テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第117回は、11日に放送されたTBS系バラエティ特番『史上空前!!笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ2020』をピックアップする。

「芸人をシャッフルし、一夜限りの新コンビを結成する」という挑戦的かつ伝説的なネタ特番が6年ぶりに復活。今回の出場メンバーには、ロバート・秋山竜次、オードリー、野性爆弾・くっきー!、サンドウィッチマン、霜降り明星、千鳥、チョコレートプラネット、ナイツ、バイきんぐ、ハライチ、南海キャンディーズ・山里亮太、渡辺直美(五十音順)とトップシーンで活躍する20人がそろった。

どんなコンビが結成され、どんなネタが披露され、最優秀コンビに輝くのは誰と誰なのか。

  • 『史上空前!!笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ2020』MCの松本人志(左)と浜田雅功

■フィーリングカップルに芸人の素顔

オープニングの映像は、TBSの社屋と「2020年2月23日」の文字。これは「出演者も観覧客もソーシャル・ディスタンスを取っていない」ことに対する申し開きだろう。ド真ん中のお笑い番組でもここまで配慮しなければいけないところに、新型コロナウイルスの深刻さが表れている。

続いて映し出されたのは、ダウンタウンのトークであり、事実上の前説と言っていいだろう。松本人志の「6年ぶり」という振りに、浜田雅功は「(不満げに)何で?」と乗ったが、松本は「いきなり番組批判ですか」と裏切りのボケで笑わせた。

さらに、松本は「ものすごく面白い人たちが集まっていますから、ものすごく面白いことになります」、浜田も「コンビが変わってもこんなに面白いのか」と畳みかけて出演芸人たちのハードルを上げまくる。会場は爆笑に包まれたが、ダウンタウンは「それくらい芸人たちが本気で挑んでいる特別な番組である」ことを伝えたかったのかもしれない。

映像は2週間前にさかのぼり、ツッコミとボケの各10人に分けてコンビを決める「お笑いフィーリングカップル10vs10」へ。「誰が誰を選んだのか?」「相思相愛のコンビはあるのか?」という興味の中、1人ずつマッチングしていくがなかなか決まらない。フラれる芸人が続出して不満げな顔を見せる一方、4人からの求愛を受けた若林正恭はうれしさを隠し切れない。

ところが若林が選んだのは、まさかのくっきー!だった。「10組の新コンビを決める」となれば間延びしそうなものだが、そんな意外性や「誰にも選ばれず最後まで残ってしまう」という恐怖がモロに伝わるからか、まったく問題なし。選ばれずに寂しげな顔、裏切りに失望した顔、見苦しい言い訳をする顔…どれもリアルでプライドがチラチラ見える。

結局、秋山竜次とノブ、西村瑞樹と伊達みきお、大悟と澤部佑、富澤たけしと土屋伸之、せいやと小峠英二、春日俊彰と山里亮太、岩井勇気と渡辺直美、松尾駿と粗品、塙宣之と長田庄平の順で新コンビが決定。長年、各種賞レースが続いているおかげで王者同士のコンビが3組もあり、さらに、くっきー!や渡辺直美ら個性派の化学反応にも期待できそうだ。

新コンビが決まったとき、放送時間は約40分が経過していたが、「1つのお笑い番組を見終えた」という満足感を得た人が多いのではないか。

■希少価値の高いネタ作りのドキュメント

いよいよドリームマッチがスタート。20人の芸人たちは全員、黒ジャージに身を包むことで、「どんなネタが行われるのか分からない」というワクワク感を身にまとっていた。はからずもノブが、「20年選手たちがちゃーんと緊張してます」とコメントしてきっちり笑わせる。このメンバーなら、その他にもカットされて見られなかった爆笑コメントが飛び交っていたであろうだけに、完全版もお金の取れるコンテンツになりそうだ。

抽選で決まった1組目は、大悟と澤部佑。ただ、いきなりネタを披露するのではなく、コンビが決まった直後から2人に密着してドキュメント風に見せていく。視聴者にとっては「コンビが決まったあと2人はどんな会話を交わしていたのか」「どのようにネタを作り、稽古しているのか」、希少価値の高いパートであり、醍醐味の1つとなっている。

