連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


マンションか戸建か - 再び書き出して探る本音のありか

土地がある場合は別として、土地から購入して戸建住宅を手に入れるのは一般の勤労者にはなかなか難しいものです。従って選択の余地はなくマンション住まいとなります。価値観の違いによりマンション派、戸建派もありますが、一般的に資産価値の面からは戸建に軍配があがりそうです。ただし立地の良いマンションにはそれなりの資産価値がありますので、自分達の価値観を整理するために書き出してみましょう。

マンションのメリット

  • 都心や立地のよいところに住める

  • 鍵一つで外出可能

  • 一時的に住まなくなっても賃貸が容易

  • 土地から購入するのと比較して価格が安い

  • 自ら維持管理する必要がない

  • 火災等の類焼の被害が少ない

戸建のメリット

  • 建替えが自由・建替えないのも自由

  • 土地が財産として残る

  • 管理費が不要

  • 間取りが自由、自己表現ができる

  • リバースモーゲージ(※)が容易

(※リバースモーゲージとは:住まいを担保にして老後の資金を借り入れる制度で、死亡後に住まいを売却して精算するものです。1981年に武蔵野市でスタートしました。現在は厚生省の生活福祉資金貸付制度(窓口は各都道府県の社会福祉協議会)や地方自治体の独自の制度のほか、都市銀行でも扱っています。土地が担保対象であり、多くは戸建住宅のみが対象です)

間取りの配慮 - 自分のこだわりは永遠か?

戸建住宅の場合、過剰に方位を重視したり、自分なりのこだわりに執着したりするケースがあります。一般に言われている方位は古(いにしえ)の時代に中国から導入されたもので、当時の中国の自然環境や社会環境に基づいています。そのままでは日本の自然環境に合うはずもなく、もちろん社会環境は別物です。最適な配置は地域の環境の違いや敷地の状況のほうが大きく影響するにもかかわらず、昔の中国に合わせる意味はどこにあるでしょう。また、昔と現代では住まいの性能や設備は天と地ほどの違いがあります。

日本でも共通に使えた方位の考え方も現代では建物性能の向上により意味を成さなくなっています。昔ながらの方位に固執した間取りは使いにくいことが多く、住まいの資産価値にも影響します。方位をすべて満足させるとこうなるという間取りを顧客から見せてもらったことがありますが、動物園のバックヤードのような間取りで、当然建築を請負うことを断りました。本人達以外に誰も住みたいと思わないような間取りで、本人達もさぞ日々生活しにくいと思います。

極端な事例ですが、方位に限らず、あまり自分達のこだわりを押し出すと、資産としての価値が低減しかねません。また自分達の価値観が永遠とは限りませんし、家族構成は子供の成長と共にあっという間に変化するでしょう。自分たちも将来使い勝手が悪くなる可能性も孕んでいます。住まいはある程度汎用性を持たせて設計しておくほうが、将来にわたって快適に使えるだけでなく、資産価値も維持できると思います。

中古マンション購入+リノベーション - 工藤夕貴さんのハリウッドリフォーム

必ずしも望ましい傾向とは言えませんが、現在の日本の中古物件は実際の実力と比べて極端な低評価となっています。つまりお買い得なのです。最近安い中古物件を購入すると同時に、自分達の価値観に合わせたリノベーションを行うケースが増えています。出費を抑えつつ、戸建のメリットである間取りをある程度自由にアレンジし、自己表現できることが人気の理由です。そのための専用のローンも用意されていて、購入費用とリノベーションの費用を合わせて借り入れることが可能です。

「住まいが資産である」ということと、「住まいに対する心構え」について説明するのに、工藤夕貴さんのケースを紹介することが良くあります。工藤夕貴さんがハリウッドで活躍している時代に、最初に2000万円程度の大型2DKの築27年のアパートを購入し、徹底的にリフォームしたそうです。

壁を自分で塗り、マントルピースまで自作したために、かかった費用は60万円ほどだったそうです。2年後に倍の価格で売却し、プール付の戸建住宅を3700万円で購入し、3年間で400万円ほどかけてリフォームしました。当然アパートの時と同様に徹底的に自分の労力をフルに使って手直ししたそうです。日本に帰国する時に8000万円で売却できたそうで、まさに資産としては倍々ゲームです。

彼女は本格的な電動工具も使いこなし、日本に帰国した現在はトラクターも運転するようです。日本人はあまり日曜大工や住まいの維持管理に積極的ではありません。特に女性は電動工具を使えない方も少なくないのではないかと思います。住まいはしっかりしたものを購入しまたは建築し、自らの労力を惜しまず使ってしっかりと維持管理すれば、高い資産価値を発揮します。またそうした住まいの価値が正当に評価される仕組みが今後の社会には必要です。次回のその点に焦点を合わせて考えてみたいと思います。

「ハリウッド・リフォーム」については、工藤夕貴さんのオフィシャルウェブで詳しく説明されていますので、是非参考にしてください。

工藤夕貴のハリウッド・リフォーム

(※参考 : 過去のコラムでも「資産としての住まい」を取り上げています。是非ご参照ください)

マイホームのための街選び(3)--"資産としての住まい"を考えての街選びが重要

(※画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。