テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第225回は、21日に放送されたフジテレビ系バラエティ特番『ツギクル芸人グランプリ2022』(14:30~)をピックアップする。

この特番は、今後の芸能界でスターとなり、活躍が期待される芸人を発掘するために、日本音楽事業者協会とフジテレビが開催するお笑いコンテストであり、3回目の今回は初の生放送だった。

過去2回は、ザ・マミィと金の国が王者となって出演番組を増やしたが、今回はどんなスター候補が誕生したのか。また、民放5局のクリエイターたちが審査員を務めるメリットとデメリットはあるのか。掘り下げていく。

  • 『ツギクル芸人グランプリ2022』優勝のストレッチーズ

    『ツギクル芸人グランプリ2022』優勝のストレッチーズ

■優勝特典「5局10番組出演」の重さ

まず、出場者が芸能プロダクション110社の所属芸人から選ばれた15組であることが映像で明かされたあと、「次に来ること間違いなしのツギクル芸人たちが漫才、コント、ピン芸、ギャグ、お笑いのジャンルを問わずただ面白いことだけでガチンコ勝負。果たして激戦を制してお笑い界の未来を担うニュースターとなるのは誰だ」というナレーションが流れた。

VTRからスタジオに切り替わると、MCを務める爆笑問題・太田光の毒舌がさく裂。三田友梨佳アナに「ミタパンはステマをやっておりません」「カトパンが嫌いだそうです」と言い放ち、生放送であることを視聴者に知らせた。好き嫌いはあれど、やはり太田は生放送での振る舞いを心得ている希有なMCであり、その毒舌を聞いた芸人・審査員ともに気合を入れ直したのではないか。

続いて大会のルールを説明。A・B・Cの3つのブロックに分かれて各5組がネタ披露し、9名の審査員に一般観覧客を加えた計10票が投じられるという。その審査員には、審査員長の渡辺正行を筆頭に、ますだおかだ・増田英彦、井上咲楽、放送作家・元祖爆笑王、日本テレビ『有吉の壁』総合演出の橋本和明、テレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』演出の舟橋政宏、TBS『お笑いの日』総合演出の浜田諒介、テレビ東京『ぴったり にちようチャップリン』演出の小比類巻将範、フジテレビ『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』演出の中川将史が登場した。

そして出演者のテンションを上げ、視聴者を驚かせたのが優勝特典。賞金100万円に加えて、『有吉の壁』『スッキリ』(日テレ系)、『証言者バラエティ アンタウォッチマン!』『くりぃむナンタラ』(テレ朝系)、『賞金奪い合いネタバトル ソウドリ~SOUDORI~』『ザ・ベストワン』(TBS系)、『ぴったり にちようチャップリン』『内村のツボる動画』(テレ東系)、『千鳥のクセがスゴいネタGP』『爆笑ヒットパレード2023』(フジ系)の10番組に出演できるという。

単純計算で「年間出演番組が10本増える」というより、「面白ければ次も呼んでもらえる」「同じ局の別番組にも呼んでもらえる」「賞レースへの弾みがつく」などのさまざまな意味で芸人たちの期待値は大きく、5月という時期に開催される意義の大きさを感じさせられた。

近年、『ぐるナイ』(日テレ系)の「おもしろ荘」や、『さんまのまんま新春SP』(カンテレ・フジ系)の今田耕司おすすめ芸人コーナーからブレイクする芸人が減っていることもあり、『ツギクル芸人グランプリ』は千載一遇のチャンスではないか。

■敗退者に向けられるうれしい言葉

Aブロックは、サンミュージックのママタルト(漫才)、グレープカンパニーのTCクラクション(コント)、太田プロダクションのストレッチーズ(漫才)、マセキ芸能社のサスペンダーズ(コント)、ワタナベエンターテインメントのゼンモンキー(コント)の順にネタ披露。

ネタの披露後に出場者と審査員のコメントをはさまず、一気に5組を見せ切る構成はテンポがよく視聴者にとってはありがたい。しかし、芸人たちにとっては手応えがつかめない上に、審査員からのアドバイスを受けられず、物足りなさがありそうだ。

結果は、ストレッチーズが4票(渡辺、井上、テレ東小比類巻、フジ中川)、ママタルトが3票(増田、爆笑王、TBS浜田)、ゼンモンキーが2票(テレ朝舟橋、一般審査員)、サスペンダーズが1票(日テレ橋本)だった。

コメントを求められた日テレ橋本は、ファイナルステージに進出したストレッチーズに触れず、サスペンダーズを絶賛。「(自分の番組で)検討したいと思います」と言い切り、太田に「(ファイナル進出より)こっちのほうがいいんじゃねえか?」とツッコミを入れさせた。さらにテレ朝舟橋もゼンモンキーとサスペンダーズの敗退組をピックアップ。

彼らは「自分の番組で使いたい」と思わせるキャラクター、演技力、アドリブ力、舞台度胸などを見ているのではないか。一方、渡辺、増田、爆笑王らのコメントはネタの構成を重視している感が濃かっただけに、余計にそう感じさせられた。良い意味でも悪い意味でも「優勝すればいい」と言うわけではない、この番組らしさを感じさせられる。

続くBブロックは、ワタナベエンターテインメントのGパンパンダ(コント)、プロダクション人力舎の竹内ズ(コント)、タイタンのキュウ(漫才)、ホリプロコムのパンプキンポテトフライ(漫才)、グレープカンパニーのわらふぢなるお(コント)の順にネタ披露。

結果はGパンパンダが5票(増田、爆笑王、一般審査員、日テレ橋本、TBS浜田)、竹内ズが3票(渡辺、テレ朝舟橋、テレ東小比類巻)、キュウが1票(井上)、パンプキンポテトフライが1票(フジ中川)だった。

コメントを求められたTBS浜田は、『キングオブコント』の放送局としてコントを披露したGパンパンダを選んだことをにおわせ、フジ中川はパンプキンポテトフライの「山名さんを(自番組の)『ドッキリGP』でドッキリにかけたい」と語った。どちらも本人たちにとって最高のコメントであり、すぐに出演のイメージトレーニングをするのではないか。