筆者は11~12月にかけて、世界最長の路線であるシベリア鉄道の全線走破にチャレンジした。今回から4回にわたり、シベリア鉄道をはじめロシアの鉄道の魅力を紹介する。

  • シベリア鉄道の099Э列車(ウラジオストク→モスクワ)、モスクワ・ヤロスラヴリ駅にて(写真:マイナビニュース)

    ウラン・ウデから乗った099Э列車(ウラジオストク→モスクワ)、モスクワ・ヤロスラヴリ駅にて

第1回目は、シベリア鉄道の車内とサービスにスポットを当ててみる。シベリア鉄道そのものは有名だが、車内やサービスはあまり知られていないように感じる。現代のシベリア鉄道の実態はどのようなものだろうか。

■列車を選択した時点でサービス内容が決まる

シベリア鉄道を詳しく見ていく前に、概要を簡単に確認しておきたい。シベリア鉄道はロシア極東のウラジオストクから首都モスクワまでを結ぶ全長9,298km(キロポスト)、世界最長の路線だ。ただし、2001年6月にモスクワ~キーロフ間がヤロスラヴリ経由からウラジーミル経由に変更され、全体的に40km短縮されているため、営業キロと実際のキロポストにはずれが生じている。

  • ウラジオストク駅で発車を待つノボシビリスク行の007Э列車

  • 「ノボシビルスク - ウラジオストク」と書かれたサボ

シベリア鉄道には数々の長距離列車が設定されている。最も有名な列車はウラジオストク~モスクワ間を結ぶ「ロシア号」、北京~モスクワ間を結ぶ国際列車「ヴォストーク号」だろう。他にもウラジオストク~ノボシビリスク間などの区間列車や、ウラジオストク~モスクワ間を走る名称が付いていない列車も存在する。

今回、筆者はウラジオストク~ウラン・ウデ間で007Э列車(ウラジオストク→ノボシビリスク)、ウラン・ウデ~モスクワ間で099Э列車(ウラジオストク→モスクワ)に乗車。クラスは2等を選択した。

シベリア鉄道を走る長距離列車の客室は、1等(2人用個室)・2等(4人用個室)・3等(開放型寝台)に大きく分けられる。日本国内を走っていた寝台列車と大きく異なる点といえば、予約時に設備やサービスが決められることだろう。

  • ロシア国鉄のホームページから

たとえば、099Э列車の2等車を選択した場合、トイレ設備(バイオトイレの有無)や新聞支給の有無などが選べる。もちろん、サービスを追加すればそれだけ料金は高くなる。また、飛行機と同じように料金は変動性になっており、同じ区間であっても列車によって料金は異なる。意外とシベリア鉄道はきめ細かい料金設定になっているのだ。

シベリア鉄道の長距離列車の予約はロシア国鉄のサイトから行える。発売は乗車日の60日前から。当日はロシア国鉄のサイトで発行されるEチケットとパスポートを車掌に見せるだけでよい。

■進化しているロシアの客車、新型車両も

シベリア鉄道に限らずではあるが、ロシアの客車は確実に進化している。ウラジオストクからウラン・ウデまで乗車した007Э列車は新型車両であった。下段は特急列車のようなつくりになっており、座席にした状態であっても乗り心地が良い。

  • 007Э列車は新型車両であった。2等は4人用個室となっている

  • シーツをセットすると写真のような状態になる。ベッド幅は十分だ

  • 頭当ての部分を開けると収納スペースになっている

  • サモワールから温水が出るため、紅茶やラーメンづくりに使える。サモワールの利用は無料

  • 「時刻・気温」と上段に表示されている(写真)。時刻はモスクワ時間での表記

頭を当てる部分を開けると棚になっており、洗面用具などを入れられるようになっている。個人的に最も役に立ったのが、テーブル下にあるプラグだった。車内にいながら、スマートフォンや携帯バッテリーが充電できたので、機械類のバッテリー容量を気にすることなく使用できた。

一方、ウラン・ウデからモスクワまで乗車した099Э列車は旧型車であった。基本的に旧型車であっても快適に過ごせるが、背もたれ部の出っ張りが就寝時に煩わしく感じられた。車内にプラグが設置されておらず、乗客は廊下にあるプラグから、延長コードを使って部屋でスマートフォンなどの充電を行っている様子だった。

