連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


不要品の整理で家具転倒リスクを軽減 - リフォーム時がチャンス!

阪神淡路大震災では多くの方が家具の下敷きになって亡くなられました。日本の住まいはモノにあふれすぎています。私の子供の頃は、茶の間には茶箪笥と座卓くらいしかありませんでした。寝室にはほとんど何もなく、あったとしても鏡台や整理ダンスくらいでした。建物さえ倒壊を免れれば、家具の転倒の下敷きになって命を失うリスクは比較的少なかったと思います。

しかし、現代の住環境はどうでしょうか。リビングダイニングを考えれば、ダイニングテーブルと椅子・ソファー・サイドボード・食器棚・テレビ・オーディオ機器などがあるのではないでしょうか。背が低いものでも安全というわけではありません。モノが室内にあふれていればいるほど、地震による被害のリスクは高まります。

耐震リフォームの際は、不要品を徹底的に処分し、既存の押入やクローゼットの中に空き空間を確保し、できるだけ室内にモノを出さないように収納の中に納めるように考えてください。徹底的に不要品を処分しても収納が不足するのであれば、新たな収納を増設するか、そのスペース的余裕がなければ、貸し倉庫やコンテナの利用も考慮に入れてモノの管理を徹底してください。家具の固定などはその先の問題です。

収納の見直し - 工夫次第で既存収納の収納力倍増!

リフォームや建替えを決心した理由として最も多いのが収納の不満だそうです。しかし元々さほど広くはない日本の住まいに新たに収納スペースを確保するのはかなり困難な問題です。そこで押入やクローゼットの中をより効率的に改造して、室内にあったモノをできるだけ多く取り込んで、すっきりと生活することも立派な耐震リフォームです。

特に押入の天袋やクローゼットの枕棚は使いやすいとは言えません。マンションの収納などは、工場で効率的に生産するための規格化と、輸送面、施工面を考えて高さ2m以下の箱タイプがほとんどで、上部に枕棚があってその下にハンガーパイプのスタイルが大半ではないでしょうか。わが家も同様でした。わが家ではリフォームに際して、この枕棚を撤去し、天井に直接ハンガーパイプを取り付け上下二段にしました。奥行も85cmと深かったので、前後二列にして、合計3本のハンガーレールとしました。デッドスペースがなくなり、これだけで収納量は3倍です。季節の入れ替えからも開放され、住まい全体の既存の収納は満杯どころか空きスペースもできたくらいです。

家具のレイアウト - 明暗を分ける家具のレイアウト

地震がどのように揺れて家具がどのように動くかは、起きてみないと分かりません。地震の威力は想像以上で、大きな箪笥も宙を飛んでくると思わなくてはなりません。それでも被害を最小限にするためには家具の配置は大切です。耐震リフォームの際は、家具は納戸やウォーキングクローゼットの中に仕舞うようなリフォームを心がける事が一番ですが、室内空間に配置する場合は箪笥がそのまま寝ている位置に倒れ込まないように、特に頭を直撃しないように配置してください。簡易的な転倒防止金物は万全とは言えません。先ずはレイアウトで極力被害を少なくする工夫を考えてください。

家具の固定 - 転倒防止金具だけではない、家具の固定方法

阪神淡路大震災に続き、東日本大震災を通じて防災意識も高まり、家具の転倒防止の必要性も認識されていると思います。転倒防止金物も広く認知されていると思いますが、皆様のご家庭ではいかがでしょうか。狭い日本の間取りでは、家具は倒れたら必ず家族を直撃することは避けられません。

しかし、転倒防止金物の多くは見栄えも悪く、また本格的に固定しようと思えば大切な家具にビスなどの穴を開けることになります。高価な桐ダンスや婚礼家具セットなどは、人命第一とは思っても少々残念な気持ちにはなるでしょう。そこで、そうした金具を使わずにスマートに耐震リフォームする方法を考えて見ましょう。

下記の写真はわが家のダイニングとキッチンを分ける食器棚です。もともとリビングダイニングとキッチンがワンルーム形式の間取りで、キッチンとリビングダイニングを分けるために両面使いの食器棚をおいていました。当初は食器棚の上部の壁はなく、食器棚は自立していて、天井面との間に突っ張り形式の転倒防止金物を設置していました。側面は日曜大工で作った天井までのL型の壁で冷蔵庫を隠していました。

東日本大震災の時は、そのためか幸いにも家具は転倒せず、中にあった食器も不安定なワイングラスを中心に一部の食器が転落して割れた程度でした。わが家も昨年リフォームしたのですが、本格的に耐震性を確保するために、天井から食器棚の上面までの壁を設置しました。壁の裏側(キッチン側)は棚になっていて、モノを収納する事ができます。食器棚を棚の面で固定しますので、壁が破壊されない限り食器棚は倒れる事がありません。食器棚をセットする都合、食器棚と棚にはわずかな隙間が必要ですが、念のためにゴムのピースを差し込んであります。リビングダイニングからの見栄えもよくなり、耐震性能も向上し、収納も増設されました。

また図のように家具の上面に色調や雰囲気を合わせた材質で丈夫な棚や新たな収納を新設して、家具を固定する方法もあります。耐震性を高めるとともに収納量のアップも期待できます。

(C)佐藤章子

家具の転倒防止金具やグッズは様々なものがあります。適材適所、使用注意書きをよく読んで使用してください。組み合わせによっては、互いに力が反対に作用し、逆効果の場合もあります。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。