連載「主婦が新聞読んで聞いてみた」では、商社出身のフリーライターで主婦の楢戸ひかる氏が、新聞を読んで疑問に思ったテーマを、主婦目線で調べて読者の方々と共有します。
夏前にギリシャの経済破綻があったが、あの時、日本の株価にはほとんど影響がなかったように感じられた。一方、中国の株価下落は日本の株式市場に大きな影響を与え、多くの株式銘柄が下落した。主婦としてはなぜ、ギリシャ危機は少なく、中国株の暴落がこれほどまでに日本の株価に影響するのか素朴な疑問を抱いた。そこで今回、中国経済に詳しい楽天証券経済研究所 マネージャー シニアマーケットアナリスト 土信田雅之さんに聞いてみた。
世界が中国に対して過大な期待
――どうして、日本はギリシャよりも中国から影響をうけるのでしょうか?
ギリシャと中国の違い。これに関しては、経済的な結びつきは一旦置いておいて、人間関係として捉えてみると整理しやすいと思います。
日本人にとっては、ギリシャよりも中国の方が身近なのでは? 距離的な近さはもちろん、同じ漢字を使うアジア民族であるなど、「心の距離」は近いですよね。
ここで、「そんな中国に対して、世界がどんなイメージを持っていたか?」というのが重要になってきます。結論から言うと、「こんなはずじゃなかった!」。
あれだけ人口も規模も大きい国ですから、「今後、中国は成長する。成長に伴って、中国の通貨、人民元も強くなる」というのが、大方の見方でした。「不動産バブルである」と言われていても「いざとなったら、政府が何とかするだろう」と思っていました。
――なるほど。日本から見ると心理的に近く、世界から見ると、中国への期待感が高かったわけですね。
そのイメージが、今、崩れてしまっている。「『(イメージの崩れた)新しい中国をどう見たらいいのか?』を整理している段階なので、マーケットが荒れている」と捉えるのが適切だと思います。
中国はなぜ"期待"を裏切ったのか?
――ここにきて、ガクンと株価が下がった、直接のキッカケは何だったのでしょうか?
キッカケは、8月の人民元切り下げです。「中国の成長に伴って、人民元は強くなるだろう」と思ったのに、いきなり切り下げてきたので、株価が下がりました。株価下落に対して政府が対策を打ったものの、それも後手に回った。
――それら一連の様子を見て「あら? 中国、大丈夫?」という印象を周囲が持ったと。
そうです。ここ最近の株価下落は、中国自体が変わったのではなく、「中国を見る、我々の視点が変わった」ということに起因していると私は考えています。もっとも、中国の景気減速は、1年以上前から、言われていた話ですが……。
人民元切り下げが意味するところとは?
――なぜ、今までは、中国の景気減速が注目されなかったのでしょうか?
中国は、今、成長構造を変える改革を進めています。漢字で書くと「新常態」で、「ニュー・ノーマル」と呼ばれています。日本が高度経済成長から安定成長になったように、今、中国も同じ局面を迎えています。今までは、政府主導で、鉄道などインフラにお金を使う「投資主導型の経済成長」でしたが、サービス業を成長させたり、付加価値をつけたりといった、「ゆるやかな安定成長」を目指す方向に、政府が経済の方針を切り替えたのです。
――「高度成長から安定成長に切り替えたので、経済成長率が落ちて当然だ」と?
「今は、経済構造を変えようとしている過程だから、景気減速もしょうがないよね」と思っていたのに、人民元が切り下げられた。それで「思った以上に、中国の経済状態は、悪くなっているんじゃないの?」と、多くの人が思ったということです。
なぜ、中国株の影響が、ここまで日本の株価に影響するの?
――では、中国の株価が落ちると、なぜ、ここまで日本の株価に影響があるのでしょうか?
日本の株式市場に参加している半分以上が、外国人です。「中国と日本。同じアジアという括りで、中国がダメなら、日本は大丈夫なのか?」と売られてしまった。
――中国と一緒に、日本も信用を失ってしまった?
それは、ないです。ただ漠然としたイメージで、細かい理由ではないのです。たとえば、フォルクスワーゲンはドイツ車ですが、例のディーゼル車の問題が起きて、「ヨーロッパの車は、本当に大丈夫なのか?」と、一瞬、みんなが漠然と不安になったと思うのですが、今回の場合は、それに似たイメージです。
――漠然としたイメージだけで、ここまで日本株の下げ幅が大きくなるものですか?
株価が大きく下がったのは、日本だけではありません。中国株の下落によって、全世界の株価が大きく下がったんですよ。
「世界の株式市場を眺めてみる」という視点でみてみると、ここ2~3年でいちばん利益が出ていたのが日本です。だから、売られやすかった。中国をキッカケにして、世界の株式市場が下がり始めた時に、「どこから、売っていくのか?」という話です。当然、利益が出ているところから売って行きますので、日本株の下げ幅が、大きくなってしまったんです。
なぜ、中国株に、ここまで世界経済が引っ張られてしまうの?
――全世界の株価が、そこまで中国に引っ張られちゃうのは、なぜなのでしょうか?
やはり、最初にお話したのが結論なんですよ。「こんなはずじゃなかった!」。つまり、中国に対しての「過剰な期待」ということだと思います。たとえば、原油や資源を産出する国は、「中国は、まだまだ成長する。中国の資源需要は、まだまだある」ということを前提に、設備投資などをガンガン行うなど、中国への「過剰な」期待を前提に、世界経済が動いていたということです。ですから、「あれ? 中国、大丈夫??」と思った瞬間に、世界経済の捉え方がガラリと変わってしまった。今は、中国に対する、世界の「過剰な期待」を修正している段階なんでしょうね。
「株価の過剰さ(『高い』も『安い』も)は、いつか適正価格に修正される」。こんな言葉を、株式運用のプロから何度か聞いたことがある。今、中国株については、そんな段階なのだろうなと思った。
今回の取材で、「証券会社のアナリスト」という職業の方に初めてお会いしたが、こんなにも明快にわかりやすい「解説」が聞けてスッキリした。新聞を読んでいるだけでは、中国株の暴落をキッカケに株価が荒れているのはわかるけれど、こういった背景まではわからない。
土信田さんは、今でも、学生時代のゼミの教授のもとに通い、中国について勉強を続けているそう。「中国は、とても興味深い国ですよ」と、楽しげに語ってくれた顔が、とても印象に残った。
筆者プロフィール: 楢戸 ひかる(ならと ひかる)
1969年生まれ 丸紅勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。メルマガ「主婦が始める長期投資」(メルマガ申し込みは、「主婦er」より)を書き始めて、視野の狭さを痛感。新聞を真面目に読もうと決意し、疑問点は取材に行く所存。