テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第116回は、4日に放送された日本テレビ系バラエティ特番『天才!志村どうぶつ園 特別編』をピックアップする。

志村けんさんが亡くなったことで「最も影響を受ける番組では?」とウワサされる中、当初の予定から内容を変更し、追悼番組として放送するという。出演者もスタッフも視聴者も、いまだ気持ちの整理がつかない中、「パンくん」「ちび」らとの懐かしい映像はどんな反響を呼ぶのか。

04年4月の放送開始から16年が過ぎた春、思わぬ試練に見舞われてしまったが、今後の行方や追悼番組のあり方についても考えていきたい。


■動物は最高のコメディ・パートナー

志村けんさん

志村けんさん

番組冒頭、相葉雅紀が涙をこらえながら、「志村さんが亡くなられたことは信じられませんし、受け止め切ることができません。嫌です。悲しすぎます。志村さんの優しい笑顔が頭から離れません。僕たちは志村さんに教えていただいたことがたくさんあります。その1つ、いつもみんなを笑顔に。志村さんが安心してお休みしていただけるように、今日はみんなを笑顔にできるように頑張りたいと思います。よろしくお願いします」とコメントした。

スタジオには志村園長のパネルが飾られ、レギュラー陣はソーシャルディスタンスを空けて立っている。しかし、近藤春菜は「いつも通りのほうが園長も安心するんじゃないか」と語り、出演者全員がふだん通りの衣装を選んだことを明かした。

VTRのスタートは04年4月、志村園長が2歳のチンパンジー・パンくんに出会うシーンから。このあと約50分にわたってパンくんとのVTRが放送され、その間に何度かスタジオに戻って志村園長を偲ぶエピソードが語られていった。

その中には、「人間が相手なら『あいつより面白いこと言ってやろう』って考えるけど、動物とは勝負しない。だって敵わないから」という、志村園長が番組に臨む上でのポリシーも。コントでは用意周到な園長が「ほぼアドリブで臨んでいた」というから、いかに動物の面白さに信頼を寄せていたかがうかがえる。志村園長にとって動物たちは最高のコメディ・パートナーだったのかもしれない。

さらに、志村園長の提案で、「ステージの高さを上げて映像の臨場感を生み、出演者のテンションも上げた」「観覧客を飽きさせないためにADにも衣装を着せるなどセットチェンジの時間もショーにした」「レギュラーとゲストが収録前に前室で集まってしゃべり、大笑いしてからスタジオに向かうようにしていた」などの舞台裏も紹介。志村さんが健在なら語られないであろうエピソードを盛り込んだ構成は、追悼番組ならではだろう。

■「園長」の代わりがいない理由

その後、人間を怖がっていた捨て犬・ちびとの旅を約25分間ほど紹介したあと、VTRは再びパンくんに。志村園長による恋愛指南の甲斐あってか、パンくんは好意を寄せるポコちゃんとの恋を実らせ、プリンちゃんが誕生。おもちゃを買い与えて成長を喜ぶ様子は祖父と孫のようだった。

パンくんたちのいる阿蘇カドリー・ドミニオンの宮沢厚園長は「志村園長は全身全霊で全部のエネルギーを使って動物を愛してくださる。だから一瞬で動物が心を開く」とコメント。さらに、印象深いシーンとして、ロケが終わって帰ろうとする志村園長に寂しがったパンくんが駆け寄り、振り返って笑顔で抱きしめる姿を挙げた。その感動的な光景は追悼番組の最終VTRにふさわしく、「視聴者に涙を流して個人を偲んでもらいたい」という制作サイドの思い入れを感じさせる。

それにしても、志村園長とパンくんが見せた笑いは最高レベルのものであり、あらためてダイジェストで見ると、奇跡のような映像ばかりだった。いまだにこれを超えるコーナーはないのかもしれないし、それを作ることが出演者とスタッフの課題となるだろう。

最後は山瀬まみが涙をこらえながら、「今日スタジオに来たら『本当に園長いないんだ』と思って、『今日VTR見るの耐えられるかな』って思ってたんだけど、見てたら心が救われてた感じがありました。『会いたくなったらまた見よう』って思えました。せっかくこんないい状態を残してくれたんだから、あらためて『みんなでこれからも守っていきたい』って思いました。がんばろうね」とコメント。

