――改めて、地上波テレビにないABEMAの強みというのを挙げると、何がありますか?

編成の自由度、クリエイティブファースト、実行スピードの3つだと考えています。編成の自由度で言えば、何十チャンネルにも増やすことができますし、先ほどの話でもあった敷き詰められたタイムテーブルの中では表現しきれない記者会見の一部始終を緊急チャンネルを開いて見せることもできます。スポーツにおいても、将棋などを含め、長時間の競技を一部始終逃さずお届けできますし、『72時間ホンネテレビ』や、田中圭さんや松本まりかさんの『24時間生テレビ』みたいなことも、自由度が高いからこそできる強みだと思います。

――「地上波はコンプライアンスでがんじがらめになっている一方で、ABEMAは緩い」と言われることもあると思うのですが、そこの意識はいかがでしょうか?

コンプライアンスが緩いとは思っていないのですが、クリエイティブを制限するような誰かが決めた不明瞭な忖度、もはや理由の分からない既存ルールみたいなものは、当然撤廃していきたいと思っているので、そういう部分の意識は強くありますね。

――いわゆる余計な自主規制はしないということだと思うのですが、それが地上波で必ずしもできない部分があって、なぜABEMAにはできるのでしょうか。

今のインターネットの普及率というのを考えると、影響力という点では実質同じようなことだと思うのですが、公共の電波を免許制度の中で使用するテレビ局の皆さまが課せられている使命で言うと、やはりどんな考え方の人、どの世代の人にとっても誤解がないような全方位的な配慮が必要になると思います。

一方で、インターネットは視聴者が選択していくメディアであり、全ての人に同じように見せて理解させる必要があるわけではないので、特定の誰かに向けて感覚を研ぎ澄まし、追求して、深掘って作っていくことができる。ただ、他の誰かにとって不快でないか、傷つけてしまわないかというのは当然考えながら、それをトレードオフにせず、ものづくり精神と高い倫理観の両輪で回していけたらと思っています。

―― 一部報道で、ある時期からお色気番組を禁止したというのがあったのですが、これは事実ですか?

特に決めたということはないんですけど(笑)、いわゆる昔は許されたのに、今の時代だと許されなくなったことへの気持ちを発散するかのような、ただ過激なものがインターネットになったからと言って支持されるわけでは当然ないですよね。熱狂の捉え方についてトライアンドエラーを繰り返しながら今に至っているので、その過程で誰かがそのような表現をしたのかもしれません(笑)

■エポックメイキングだった『THE MATCH 2022』

――先ほどもターニングポイントに挙げられた『THE MATCH 2022』ですが、PPV(ペイ・パー・ビュー)の販売数もさることながら、ABEMAへの1日の来訪者数が過去最高を記録したということで、ぜひこのインパクトというのを伺えれば。

日本中のみんなが行く末を見守って、勝敗について予想し、その結果に称賛して、今なお全ての会議でも語り継がれるという、世の中の雰囲気を独り占めするような素晴らしいコンテンツだったと思います。これがまさにターニングポイントとなって、スポーツや格闘技のジャンルが、日本でもインターネットに軸足を移してビジネスが大きく広がるような、エポックメイキングな出来事でした。

ただ今回はちょっと胸中複雑で、無料コンテンツによって1日の過去最高来場者数を更新し続けていきたいという思いもあったので、うれしい誤算でもありました(笑)

――格闘チャンネルを担当する北野雄司エグゼクティブ・プロデューサーに取材したとき、PPVと無料コンテンツの連携の可能性をお話しされていたのですが、そのあたりの充実化は今後考えていらっしゃいますか?

そうですね。有料で見るべきものと、無料でたくさんの人に見てもらえるものが存在する中で、どちらも持っている我々としては、そのハイブリッドな答えを出していきたいというのはあります。

  • 『THE MATCH 2022』メインカード「那須川天心vs武尊」

――先ほど、地上波にない強みというのをお話しいただきましたが、有料と無料の両方を持っているという要素は、NetflixやAmazon、YouTubeにない1つの強みだと思います。

もともとの成り立ちが、外資の巨大勢力の動画配信サービスがある中で、同じビジネスモデルで並びたくないという気持ちがありましたし、日本はテレビ局を中心に独特なメディアとしての発達をしてきたわけなので、この日本国内を見たときに最適な挑戦の形だと思っています。当然、誤算もたくさんありながら、トライアンドエラーを繰り返しながらですが、今のところは良い歩みになっているのではないかと思っていますね。