テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第115回は、29日に放送されたABCテレビ・テレビ朝日系バラエティ特番『ポツンと一軒家 特別編』と『大改造!!劇的ビフォーアフター』のコラボをピックアップする。

昨年9月放送の『ポツンと一軒家』で紹介された築150年の古民家を『ビフォーアフター』で大改造するという。「番組史上最も危険」とも言われたほど山奥の一軒家をリフォームする前代未聞の試みであり、それだけでも制作サイドの志の高さを感じる。

「同じスタッフが関わっている」というコラボの背景こそあるが、人気番組や終了番組の活用方法を考えさせる興味深いチャレンジになるのではないか。

  • 『ポツンと一軒家』の林修(左)と所ジョージ

■オープニングで感動のネタバレ

オープニングのナレーションは、「今夜ついに実現!『ポツンと一軒家』と『大改造!!劇的ビフォーアフター』がタッグを組んだ夢の合体スペシャル!」。次に1分強にわたる映像で、この日の放送内容を紹介した。

気になったのは、その最後に「はたしてその結末は?」と振っておきながら、直後に依頼者の母が「もう本当に涙が出てきました…」と目を潤ませるシーンを映してあっさりネタバレしたこと。やはり感動を約束された、いい意味での予定調和を楽しむ番組なのだろう。

まずは『ポツンと一軒家 特別編』がスタート。昨年9月に放送した映像の再編だが、それでもグッと引き込まれるのはコンテンツの持つ力か。車ではなく歩いて登らなければたどりつけない断崖絶壁に立つ家、美しく輝く黄金色の茶畑、そこでたくましく生きる家族…どれも『ビフォーアフター』への期待感へスムーズにつながっていった。

スタートから約30分後、エンディングはなく、CMもはさまずに『ポツンと一軒家』はフェードアウト。ナレーションの声は『ちびまる子ちゃん』ナレーターのキートン山田と『Dr.スランプ』則巻アラレの小山茉美から、『サザエさん』磯野サザエの加藤みどりへ交代。フジテレビっぽい人選は別として、ロケーションは同じなのにナレーターの声だけで番組が切り換わったことを感じさせるのだから、声優の力はすごい。

『ビフォーアフター』が始まるとすぐに「物件313 物置になった家」の文字が表示された。すぐに映像はリフォームの匠・松永務氏が現れるカットに切り替わり、加藤翔輝ディレクターから「お久しぶりです」と声をかけられた松永氏は「あっ、『ポツンと一軒家』の人だ!」と笑顔でトボケる。2人は約4年ぶりの再会という。

このようにスタッフを軸にしたコラボ実現は、局を問わず十分ありえる話だろう。さらにその経緯を取り入れた構成・演出も、「テレビのウソ」に過剰反応しやすい現代の視聴者対策として合っている。

■どちらの番組か分からないほど

約15分が過ぎたころ、ようやくタイトルバックが映し出され、スタジオの所ジョージ、林修、菜々緒が登場。所は「不思議な感じなんですよ。(ともに『ポツンと一軒家』でMCを務める林修は)ゲストなんですよね?」と、いい意味での違和感を口にした。両番組がMCに所ジョージを選んでいるのは視聴ターゲット層が近いからでもあり、だからこそのコラボなのだろう。

古い一軒家からは、1円札や寛永通宝などの古いお金、明治時代の教科書、「陸軍 歩兵」と書かれた出征旗などの希少品が続出。依頼者の父親が天井に穴を開け、てきぱきと不用品を片付ける姿を見ていると、「今見ている番組は、『ポツンと一軒家』なのか、『ビフォーアフター』なのか」、分からなくなるほどシンクロしている。

その後も、家族は代々続くワサビ畑で収穫し、イワナやアマゴを養殖するなど、『ポツンと一軒家』を彷彿(ほうふつ)とさせるシーンがたびたび登場。山奥で生きる人々の生き様と笑顔、優しさと強さを感じさせることで、コラボの必然性を感じさせた。