順に見ていくと、10組のコンビがそれぞれ異なるパターンでネタ披露の日を迎える様子が描かれていた。

1組目は大悟がタバコを吸いまくり、飲み会で帰ってしまうなど、「相方の澤部を振り回す」というパターン。2組目は西村瑞樹と伊達みきおで、「通常ネタを作らない2人が苦労する」というパターン。3組目は、せいやと小峠英二で、せいやが前向きに「ふだんやらないコントに挑戦したい」というパターン。

4組目は秋山竜次とノブで、「仲のいい同期がなごやかに話し合いを進める」というパターン。5組目は塙宣之と長田庄平で、「最後まで残ってしまった微妙なコンビ」というパターン。6組目は富澤たけしと土屋伸之で、「漫才同士の正統派コンビ」というパターン。

7組目は岩井勇気と渡辺直美で、「東京とニューヨークの遠距離でネタ合わせができない」というパターン。8組目は松尾駿と粗品で、松尾が「頭を下げて漫才ではなくコントにしてもらう」というパターン。9組目は、くっきー!と若林正恭で、くっきー!が「強引にネタを決めて若林が巻き込まれる」というパターン。10組目は春日俊彰と山里亮太で、「フィーリングカップルの結果で立場の上下が決まった」というパターン。

リアルをベースにしつつ、10通りのパターンを見せて飽きさせない演出の技が光っていた。10組のドキュメント映像も、「もっと長いバージョンを見せてもらいたい」と思ってしまうのは、演者も演出家も素晴らしいからだろう。

■プライドを懸けたプロの戦いだった

かつてはネタ披露の機会が減った芸人が多かったが、今回のメンバーは現役バリバリをそろえただけに、過去の放送以上にしっかり練られていたし、動きの激しい熱演が目立った。もし「負けたくない」というプライドがそうさせたのなら素晴らしい。

ネタが終わるとすぐに結果が発表され、最優秀コンビに選ばれたのは秋山竜次とノブ。その瞬間、残り18人の表情に注目してみると、ホッとした顔よりも、悔しそうな顔が多かった。お祭りっぽい企画だが、やはりプライドを懸けたプロフェッショナルたちの戦いなのだ。

ただ、ネット上にあふれた「富澤・土屋コンビが一番よかった」「自分的には春日と山ちゃんの勝ち」「岩井と直美のネタが斬新だった」などの声を見れば、どのコンビがトップかはどうでもいいことなのかもしれない。

素の表情がこぼれるフィーリングカップル、ネタ作りのドキュメント、この日限りのネタ披露。すべて「ふだん見られないもの」という特番にふさわしいコンセプトが貫かれていることが分かるだろう。それは出演者にとって「しんどいけどやりがいがある」、視聴者にとって「新鮮で面白い」と感じる番組にほかならない。実際6年ぶりの放送は、番組平均視聴率の世帯15.2%、個人全体10.5%という結果にもつながっていた(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。

最後の「またの機会をお楽しみに」というテロップを見て思わずほほえんでしまったのは、私だけではないはずだ。現在の重苦しいムードを吹き飛ばしただけでなく、次回放送の楽しみも与える粋な配慮であり、「最低でも毎年1回は見せてもらいたい」と思わせる最高峰の特番だった。

そういえば、志村けんさんは第3回を除く9度にわたって審査員を務めたほか、その第3回も芸人として三村マサカズとネタを披露していた。今回のクオリティなら天国の志村さんも笑ってくれているのではないか。

■次の“贔屓”は…“山里×みな実×弘中”特番第2弾 『あざとくて何が悪いの?』

(左から)山里亮太、田中みな実、弘中綾香アナウンサー

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、17日に放送されるテレビ朝日系バラエティ特番『あざとくて何が悪いの?』(23:15~24:15)。

昨年9月に放送されて反響を集めたトークバラエティの第2弾で、山里亮太、田中みな実、弘中綾香アナウンサーが“あざとい男女”について毒気たっぷりのトークを繰り広げる。今回は視聴者投稿をもとに作られた“あざとい女ドラマ”に、松本まりか、柏木由紀が出演するほか、逆オファーで千葉雄大もトークに参戦するという。

前回の放送以降、山里亮太はMCを務める番組が相次いでスタートし、田中みな実の写真集はバカ売れ、弘中綾香は「好きな女性アナウンサーランキング」で初の首位に輝くなど、個人のパワーアップがめざましい。必然的により一層パワフルな番組になるのではないか。