宇宙機が大気圏に再突入する際に、機体前方に発生する高温・高圧の気体の領域「衝撃波層」。その流れを磁場で制御する「MHDエアロブレーキング」の研究に向け、極超音速風洞の短い試験時間に同期して強磁場を発生させられる装置を開発したと、東京都立大学と鳥取大学が7月28日に共同発表した。

  • MHDエアロブレーキングによる大気圏再突入時の概念図 (出所:都立大プレスリリースPDF)

    MHDエアロブレーキングによる大気圏再突入時の概念図 (出所:都立大プレスリリースPDF)

この装置を用いて、秒速約7kmの極超音速流の中で、最大1.58テスラ(T)という強磁場を安定して印加することに成功。模型前方の発光領域が約16%拡大し、強磁場が衝撃波層に作用することが確認されたことも、併せて発表した(なお1.58Tとは、同サイズのネオジム永久磁石の磁場の2倍超にあたる強さ)。

同成果は、都立大大学院 システムデザイン研究科の嶋村耕平准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国航空宇宙学会が刊行する、宇宙機・ロケット・ミサイルシステムを扱う論文誌「Journal of Spacecraft and Rockets」に掲載された。

宇宙機が地球などの惑星大気圏へ秒速7〜10kmほどの超高速で突入すると、機体前方の空気は衝撃波によって急激に圧縮・加熱され、数千度に達する高温領域が形成される。これによって機体が強い熱を受ける現象が「空力加熱」だ。現在は、耐熱タイルや表面を消耗させて熱を逃がすアブレーション材料によって機体を保護しているが、重量増加や表面損耗、再使用時の点検・補修など、課題が多い。

そこで、機体周囲を流れるプラズマ化した高温空気に磁場を作用させ、その流れを機体から遠ざける、MHD(電磁流体力学)エアロブレーキングという技術が注目されている。この技術には、機体の加熱抑制と同時に、空気抵抗を増加させて減速を補助する効果も期待されている。

実際の大気圏突入に近い秒速7km級の極超音速流を用いた従来のMHDエアロブレーキングの実験では、主に模型内にネオジム永久磁石が用いられてきた。しかし、同磁石で発生できる磁場強度には限界があり、磁場の広がり方も磁石の形状でほぼ固定される。そのため、より強い磁場をかけた際の衝撃波層の変化や、機体形状に応じた磁場変更による効果を詳細に分析することが困難だった。

そこで研究チームは今回、極超音速風洞で空気流を観測できる時間が約40マイクロ秒と非常に短い点に着目。空気流が模型に到達する瞬間のみ大電流を流せば、冷却装置なしで永久磁石を上回る強磁場を発生させられる。

研究チームは、コンデンサとコイルを交互に接続した7段のパルス整形回路(PFN)を製作。コンデンサの電気エネルギーを順番に放出させることで平坦で長い電流波形を形成し、約1kAの電流を模型内部の空芯コイルへ供給することに成功した。

加えて、単に磁場を強めるだけでなく、模型形状に応じて必要な場所へ強磁場を形成することが目指された。先端形状が異なる直径20mmの模型を2種類製作し、数値解析を用いて衝撃波層を覆う双方のコイル構造が設計された。

一方には直径12mm・49巻きのコイルを組み込んで広範囲へ緩やかに変化する磁場とし、もう一方の模型には直径4.5mm・54巻きの小型コイルを組み込んで表面付近に強く集中する磁場とされた。その上で、極超音速風洞実験を実施することにしたという。

実験は、都立大の極超音速風洞を用いて、秒速約7kmの空気流を発生させて行われた。空気流が到達する直前に圧力センサで衝撃波を検出し、設定した遅延時間後にPFNを作動させることで、極超音速流、磁場および高速度カメラをマイクロ秒単位で同期させることに成功。磁場が最大値の99%以上に保たれる時間は、風洞試験全体がカバーされた。模型前方で測定された最大磁場は、一方では1.24T、もう一方で1.58Tを記録し、同等サイズの球形ネオジム永久磁石に対し約1.7倍および約2.1倍に達した。

さらに、この強磁場を印加すると、模型前方の自己発光領域の厚さが、非印加時と比べてそれぞれ約15.7%および約16.2%に拡大したほか、窒素分子やそのイオンに由来する発光スペクトルにも変化が現れた。これらの結果から、永久磁石を大きく上回るパルス磁場が高温の衝撃波層に作用し、その構造や内部のエネルギー状態を変化させたことが確認された。

今回開発されたパルス磁場発生システムは、電流値やコイル径、巻き数を調整することで、磁場強度のみならず作用範囲や空間分布も模型形状に合わせて設計可能だ。これにより、従来の永久磁石による実験から前進し、磁場強度とMHD効果の関係を定量評価できる実験基盤が整えられた形だ。

  • 初代「はやぶさ」のサンプルリターンカプセルを模擬した風洞模型のコイル図面(上)と磁場分布(下) (出所:都立大プレスリリースPDF)

    初代「はやぶさ」のサンプルリターンカプセルを模擬した風洞模型のコイル図面(上)と磁場分布(下) (出所:都立大プレスリリースPDF)

  • 宇宙機前方の自発光画像の比較。磁場なし(上)と磁場あり(下)。磁場ありの方が、衝撃波層が拡大している (出所:都立大プレスリリースPDF)

    宇宙機前方の自発光画像の比較。磁場なし(上)と磁場あり(下)。磁場ありの方が、衝撃波層が拡大している (出所:都立大プレスリリースPDF)

学術的には、シミュレーションで予測されてきた衝撃波層の拡大、機体への熱流束の低減、空気抵抗の増加を、実環境に近い高速・高温流中で検証することが可能になる。今後は熱流束や抗力、衝撃波位置、電子密度などを同時測定することで、電磁力によって高速流を制御するメカニズムの解明が進むことが期待されるとした。

研究チームが参画する科研費基盤研究(A)では、電離剤の供給法や磁場強度と搭載スペースを両立する磁石配置の開発を進め、それらを搭載した低軌道突入カプセルを観測ロケットで飛行させる実証試験が計画されている。今回確立された強磁場風洞実験技術は、飛行前にカプセル形状や磁場分布、作動条件を地上で検討し、設計の妥当性と安全性を確認する基盤となるとした。

将来的にMHDエアロブレーキングが実用化されれば、大気圏突入時の高温流を機体表面へ到達する前に制御し、耐熱タイルやアブレーション材への負担を軽減できる可能性がある。熱防御装置の軽量化による搭載量増加や再使用型宇宙機のメンテナンス軽減に加え、地球帰還カプセルや、火星などの大気を持つ惑星への探査機の安全な突入・減速技術への波及が期待されるとしている。