発生していることを初めて示したと発表した。
同成果は、岐阜大 工学部の佐野栄俊准教授、名古屋大学(名大)大学院の福井康雄名誉教授を中心に、国立天文台、オーストラリア・西シドニー大学、同・アデレード大学らの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。
100年来謎だった“宇宙線の起源”解明に光
宇宙線は銀河や物質の進化に多大な影響を及ぼすことから、その発生源(加速源)の特定は、現代天文学の最重要課題の1つとなっている。銀河系内の宇宙線発生源としては主に超新星爆発が有力視されており、観測的には約100TeV(テラ電子ボルト)までの高エネルギー宇宙線が確認されていた。
一方、銀河系最大のエネルギーを持つ宇宙線はその約30倍に達する約3PeV(ペタ電子ボルト)が観測されているが、その発生源の詳細は不明だった。このような超高エネルギー宇宙線を発生させる天然の加速器天体は「ペバトロン」と呼ばれる。その候補の1つが、さいだん座の方向約1万3000光年に位置し、太陽質量の約10万倍という、天の川銀河で最大級の超星団Wd1だ。わずか3光年ほどの範囲内に大質量星を168個内包しており、2022年にはその周囲から極めて強力なガンマ線が検出され、ペバトロン候補として注目を集めていた。
今回の研究では、名大と岐阜大などがチリで共同運用するNANTEN2電波望遠鏡に加え、オーストラリアのATCA干渉計で取得した星間雲のデータと、H.E.S.S.のガンマ線画像の精緻な比較が行われた。その結果、ガンマ線分布と空間的によく一致する星間雲が新たに発見された。その総質量は太陽の約160万倍であることも突き止められた。
また、国立天文台がチリのアタカマ砂漠で運用するアステ(ASTE)電波望遠鏡を用いた観測では、Wd1の中心方向に空洞分布を持つ分子雲が捉えられた。同分子雲は、大質量星からの強力な紫外線やガスの噴出流(恒星風)によって形成されたと考えられ、実際に恒星風を受けて毎秒5kmの速さで膨張していることも確認された。さらに、この空洞の大きさと膨張速度から、約70万年前に形成されたことも特定された。
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(a)星間雲から求めた水素柱密度画像にガンマ線強度等高線を重ねた図。(b)星団中心部の拡大図。分子雲画像・等高線に、赤外線画像が重ねられている。点線は、大質量星からの恒星風により形成された分子雲の空洞分布を示す。(出所:岐阜大プレスリリースPDF)
Wd1が銀河系最強レベルの宇宙線を発生できた機構について、先行研究では大質量星からの恒星風が直接寄与したシナリオが提示されていた。それに対し今回の研究では、星団内で起きた超新星爆発による宇宙線加速が効率よく機能したという新たな説が提唱された。
Wd1では、星団内の中性子星の存在から過去に1回以上の超新星爆発が起きたことが判明している。爆発の衝撃波は伝搬する過程で宇宙線を加速し、そのエネルギーは衝撃波の速度と磁場強度に比例する。今回発見された分子雲の空洞内では、衝撃波はほぼ減速されずに進む上、多数の大質量星からの恒星風が入り乱れることで強磁場が形成されるため、高エネルギー宇宙線を発生できた可能性がある結論づけられた。
さらに、アステ望遠鏡のデータの詳細な解析から、毎秒20kmの相対速度差を持つ2つの分子雲が、星団方向で入れ子構造に重なっていることも明らかにされた。どちらもジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の赤外線画像と空間的に一致し、Wd1と同距離に位置すると推定されたほか、両者は中間速度の淡い分子雲で結合していた。これらの特徴は、約400~500万年前に両分子雲同士が衝突して水素ガスが急圧縮され、Wd1が誕生したというシナリオを裏付けるものとされた。
大質量星団の形成機構は長年不明だったが、近年は星間雲同士の衝突による形成現場が相次いで発見されている。しかしWd1は年齢が400万~500万年と古いため、星団の材料となった母体の分子雲は大質量星の強烈な紫外線ですでに破壊されていると考えられていた。そのため今回の発見は、星団形成ひいては宇宙の物質循環・銀河進化の従来像を覆す重要な成果であるとした。
今回、Wd1がペバトロン候補の重要天体であることが示されたが、今後の課題は同様の大質量星団が他にも存在するのかどうかを明らかにすることとしている。天の川銀河ではすでに約10個の星団からガンマ線が検出され始めており、今後、次世代ガンマ線望遠鏡「チェレンコフ・テレスコープ・アレイ(CTA)」や、日本主導の超高エネルギー宇宙ガンマ線の高感度広視野連続観測計画「アルパカ(ALPACA)実験」が本格稼働することで、さらなる発見が期待されるという。これにより、宇宙線加速器としての星団の役割が解明され、銀河進化の理解が大きく飛躍することが考えられるとする。
また、Wd1で母体分子雲が壊されずに生き残った理由の解明も極めて重要だ。より高解像度の分子雲データが不可欠なことから、研究チームは現在、アルマ望遠鏡による観測準備を進めており、約5倍の解像度を得られる見込みとのこと。これにより、分子雲の温度や密度構造の精緻な解明を目指すといい、その結果として銀河の物質進化プロセスにおける新たな知見が得られることが期待されるとしている。

