ベルギーのアントワープで開催されたimec主催の年次イベント「ITF World 2026」では日本企業としてPreferred Networks(PFN)と村田製作所がAIに関連する講演を行った。
PFN/Matlantis CEOの岡野原大輔氏が語った「AIのための半導体開発と半導体開発のためのAI」
PFN共同創業者兼CEOでMatlantisのCEOも兼ねる岡野原大輔氏が「Chips for AI, AI for Chips: Redesigning AI from Materials up(AIのための半導体チップ、半導体チップのためのAI:マテリアルからAIを再設計する」というタイトルで講演した。
同氏は、「AIは世界のインフラになっている」とした上で、「AIで定義された未来を維持するコンピューティング・リソースを築けるか?」と問いかけたほか、「AIがあらゆる産業に拡大し、数十億もの人々やデバイスを支えるようになるにつれ、この分野は重要な転換点に近づいている。進歩はもはやアルゴリズムによって主に制約されるのではなく、物理法則という根本的な制約によってますます制約されるようになってきている。これにより、2つの構造的な障壁が出現した。1つは『メモリの壁』で、データ移送が計算よりもはるかに多くのエネルギーを消費する状態に陥ることである。もう1つは『マテリアルの壁』で、従来の最適マテリアル発見サイクルは数十年単位という長期間を要していることである」と現状のAIの進化に対する物理的な制約が存在していることを指摘。こうした課題に対処するためには、個々の領域における漸進的な改善以上のものが必要となるとし、AIの次の段階では、材料、デバイス、回路、アーキテクチャ、システム、モデルに至るまでのインテリジェンススタック全体にわたる統合的な設計が求められるとし、クロスレイヤーの共同設計は、新たな物理的およびエネルギー的制約を超越する道筋を示すことを指摘し、そうした取り組みが新たなレベルの効率性と拡張性を実現することを強調した。
メモリの壁をどうやって打破していくのか
コンピューティングの計算速度が、20年で6000倍に増加しているのに対して、半導体メモリであるDRAMのバンド幅は20年で100倍しか増加しておらず、データの移送が計算よりもはるかに多くのエネルギーを消費する状態にある。
このようなメモリの壁を打破するために、PFNではエネルギー効率の高い統合によってメモリ転送のボトルネックを解消することを目的に設計した次世代AI半導体「MN-Core L1000」の開発を進めているという。HBMより、ロジックとメモリ間のパスが短く、消費電力が低く、エネルギー効率が約10倍高い点が特徴だという。
マテリアルの壁をどう乗り越えていくのか
2番目の障壁は「マテリアル(材料)の壁」である。
ある目的のために最適な材料を選ぶ必要があるが、その最適という可能性を持つ元素の組み合わせは1060もある一方、実際の人間が実験で確認できる候補材料の数はせいぜい1万程度である。そのため実験だけで新たなマテリアルを発見するには数年以上の時間を要する必要があった。しかし、PFNが開発したAIを活用した半導体などに利用可能な新規材料の発見を加速する汎用原子シミュレーター「Matlantis」を用いてマテリアルをあらかじめスクリーニングすることで、数分から数時間で新しいマテリアルを発見できるようになるという。
AIベースのMatlantisは、仮想空間上で分子の動きや特性を予測・解析し、電池、半導体、触媒などの分野で新素材や新材料の発見・開発を強力に支援することが可能。これを活用することにより、マテリアルから半導体チップを再設計できるようになる。
現実世界を計算可能にするというPFNの使命に導かれたこのアプローチは、AIが次世代AIシステムを支えるマテリアルとハードウェアの設計を支援するという、相互に強化し合うサイクルを形成すると岡野原氏は強調した。そして「現実世界を計算可能にして、ともに未来を創造しよう」と聴衆に呼びかけ、話を結んだ。
AIインフラに向けた新たな電力供給手法を村田製作所が提案
一方の村田製作所の最高技術責任者(CTO)である岩坪宏氏は「Next Evolution of Modularization for AI-Native Power Delivery(AIネイティブ電力供給のためのモジュール化の次なる進化)」と題した講演を行った。
同氏は「AI時代は電子システム設計に根本的な変革をもたらしており、電力供給は将来のコンピューティング性能と拡張性を左右する重要な制約の1つとして浮上している。AIインフラストラクチャの拡大に伴い、コンポーネント、パッケージ、基板、システム間の従来の境界はますます狭まり一体化しつつある。この変化は、より緊密な統合、高効率、システムレベルでの同時協調最適化を可能にする新たなモジュール化手法への需要を生み出している」と述べ、集積受動デバイス(IPD)と高度なパワーデリバリネットワーク(PDN)コンセプトが、AIネイティブハードウェアアーキテクチャの進化にどのように貢献できるかについて説明したほか、デバイス構造、設計手法、そして電子機器サプライチェーン全体における価値創造へのより広範な影響についての考察を披露した。
また、半導体のプロセス微細化にともなって、自社の主力商品であるMLCC(積層セラミックコンデンサ)のサイズや絶縁・電極層の厚みも微細化する努力を続けているとしたうえで、MLCC、Si-Cap(シリコン・コンデンサ)、IVRM(集積電圧制御モジュール)、iPaS(コンデンサ・インダクタ内蔵基板)、サーミスタを搭載した次世代パッケージングおよびチップレットのソリューションを提案。さらに、コンポーネントから完成したシステムに至るサプライチェーン全体にわたり、システムレベルの価値創造を再定義したいとして話を結んだ。