相葉雅紀も「本当に園長の周りにはたくさんの愛があって、本当はもっとその愛情に包まれていたかったですけど、でも目を閉じれば園長がいるので、だから僕は前を向きます。みんなを笑顔にできるようにこれからも頑張っていきます」と涙ぐみながらも力強く語って番組は終了した。

今後も志村さんの遺志を継ぐ意味を込めて番組名を変えず、「園長」のポジションは空位のまま、事実上のMCに相葉がスライドする。その相葉は、志村園長が身につけていたピンクの番組スカーフを胸に収め、涙をこらえながら積極的に話を振るなど進行役を全うしていた。笑いの技術、人間的な器、動物への愛情など、志村園長はどう見ても代わりの効かない存在だけに「新メンバーを入れればいい」というわけではないだろう。

だからこそ、出演者とスタッフの頑張り時であり、番組を盛り上げることで志村園長に恩返ししていくのではないか。既存コーナーのスケールアップはもちろん、天国の志村園長が驚くような新コーナーにも期待したい。

■出演者と視聴者が故人を偲ぶお別れ会

最後にふれておきたいのは、追悼番組のあり方について。

志村園長が動物たちとふれ合うVTRが流れているとき、画面の左下に「放送当時のスタジオ出演者の楽しいリアクション音声も含めてご覧下さい」という文字が何度も表示された。「画面左上のワイプには現在スタジオに集まった出演者の顔が映されているが、音声は放送当時スタジオで録られたもの」という不思議な演出に驚いた人もいるだろう。

これは視聴者に「志村園長のVTRを見て思い切り笑ってもらいたい」という気持ちによるものであり、さらには「声をあげて笑う」などのリアクションが取りにくく、「嗚咽してしまうかもしれない」という出演者の心理状態に寄り添う演出だったのではないか。

VTRを受けてスタジオに戻ったあとのトークパートでは、じっくり話し込むシーンが多く、出演者たちが言葉に詰まっても編集せず、沈黙も涙もそのまま伝えていた。そんな彼らの姿を見て、思わずもらい泣きした視聴者は多かったのではないか。もともと追悼番組は“出演者と視聴者が一緒に故人を偲ぶお別れ会”という意味合いが強いだけに、「みんなで泣いて悲しみを分かち合おう」という制作サイドのメッセージを感じさせられる。

もちろん悲しむだけではなく、しっかり笑って、最後はやっぱり泣いてしまうけど、それでも優しい気持ちになれる…。今回の放送は、志村さんの笑顔とともに、そんな追悼番組のお手本として、私たちの心に残るものになった。

世帯視聴率は27.3%、個人視聴率は18.2%(いずれも、ビデオリサーチ調べ・関東地区)と追悼番組の中でもズバ抜けて高かったのは、志村さんと『天才!志村どうぶつ園』の持つ力に加えて、出演者とスタッフの思いが1つに重なり、視聴者の心に届いたからだろう。

■次の“贔屓”は…6年ぶり復活、重苦しいムードを吹き飛ばせ!『ザ・ドリームマッチ2020』

『史上空前!!笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ2020』の出演者たち (C)TBS

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、11日に放送されるTBS系バラエティ特番『史上空前!!笑いの祭典 ザ・ドリームマッチ2020』(19:00~21:54)。

「芸人をシャッフルし、一夜限りの新コンビを結成する」という挑戦的かつ伝説的なネタ特番が6年ぶりに復活。今回の出場メンバーには、ロバート・秋山竜次、オードリー、野性爆弾・くっきー!、サンドウィッチマン、霜降り明星、千鳥、チョコレートプラネット、ナイツ、バイきんぐ、ハライチ、南海キャンディーズ・山里亮太、渡辺直美とトップシーンで活躍する20人がそろった。

どんなコンビが結成され、どんなネタが披露され、最優秀コンビに輝くのは誰と誰なのか。そして、6年ぶりの復活でどんな変化があるのか。新型コロナウイルスの感染拡大で世の中が重苦しいムードで覆い尽くされる中、特大級の笑いに期待したい。

著者:木村隆志(きむら たかし)

コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。