連載『住まいと安全とお金』では、一級建築士とファイナンシャルプランナーの資格を持つ佐藤章子氏が、これまでの豊富な経験を生かして、住宅とお金や、住宅と災害対策などをテーマに、さまざまな解説・アドバイスを行なっていきます。


あらためて「資産」とは何? - 資産の意味を考えれば住まいが分かる!

機会あるたびに「住宅を資産としてもしっかり捉える必要がある」ことを唱えてきました。もちろん住まいを金銭だけで捉えることもまた問題ではあります。住まいは家族の夢を実現する場であり、家族の生命と財産を守る器であり、自己を表現する場であり、かつ資産でもある…なのです。

それでは資産とはそもそもどういうものなのでしょうか。会計上の正式な用語の使い方は別として、資産とはいつか使う予定のための、あるいは活用するための、あるいは収益を上げるための預貯金や動産・不動産などです。換金できないものや活用できないものは資産とは言えないでしょう。家電製品や家具はどうでしょうか。10年程度で耐用年数が来る家電などは消耗品の部類かも知れません。何代にもわたって使い続けられるしっかりした家具などは、換金できるかどうか分かりませんが、絶対に必要なものであれば、買えば相当な金額となるので「資産」の部類に入れられるかもしれません。

では住まいはどうでしょうか。消耗品でしょうか。今までの日本では住まいの耐用年数は20数年と短く、消耗品的な扱いを受けてきた面は否めません。高度成長期においては住宅ローンで家計が破綻するケースは少なく、住まいを活用する必要性は、さほど認識していなかったかもしれません。しかし数千万円の費用を費やし、ローン総返済額はさらにそれよりも多くなる住まいが「資産」でなく消耗品であるとすれば大浪費でしょう。今の住まいは維持管理さえしっかり行えば、100年は優に使えます。住まなくなれば売却して換金も可能です。住まいは最大の資産で、長持ちさせなければならず、そのための労力を惜しんではならないのです。

生涯住居費は持ち家・賃貸どちらが有利?

住まい関係の雑誌等で、この話題は数10年にもわたって、その折々に話題に登場してきました。そもそも価値観の異なるものを同じ土俵に上げること自体、意味のないことなのですが、何度も話題になるのにはそれなりの理由があるはずです。日本の持ち家率は年代が進むにつれて高くなり、70代では80%以上となっています。つまり持ち家が日本人の基本路線であり、生涯賃貸で過ごすという意思を持つには、確固たる理念があるはずです。実際は、堅実な人生設計や貯蓄がなされなかったり、やむを得ない諸事情で、持ち家を断念せざるを得なかったりするケースということではないでしょうか。

持ち家を購入する能力がありながらの"積極的賃貸派"は独自のしっかりした人生設計が必要で、そのようなケースは日本人の中にはさほど多くはないと思います。それにもかかわらず、度々話題に取り上げられるのは、バブルで持ち家を断念せざるを得なかった時期、低成長時代に突入して、若者世代に漠とした不安が広がっている時期などに、マスメディアが迎合している結果のように思います。

実際比較検討した場合の生涯収支は、どの時代も共通してほぼ同じという結果となっています。しかし仮定の理論とは別に、実際は住む地域、戸建かマンションか、立地条件や市場性、建物の耐用年数などで大きく変化すると思われます。政府が推奨する長期優良住宅の場合は、単世代で採算の是非を論じること自体に意味がありません。

住まいの選択は生涯収支の有利不利よりも、自分達の価値観や万一の時にどう活用できるかのリスク回避の面で考えるべきでしょう。

持ち家と賃貸、メリット・デメリット

下記に持ち家と賃貸のそれぞれのメリットを挙げてみました。そのほかにも個々にリストアップしたい項目があると思います。一度家族でリストアップしてみて、どのメリットが重要か、反対にデメリットに対する対策は何があるかなどを考えてみると、自分たちにとってどちらが良いかが浮かび上がります。書き出してみる手法は、ファイナンシャルプランニングの手法の一つで、本格的に行ってみると、思わぬ結果に驚くことも少なくありません。

持ち家のメリット

  • 資産が残る

  • 家賃を払わなくても済む

  • 自由に自分を表現できる

  • 子供にとって思い出の家が存在する

  • 幸福感が得られる

賃貸のメリット

  • ローン負担がない

  • 身軽に好きな町や地域に転居できる

  • 災害で家という資産を失うリスクがない

  • 転勤や転職で家の対策を考える必要がない

リスク対応力はどちらが強い?

生涯住居費が地域性などの条件によっては大きく異なるとは言え、人生の岐路に立った時に、持ち家と賃貸でどちらが安全か、どちらが有利か、が問題となります。ローンで破綻する、あるいは災害等で住まいを失うが持ち家の最大のリスクだと思います。失業・病気・死亡などによってローンの返済が困難になる場合を考えてみましょう。これからの時代、一生同じ会社にいられる確率は少なくなりつつあります。従ってローンを組む時はその対策をたてて組む必要があります。

しかしその気になれば失業してもまったく職がないということはありません。配偶者が働くこともできますし、最低収入はある程度確保はできるでしょう。生活をある程度は絞ることも可能でしょう。重要なのは、ローンが支払えなくなった時に、それまでの意識を変えられるかどうかなのです。

(C)佐藤章子

ローンの借り入れ時にはほとんど団体信用生命保険に加入しますので、死亡の場合や一定の障害を負った場合はその後の返済は免除されます。また、ローンの残債よりもその時々の売却価格が高いような資産として目減りのしない物件であることも重要です。つまり、人生設計をしっかり立てて、リスクに対応する措置をとれば、万一の場合でも家賃を払っていかなければならない賃貸のリスクの方が大きいと思います。

ただし、災害リスクの高い地域やエリアに住まいを所有するリスクは大きいので、地域を選ぶか建物の構造や保険などの対策が重要となります。日本は地震国ですので、持ち家、賃貸にかかわらず、リスクの大きい地域やエリアに住むこと、地震に弱い建物に住むことには最大のリスクです。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。