ケーブルカーは遊覧施設のように見える。しかし、ほとんどが鉄道事業法にもとづく鉄道路線だ。路線は固定され、車両も同じルートを単純に往復する。いつも同じ動きに見えるけれど、京阪電気鉄道が運行する男山ケーブルはある時期だけスピードが上がるという。

じつは2種類の速度で走る男山ケーブル(写真は京阪電気鉄道提供)

この話は、鉄道分野でも有名な向谷実氏(音楽プロデューサー、ミュージシャン、音楽館代表取締役社長)から伺った。

「京阪の男山ケーブルは、通常期と多忙期で速度が違うんです。(男山ケーブルのBGMを作曲したときは)上り用と下り用で違う曲にして、七五三用のバージョンも作りました。ドラマチックな音楽にして、だんだんと気分が盛り上がっところで到着するんです」

向谷氏は2007年から京阪電気鉄道の発車メロディを手がけている。すべての駅、列車種別ごとに異なるメロディを作り、列車種別ごとに「すべての停車駅のメロディをつなぐと一曲になる」というユニークな手法で話題になった。今年7月31日には、最新盤の『京阪電車発車メロディコレクション2013』が発売されたばかり。ここに、新曲として男山ケーブルの車内放送音楽が収録されている。

通常期と多忙期で速度が違うとはどういうことか。ジャケットの曲目リストを見ると、最初に男山ケーブルの曲がある。通常期の上りと下り、正月の上りと下り、七五三の上りと下り。演奏時間は……本当だ。通常期と七五三用は約3分。正月用は約2分で1分ほど短い。1分というけれど、3分を2分にするわけだから、かなりスピードアップしているようだ。

『京阪電車発車メロディコレクション2013』

男山ケーブル編は和楽器を使った雅(みやび)な雰囲気。所要時間の違いに合わせて演奏時間が異なるバージョンがある

一体なぜ、何のためにスピードを上げるのか、京阪電気鉄道に聞いてみた。

「はい。男山ケーブルは、通常速度モードと高速モードがあり、通常期と繁忙期で速度を変化させています。正月などの繁忙期にはお客さまが多くなり、運転速度を上げることで輸送力を向上させるためです」

男山ケーブルこと京阪鋼索線は、京阪本線八幡市駅に隣接したのりばから男山山上駅を結んでいる。営業キロは0.4km。男山山頂の石清水八幡宮への参拝客を輸送するために建設された路線だ。日本三大八幡宮の一社であり、元日に今上天皇が宮中から拝む儀式「四方拝」の対象でもある。初詣客も多く、男山ケーブルは大活躍する。

京阪電車の公式サイトでは、「標準所要時分(片道)は3分です」と書かれてある。しかし、初詣など利用者数が多い時期は「所要時分が2分程度」になるというわけだ。いや、初詣の時期に速く走るというよりも、「普段はゆったりと車窓を楽しんでいただくため、速度を落としている」と考えたほうが納得できそうだ。

男山ケーブルの速度は2種類、車内の音楽は3種類。一度乗ったことがある人も、もう一度、いや合計3回、異なる時期に乗って、速度と音楽の違いを楽しんでみよう。