先端半導体およびハイテクの研究機関であるベルギーimecの年次イベント「ITF (imec Technology Forum)World 2026」が、2026年5月19日ならびに20日、「Strategic Paths to an AI-defined Future (AIが定義する未来への戦略的道筋)」をメインテーマにベルギー北部のアントワープ市で開催された。会場となったベルギー最大のコンサートホールであるエリザベスホールは満席で、imecの社員を含め、参加できない人が大勢出るほど大盛況だった。恐らくメインテーマに関連したAIに関する世界的な関心の高さの表れであろう。ITF World 2026は、将来に向けたAIの発展に関する議論一色だった。
主催者であるimecは、開催趣旨を「人工知能(AI)の新たなフロンティアを目指す競争は、連日ニュースの見出しを飾っている。しかし、次世代AIの実現は短距離走ではなくマラソンである。その恩恵は人類全体に及ぶだろう。医療、モビリティ、ロボット工学といった分野において、想像をはるかに超える応用例が生まれるはずである。そこへ到達するには、多くの分野にわたる協力が不可欠である。要求の厳しいAIワークロードに対応できる、コスト効率とエネルギー効率に優れたハードウェア、ディープテック革新の新たな道を切り開く活気あふれるスタートアップエコシステム、そして画期的なアプリケーションを市場に投入したいすべての人が利用できる、柔軟なプロトタイピング機能。半導体エコシステムにおける独自の地位により、imecはAIが定義する未来へと続く道筋を開拓しようとしている。今回はその道筋を世界的なAIの専門家とともに探ることにしよう」と説明している。
「AIの規模拡大を目指す革命を画策する」 - imec CEO
ITF World 2026では、2026年4月1日に新にimecのCEOに就任したパトリック・ヴァンデナメル氏が、「Orchestrating a scalable AI revolution(AIの規模拡大を目指す革命を画策する)」と題して基調講演を行った。
同氏はまず、AIの発展にはオーケストラ的なアプローチが必要だとして、「私は、アントワープ生まれなので、幼いころ両親に連れられてこのコンサートホールにオーケストラの演奏を聞きによく来ていた。協奏曲を聴くとき、私たちはしばしば第一バイオリンの旋律や輝きに心を奪われる。現段階のAIはまさに1台のバイオリンである。私たちの想像力を掻き立て、世界にインスピレーションを与えている。しかし、バイオリンは単独では協奏曲を演奏できない。大規模なハーモニーを生み出すには、オーケストラとしての共演が必要である。AIエコシステムにおいてimecが存在する理由はまさにここにある。」と述べ、今後、imecは、楽団の指揮者のようにAI業界のオーケストレータの役割を果たしていくとした。
同氏は、「AIは現代を象徴する技術となりつつあるが、その長期的な発展は、スケーラビリティ(規模の拡大)という重要な課題にかかっている。AIがクラウドからエッジまで、複雑で自律的なシステムへと進化するにつれ、コンピューティング、メモリ、接続性に対する要求はかつてないほど急速に高まっている。AI革命を持続させるためには、高度なCMOSやヘテロジニアス統合からフォトニック相互接続、システムレベルの協調最適化に至るまで、テクノロジースタック全体にわたるイノベーションが必要である。さらに将来を見据えると、量子コンピュータや脳型(ニューロモーフィック)コンピューティングといった新たなパラダイムが、効率的な知能の新たな形態を切り開く可能性を秘めている。最終的に、スケーラブルなAIは単一のブレークスルーから生まれるのではなく、技術、分野、イノベーターからなるグローバルなエコシステムを統合することによって実現される」と述べ、AIハードウェアの進歩には、アルゴリズム、デバイスの微細化、デバイスの骨組み、ならびにアーキテクチャの調和のとれた同時最適化が必要だと主張した。また、ファウンドリ、ファブレス、EDAベンダ、半導体製造装置サプライヤ間だけでなく、ハイパースケーラーやAIアーキテクトとの間でも、より深い協力関係が求められるとも述べた。
このような業界を超えた協業傾向は、imecのような中立的な研究開発機関の役割を強化するものであり、imecはファウンドリ、製造装置メーカー、AI企業、そして学術研究者間の調整拠点としての役割をますます担うようになっている。さらなるコラボレーションの必要性から、imecはコンピューティングスタックのより上位へと進出しつつあるとして、ヴァンデナメレ氏は、imecがパリでimec.AI-labsというイニシアチブを立ち上げ、AIソフトウェアエコシステムとの、より直接的な連携を図ることを目的としたAIアルゴリズム向けハードウェアソリューションのベンチマークを開始したことを講演で明らかにした。この動きは、将来の半導体スケーリングが、ハードウェア設計とAIワークロードの整合性にますます依存するという認識の高まりを反映しており、同氏は、「imecがAIアルゴリズム企業になるというわけではなく、そのエコシステムとつながることが目的だ」と説明した。そして、「皆で協業して長期間にわたるAIの規模拡大目指そう」と述べて話を結んだ。
imecがNVIDIAのジェンスン・フアンCEOにLifetime of Innovation Awardを授与
imecは、技術とイノベーションの分野に革新的な貢献をした産業人を毎年一名選出して表彰してきたが、2026年は3月にNVIDIAの創業者で社長兼CEOのジェンスン・フアン氏を選出し、ITF World 2026で表彰することにしていた。同氏は、GPUを原動力として、アクセラレーテッドコンピューティングの実現と、さまざまな業界における重要なAIアプリケーションの強化に対する重要な役割を果たしたことが評価された。
しかし式当日は、NVIDIAの2026年2〜4月期決算説明会と重なったこともあり、ベルギーへ来ることができなかった。そこで、imecのルーク・ファンデンホフ会長が、シリコンバレーのNVIDIAを訪れて記念の盾を贈呈した模様が、ITF World 2026当日にビデオ形式で上映された。
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NVIDIAの社長兼CEOのジェンスン・フアン氏(左)とimec会長のルーク・ファンデンホフ氏(右)のNVIDIA本社キャンパスでの会談の様子 (出所:imec提供ビデオより著者がスクリーンショット)
ITF World 2026の会場では、コンピューティング、AI、そして業界を牽引するコラボレーションの進化を振り返るビデオインタビューが上映された。ファン氏は、ムーアの法則がコンピュータ業界における数十年にわたる進歩を可能にし、コンピュータのスピードが毎年のように向上した基礎となってきた点でその重要性を強調するとともに、imecのような先駆的な機関や、より広範な半導体エコシステムが現代のコンピューティングを実現する上で果たした役割を称賛したほか、革新的なコンピューティングのアイデアを半導体チップで実現できるようになったのは、EDAツールとファウンドリのおかげだと述べた。
また、ファン氏は自社の過去を振り返り、「初期の段階はGPUの開発、次の段階は新しいコンピューティング・システムの開発だった。そして今は、エクストリーム・コデザイン(Extreme Co-Design)に注力している」と述べた。ムーアの法則の鈍化に伴い、従来のプロセス微細化だけでは性能向上が困難になってきたので、NVIDIAは、計算処理・通信・ストレージ・ソフトウェアスタックに至るまでをひとつの巨大なシステムとして設計することで、すべての同時最適化を図り、電力効率や処理能力を高めるとしている。
「この視点は、半導体エコシステム全体における継続的なイノベーションを通じてAIをスケールアップするという、今年のITF Worldのメインテーマと密接に関連している」とimecのファンデンホフ会長は述べている。
次回は、Samsung Electronics、TSMC、AMDの招待講演を紹介する予定である。
(次回に続く)