  • 099Э列車は旧型車であった。就寝時に背中当てが意外と煩わしい

  • 099Э列車の廊下。プラグに延長コードが挿し込まれている

  • バイオトイレは清潔で、街中の区間でも使えた

シベリア鉄道の車内で意外だったのがトイレ。筆者が乗車した列車はいずれも予約時に「Bio toilet(バイオトイレ)」を選択したので、列車が駅に近づいてもトイレを利用できた。以前のロシア国鉄の車内トイレはいわゆる「ボットン式」で、街に近づくと閉鎖されたものだが、これも数年後には昔話になるのかもしれない。なお、トイレ自体は毎日、車掌が掃除するため、清潔だ。

■1日分の食事サービスと外国人向けの食堂車 

シベリア鉄道の旅で問題になるのが食事だ。筆者はいずれの列車も食事付きを選択した。部屋に入ると、車掌から食事のメニューについてロシア語で尋ねられた。007Э列車では「豚肉・鶏肉」、099Э列車では「カーシャ(ロシアでよく食べられる穀類を利用した料理)・ブリヌイ(ロシア版クレープ)」からの選択であった。

  • 食事サービスで提供されたカーシャ。日本にはない独特の食感をしており、素朴なロシアの味が楽しめる。なお、食事サービスは切符に含まれる

  • 朝になるとピロシキの車内販売がある。1個50ルーブル(約85円)。熱々のジャガイモ入りピロシキはおいしかった

食事が出るタイミングは原則として当日、乗車が夜遅い場合は翌日に出される。先ほど注文した料理とパン、サラミ、ドーナッツが入ったセットが渡される。これらの料理でなんとか1日分は過ごせるが、2日目以降は乗客自らが食料を調達しなければならない。

そこで乗客を助けてくれるのが食堂車だ。食堂車は9時から24時まで営業しており、お酒も飲める。筆者はボルシチ、ジャガイモとキノコの炒め物を注文した。スタッフからは「注文が出せるまで40分かかるが、大丈夫か」と聞かれたが、実際に食事にありつけたのは注文から1時間後のことだった。それでも、列車内で食べる温かい食事はありがたい。

  • 007Э列車の食堂車。食堂車は基本的に空いていたが、酔っぱらいが占拠していた時間帯もあった

  • 食堂車で食べたジャガイモとキノコの炒め物。これで452ルーブル(約770円)

  • 099Э列車の食堂車。こちらはシックな雰囲気であった

  • ブリヌイと紅茶。ブリヌイは200ルーブル(約340円)だった

  • 右側が099Э列車、左側は091/92列車(セヴェロバイカリスク~モスクワ)。バレズィノ駅にて

なお、季節柄のせいか、当局の取り締まりが厳しいせいか、停車駅での露店販売はほとんど見られなかった。シベリア鉄道に1日以上にわたって乗車する際は、食事を予約した上で、スーパーで食料をたっぷりと購入することをおすすめする。

■シベリア鉄道の車内でシャワーも利用できる

近年、シベリア鉄道では車内にシャワーも設置されている。007Э列車(ウラジオストク→ノボシビリスク)では、1等車(エスヴェー)にシャワー室があった。シャワー室は思いのほか広く、アイロン台まであった。ただし、石鹸やタオルはないため、自分で用意しなければならない。

  • シャワーがあることを知らせるポスター。利用の際には車掌に150ルーブル(約260円)を払う

  • シャワーは少量ながらお湯は出る。ただ蛇口が高いところにあるため、操作が難しい場合もある

シャワーからはきちんとお湯も出る。水量は少ないものの、体や髪の毛などを洗う分にはなにも問題はない。シャワー室を利用する際は車掌に申し出た後、150ルーブルを払う必要がある。ただし、シャワー室は基本的に1列車に1室しかないため、あくまでも補助的なものと考えたほうがいい。

なお、099Э列車(ウラジオストク→モスクワ)では、シャワーサービスを知らせるポスターはなかった。