リフォームが終了し、いよいよビフォーアフターを見せるシーンへ。10分超の時間を割いてリフォームのディテールを紹介したあと、画面全体に「佐藤家リフォーム費用 予算400万円 工事費2,022,700円 材料費258,800円 設備・照明費1,638,500円 合計3,920,000円(デザイン費含まず)」の文字が表示された。最後だけ「バン」と合計金額を出す形にうさんくささを感じてしまうが、そこは「バラエティだから」とスルーできるギリギリのラインか。

さらに、家族がリフォームに感動し、笑顔と涙がにじむシーンが約8分間映され、最後に生まれ変わった家で初めてのお客さんをもてなす家族の姿でVTRは終了。エンディングでは、スタジオの所が「これから『ポツンと一軒家』で行ったところの人が『ビフォーアフター』の人ですよねって言われかねない。このままいくと次の『ポツンと一軒家』は『ビフォーアフター』付きみたいな話になりますよね。その都度、言われると思うよ。断り方難しいよね。ディレクターが気つかうわ」と笑わせた。

■自局に留まらない他局とのコラボに期待

今回のコラボは、スタッフとキャスト、「家」というモチーフ、「人生と家族、笑顔と涙」を見せる演出、中高年がベースの視聴者層などの共通点が多く、まるで1つの番組のような一体感があった。

世帯視聴率は、『ポツンと一軒家 特別編』(18:30~)が11.1%、『大改造!!劇的ビフォーアフター』(18:57~)が17.2%を記録(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。コロナウイルスの感染拡大で報道番組が高視聴率を獲得する中、及第点の結果を得られたのではないか。また数字以上に、新型コロナウイルスの死者が多いと言われる高齢層に元気を与えるような貴重な番組だった。

コラボの形として今回は2番組のリレー方式だったが、出演者をシャッフルしたり、コーナーをミックスしたり、クイズ番組なら合計点を競ったり、トーク番組なら前後編にしたり、さまざまな形が考えられる。

最近は2つの番組をただ順番に並べた“見せかけのコラボ”こそ減ったが、ネットコンテンツという強敵がいる以上、人気番組同士や、かつての人気番組を絡めるなど、積極的なコラボでアピールしていくべきだろう。世の中全体が沈んだムードの今だからこそ、自局のみならず他局とのコラボを見せれば、日本中の人々に元気を与えられるかもしれない。

連ドラでは昨秋に『結婚できない男』(カンテレ・フジテレビ系)が13年ぶり、『時効警察』(テレビ朝日系)が12年ぶりに放送され、今春にも『ハケンの品格』(日本テレビ系)が13年ぶり、今夏にも『ドラゴン桜』(TBS系)が15年ぶりに復活するなど、干支が1周するほど以前の作品が掘り起こされている。

ドラマより時代の影響を受けにくいバラエティなら干支が1周どころか2~3周回るほど以前の番組を見直してみる手もアリだろう。「過去の遺産」なんて批判の声は気にする必要がなく、「1周回って面白い」「2~3周回って面白い」というコンテンツは各局の中に眠っているはずだ。『ビフォーアフター』の初回放送も18年前なのだから。

■次の“贔屓”は…2時間スペシャルで志村園長を偲ぶ 『志村どうぶつ園』

『志村どうぶつ園』園長の志村けんさん=日本テレビ提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、4日に放送される日本テレビ系バラエティ番組『天才!志村どうぶつ園SP』(19:00~20:54)。

志村けん園長が亡くなり注目が集まっていたが、当初の予定から内容を一部変更して放送するという。出演者もスタッフも視聴者も、まだ気持ちの整理がつかない中、「パンくん」「ちび」らとの懐かしい映像を含めた志村園長を悼む内容になるのではないか。

04年4月の放送開始から16年が過ぎた春、思わぬ試練に見舞われてしまったが、今後の放送についても言及があるかもしれない。