――番組制作において「師匠」と呼べるような存在はいらっしゃいますか?
師匠とはまた違うんだけど、「この人がいればもっと豊かになれる」「従来ある保守的なテレビの作り方から離れて、もっと時代的に面白いことができる」と思ったのは唯一、秋元康さんです。とある番組の構成会議で知り合いました。当時から言ってることがめちゃくちゃ面白かった。彼はイチ放送作家、私はイチADとしての参加でしたが、なんとなく目配せしてるうちに、相通ずるものがあるなと分かりました。
今や雲の上の、宇宙的な存在ですけど(笑)、40年か50年ぐらい前、僕はその時同じテーブルにいて「あ、この人なら面白いことができそうだ」と感じました。その後、秋元さんから「会社を作るんで参加してくれ」と言われて、一緒に会社(「SOLD OUT」)をやっていたこともあります。
――ドラマ制作において、特に印象に残っている俳優さんや、刺激を受けた方を挙げていただけますか?
パッと浮かぶのは、緒形拳さんです。日本テレビで『ポケベルが鳴らなくて』(93年)というドラマをやった時に主演で出ていただいたのですが、私のようなペーペーの駆け出し演出家に対して、非常につらく当たるんですよ(笑)。ちょっと演出すると「そんなテレビみたいな芝居ができるか!」って。テレビなんですけどね(笑)
――(笑)。緒形さんからはどんな影響を受けたのでしょう。
映像に自分の存在感をいかに強く出すかということです。毎回100パーセントの演技をなさるのを目の当たりにして、めちゃくちゃ感動しました。それまでは「部屋の引き画があって、相手役のアップがあって」みたいに流れに応じたカット割りを考えていたんですが、緒形さんに怒られてからは、とにかく他に誰が何をしゃべっていようが、緒形拳のドアップだけ撮ってやる、みたいになって。僕も若気の至りで相当無謀な勝負に挑んでいました。
――でもそうしたやりとりが、後の斬新な演出にもつながっていきそうです。
ある作品で、たまたま雨待ちの時に、部屋で2人きりになりました。そこで「お前、画が面白いから、映画とか撮ったほうがいいぞ」と言われて。その時点で3本くらい撮ってたんですけど(笑)、そこから「緒形さん、面白い企画あります」と言って、『さよならニッポン! 南の島の独立宣言』(95年)という映画に出ていただきました。私が初期の頃に出会った俳優でインパクトがあるといえば、緒形拳さんに尽きると思います。
――監督が周りに影響を与える、時代をけん引する存在になった以降に出会った役者さんで、衝撃を受けた方はいらっしゃいますか?
インパクトという意味で言えば、窪塚洋介ですね。『池袋ウエストゲートパーク』(IWGP、00年)の時、私の演出プランに彼は一切聞く耳を持ちませんでした(笑)。でもその結果として、ああいう「キング」という存在が造形できた。今でもみんな私に「やっぱりキングですよね」って言うんですけど、あれ、私が考えたんじゃないので(笑)
――窪塚さんの考えが、「キング」のキャラクターにはかなり入っていると。
脚本をもらった段階から、相当こだわりがあったようです。以降、非常にまじめな役も、深い役もお願いしましたけど、きちんと真面目にやってくれていますし、こちらの話も聞いてくれます。でも『IWGP』のときは、お互い若かったし、「舐められてたまるか」みたいなのもあったかもしれないですね。今やいい友達として楽しく過ごしています。
今のタームは「猛烈に楽しい終活」
――当連載の恒例質問です。監督が影響を受けたテレビ番組を1本挙げるとしたら何になりますか?
NHKの『映像の世紀 バタフライエフェクト』ですね。これはやばいです。毎週テーマが違うわけですけど、あの広大なアーカイブの中から、テーマに合わせてピンポイントですごいカットを探し出して編集していく。あれはNHK、あるいはBBCのような巨大なメディアにしかできない、非常に贅沢な、テレビ本来が持つ力を発揮している作品だなと思います。
普段、テレビをつけていて、バラエティやドラマや報道も面白ければ見ます。ザッピングする時に手を止めるのは大体クイズ番組ですが、意識的に絶対見ているのは『映像の世紀』です。
――監督の、今後の活動を表すキーワードがあれば教えてください。
「猛烈に楽しい終活」です。肉体的にはもうそろそろデッドゾーン。しかし、老いてなお盛ん、ではないけれど、頭の中は17~18歳ぐらいの世界観とほぼ変わりません。経験値だけはやたら上がっていて、むしろ邪魔になるくらい。体が動く動かないは抜きにして、思いや理念、斬新な感覚みたいなものをどこまで貫き通せるのかやりたいです。もしかしたらとんでもないドン・キホーテで、空回りのオワコンの極地かもしれないけど、とにかく“前に進んで倒れるまで”やろうと。
――まだまだアイデアがありそうですね。
数年のタームとして「楽しい終活」としてるんですけど、それより先、元気に生きてたら、また先のコピーを考えようと思っています。以前、Voicy(音声配信)で「硝子の60代」ってタイトルでやってたんですけど、70代になって、今は女優ののんさんが命名してくれた「金色(きんいろ)70代」になりました。80代になったらどうしようかな。「エメラルドの80代」とかもいいですね。どんどんアホな方に進んでいけるかもしれません。
――期待しています。最後に、次回の連載に登場していただく、気になっている「テレビ屋」を挙げてください。
テレビ屋というくくりではないかもしれませんが、AI映像クリエイターの宮城明弘さんです。読売テレビで『サヨナラ港区』という、全編AIで作った映像作品を手掛けられています。映像を作る者として、AIというのは非常に危険な存在でもあります。権利関係など際どい部分がある中で、宮城さんはそこを非常にリーガルに、真面目に意識されている。その前提があって、改めて彼の作ったAI映像を見ていると、クオリティの高さと作るスピードに驚かされます。
正直気になるどころじゃありません。ついに私たちをぶちのめす存在が出てきたなと、恐ろしい人として、注目しています。
